新鋭・佐々木大地五段(24)、大熱戦を制して藤井聡太七段(16)に勝つ
2019年6月3日。王座戦挑戦者決定トーナメント1回戦・藤井聡太七段(16歳)-佐々木大地五段(24歳)戦がおこなわれた。結果は22時16分、139手までで佐々木五段の勝ち。佐々木は2回戦(準々決勝)に進出し、羽生善治九段と対戦する。
王座戦本戦トーナメントは、精鋭16人の棋士によって戦われる。
今期の王座戦は現在、1回戦が進行中。ベスト8が出揃いつつある。1回戦から好カードが目白押しで、藤井聡太-佐々木大地戦も注目の一番だった。
藤井聡太の2018年度の成績は45勝8敗(0.8490)。タイトル初挑戦、初獲得が待望されるにふさわしい、驚異的な数字である。しかしその道のりは、そう平坦ではない。
昨年、藤井は準決勝まで進んだ。そこで若手先輩格の斎藤慎太郎七段(当時)に敗れている。斎藤は挑戦者決定戦で渡辺明棋王(現二冠)にも勝ち、中村太地王座に挑戦。勢いに乗って、初タイトルを獲得した。
強い新鋭はひとり藤井聡太だけではない。
2018年度に46勝13敗(勝率0.780)の好成績を挙げた佐々木大地も、次代の将棋界を担うと目される大器である。勝利数では佐々木が藤井を上回り、最多勝利賞を獲得した。佐々木は直近では王位リーグに所属。3勝2敗で挑戦権を争うには一歩及ばなかったものの、最終戦ではトップを走る木村一基九段に勝って、リーグを盛り上げている。
藤井聡太と佐々木大地は過去に2回対戦。藤井1勝、佐々木1勝の五分となっている。
死力を振りしぼった名局
振り駒の結果、先手を得たのは佐々木。互いに飛車先の歩を突き進めていく相掛(あいが)かりの戦形となった。序盤戦から両者妥協せず、すぐに激しい戦いが起こる。局面は大きく動いたものの、形勢はバランスが取れたまま進行していき、ほぼ形勢互角のまま終盤戦に入った。
藤井は銀をただで捨てる華麗な攻めの順で、佐々木玉を追い詰める。佐々木がただのところに桂を成り込めば、今度は藤井は受けでただのところに銀を打つ。めくるめくような鬼手(きしゅ)の応酬が見られた。
手数が100手を過ぎるあたりで、わずかに抜け出したのは佐々木の方だった。セオリー通りに馬(成り角)を自陣に引きつけ、自玉を安全にしてから、2枚の龍(成り飛車)で藤井玉を追い詰めていく。
さすがの藤井も万策尽きたか。そう思われたところからまた見せ場を作るのが、藤井の終盤力である。複雑な終盤戦。時間のない佐々木は最短の勝ち筋を逃した。
「大丈夫か、おまえ?!」
解説を担当していた深浦九段は、愛弟子の佐々木の手を見て、思わずそう叫んでいた。藤井聡太に勝つのは容易なことではないことを、改めて思わせる
最後、佐々木玉は詰むや詰まざるや、というところまで追い込まれた。139手まで進んでみれば、ようやくはっきりした。佐々木玉は詰まない。
「お互いに死力をふりしぼった」
深浦九段がそう評するほどの大熱戦は、藤井が深く頭をさげて、幕がおろされた。
藤井のタイトル初挑戦は、またもや持ち越しとなった。藤井が何か大きなミスをしたというわけではない。勝った佐々木が強かった、というべきであろう。
佐々木はこれで2回戦(準々決勝)に進出。公式戦で初めて羽生善治九段と対戦することが決まった。
言うまでもなく、羽生九段は現代将棋界の第一人者である。通算勝数は1433勝で大山康晴15世名人に並び史上1位。あと1勝で単独1位となる。さらには王座通算25期目、全タイトル通算100期目などなど、さらなる途方もない記録も期待されている。
佐々木にとってはもちろん、羽生九段は大きな難関ではある。しかし現在の実力と勢いとをもってすれば、その難関を突破しても、何ら不思議ではない。
準決勝まで勝ち進めば豊島将之三冠(名人・王位・棋聖)-渡辺明二冠(棋王・王将)の勝者と対戦。さらにそこも勝てば、挑戦者決定戦で師匠の深浦康市九段と対戦する可能性もある。
藤井聡太七段ばかりが若手のタイトル候補ではない。佐々木大地五段の今後の活躍に注目したい。