藤井聡太七段(16)はタイトル戦初登場・初獲得の史上最年少記録を更新できるか?
2019年5月の終わりから6月の初めにかけて、藤井聡太七段は以下の3局を戦った。
5月28日 ●都成 竜馬五段(棋王戦予選決勝)
5月31日 ○菅井 竜也七段(竜王戦4組決勝)
6月3日 ●佐々木大地五段(王座戦本戦1回戦)
いずれも若手同士の死闘であり、見応えのある大熱戦だった。
藤井は竜王戦ランキング戦4組決勝で、菅井七段を千日手指し直しの末に降している。過去2戦2敗の難敵に勝ったことは、藤井のますますの成長ぶりを感じさせる。これから開幕する決勝トーナメントもまた、藤井の戦いぶりからは目が離せないだろう。
一方で、都成五段には棋王戦、佐々木大地五段には王座戦で敗れている。藤井のタイトル戦初登場、初獲得を期待する向きには、両棋戦での敗退は、厳しい現実と映ったのではないか。
藤井聡太は2002年7月19日生まれ。
2016年10月1日に、史上最年少の14歳2か月で四段となった。そこから無敗で公式戦29連勝という信じがたい大記録を達成したのは周知の通りである。
藤井は多くの最年少記録を更新しつつある。中でも特に、タイトル初獲得の記録については意識されることが多い。
屋敷伸之の最年少記録2つ
タイトル戦の番勝負に史上最年少で登場し、史上最年少で獲得したのはいずれも屋敷伸之(現九段)である。
屋敷は1972年1月18日生まれ。1988年10月、16歳で四段となった。
かつて棋聖戦は、年間2回のペースで開催されていた。1989年度後期に五番勝負がおこなわれる棋聖戦で屋敷四段は勝ち進み、中原誠棋聖(当時)への挑戦権を獲得。五番勝負第1局の時点で、屋敷は17歳(10ヶ月24日)の若さだった。これが現在にまで残る史上最年少記録である。この時の五番勝負では、屋敷は中原棋聖に2勝3敗で惜敗した。
翌1990年度前期の棋聖戦。屋敷はまたもやトーナメントを勝ち進んで、中原棋聖への挑戦権を獲得。五段で2度目のタイトル戦に登場した。そして今度は3勝2敗で、棋聖位を獲得。そのときの年齢もまた、18歳(6ヶ月14日)の若さだった。
以上2つ、屋敷が作った最年少記録は、その後30年にわたって破られていない。あるいは空前にして絶後の記録となる可能性もあった。
藤井聡太が屋敷の記録を更新できる可能性
平成の初めに打ち立てられた屋敷の大記録を、もしかしたら更新できるのではないか、という新鋭が平成の終わりに現れた。それが藤井聡太である。
藤井がもし2017年度の竜王戦七番勝負にまで登場していれば、第1局開始の時点で15歳3か月。もしストレートの4連勝でタイトルを獲得していれば、第4局終了の時点で15歳4か月だった。
それはさすがの藤井でも成し遂げられなかった。しかしながら、藤井が信じられないほどのハイペースで勝ち続ける過程で、史上最年少タイトルホルダー間違いなし、という雰囲気が少なからず作られたことは、疑いのない事実であろう。
藤井の通算成績は2019年6月5日現在、122勝22敗(0.847)。
それだけ勝っていれば、どこかの棋戦で星が集まって、番勝負への進出が実現しても、おかしくはなさそうだ。しかし現状は、そうはなっていない。藤井が喫した22敗のうち、15敗は、番勝負への進出を阻まれるものだ。
藤井は2019年6月5日現在で、高2の16歳。あともう少しで17歳になろうというところだ。
藤井が史上最年少のタイトル戦登場、タイトル獲得を達成するために、残された時間はどれぐらいあるのだろうか。筆者は表計算ソフトを使って、改めて調べてみた。
藤井は順位戦ではC級1組在籍中。A級まで昇級し、名人挑戦権を得て七番勝負に登場することができるのは当分先のことなので、それについては省略した。
いかがであろうか。残された時間と機会は意外と限られている。それが筆者の印象である。
タイトル戦(番勝負)初出場は、現在進行中の竜王戦なども含めて、おそらくはあと4棋戦。来年2020年の棋聖戦五番勝負第1局がもし今年と同じ6月4日頃なら、ギリギリ間に合う、というところだ。
タイトル初獲得は、あと7棋戦。2020年の竜王戦七番勝負が最後のチャンスとなりそうだ。2021年の王将戦七番勝負、棋王戦五番勝負では、おそらくはギリギリ間に合わない。
もしもこの先、藤井が屋敷の最年少記録を破れなかったからといって、藤井に対する評価が曇るわけではないだろう。とはいえ、多くの人から熱く注視されている事柄なのは間違いない。その可能性については、ここにメモとして残しておきたい。