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藤井聡太七段、千日手指し直し局を制して竜王戦4組優勝

松本博文将棋ライター
(画像撮影:筆者)

 2019年5月31日。関西将棋会館において竜王戦ランキング戦4組決勝、菅井竜也七段(27歳)-藤井聡太七段(16歳)戦がおこなわれた。

 10時に藤井七段先手で始まった対局は20時6分、91手で千日手が成立。

 指し直し局は20時36分から始まり、翌6月1日0時5分、藤井七段が勝利を収めた。

 藤井七段はこれで6組、5組、4組と3期連続での優勝を達成。同様のクラスでの3連続の優勝は、永瀬拓矢現叡王以来、2人目の快挙となる。

 またこれで、3期連続で竜王戦決勝トーナメントに進出。藤井七段は近藤誠也六段(5組優勝)ー梶浦宏孝四段(6組優勝)の勝者との対戦が決まっている。

注目の大一番

 竜王戦はランクの高い順から1組から6組まで存在する。この中から勝ち抜いた11人だけが、広瀬章人竜王への挑戦権を争う、決勝トーナメントに進むことができる。

 最高ランクの1組からは5人の進出枠が設けられている。5月30日にはその狭き枠の1つである1組3位の座をかけて、羽生善治九段と木村一基九段が対戦した。結果は激闘の末、木村九段の勝ち。前竜王の羽生九段は今期敗退が決まった。

 4組は中堅どころで、決勝トーナメントに進める枠は優勝の1つしかない。それでも1998年優勝の藤井猛(現九段)、2004年優勝の渡辺明(現二冠)が一気に竜王位までに昇り詰めたように、若手新鋭にとっては縁起のよい登竜門であるとも言える。

 今期の4組は、ともかくも3回戦(準々決勝)の▲中田宏樹八段-△藤井聡太七段戦が歴史的な名局だった。

藤井聡太七段、歴史的妙手で2018年度を締めくくる(2018年3月31日、松本博文)

https://news.yahoo.co.jp/byline/matsumotohirofumi/20190328-00119882/

 こうした一局を制したのであれば、おのずと運が開けそうというものだ。もちろん、勝てども勝てども、強敵は次々と現れてくる。藤井はこの後の準決勝では、高見泰地叡王(当時)と対戦し、そこでも勝って、いよいよ決勝進出となった。

 初タイトルが切望される藤井聡太七段とともに勝ち上がったのは、若手を代表する実力者で、元王位の菅井竜也七段。両者の対戦は、今期竜王戦ランキング戦の中でも、白眉の好カードと言えるかもしれない。これまでの対戦成績は、先輩の菅井が2戦していずれも完勝。藤井が「力の差を感じた」というほどに、先輩の貫禄を見せている。

 10時の対局開始を前にしておこなわれた振り駒では、藤井が先手番を得た。藤井といえば、振り駒には弱く、後手番を持たされることが多い印象があるが、この大一番では、貴重な先手番を得た。

 菅井のやや挑発的な序盤に対して、藤井は誘いに乗らず、穏やかに駒を進める。三間飛車に振った菅井は、ロマンあふれる、意欲的な指し回しを見せた。菅井が上手く手を作り、終盤では、いち早く藤井の本陣に迫る形を作る。

 菅井は金を打って藤井玉に迫る。対して藤井は受けに金を埋める。大一番だけに、互いに慎重になったか。金の打ち合い、取り合いが続き、91手で千日手が成立した。

 指し直し局は規定通り、30分後に始まった。先後を入れ替えて、今度は菅井が先手となる。菅井は中飛車から銀冠の堅陣に組んだ。対して藤井は中段に駒を押し上げ、好位置に角を配置して、菅井の玉頭から機敏に動いた。

 優位に立った藤井は、決断よく決めにいく。対して菅井は一瞬の間隙をついて、ただのところに桂を打つ鬼手(きしゅ)で勝負をかけた。余人であれば、いかにも震えて間違えそうなところだ。しかし藤井は臆せずに最強の手順で応じる。

 日付が変わった6月1日、0時5分。藤井が飛金両取りに打ち込んだ角を見て、攻防ともに手段なしと見た菅井が投了した。

 難敵の菅井竜也七段を降し、さらに勢いに乗る藤井聡太七段。7月19日の誕生日を迎えると、ようやく17歳となる。史上最年少でのタイトル戦初出場、タイトル活躍の期待は高まるばかりだ。しかし、竜王戦決勝トーナメントで待ち構える他の10人も、一騎当千の強者ばかりである。果たしてこの先、どうなることだろうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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