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藤井七段が平成最後の新人王に!昭和最後は羽生竜王、2人の軌跡を比較

松本博文将棋ライター
藤井聡太七段(18年8月、筆者撮影)

平成最後の新人王は藤井聡太

 2018年10月17日。藤井聡太七段と出口若武三段が対戦する第49期新人王戦七番勝負第2局がおこなわれた。結果は105手で藤井七段の勝ち。完勝といってもいい内容で、三番勝負を2連勝で制し、平成最後の新人王に輝いた。

 この日藤井は体調が優れなかったためか、対局中にずっとマスクをしていた。局後のインタビューではマスクを外し、いつも通りしっかりと受け答えをした。しかしその声は、よく聞き取れなかった。大勢詰めかけた報道陣のカメラのシャッター音が大きく、藤井の声がかき消されてしまったからだ。

 言うまでもなく、新人王戦は若手の登竜門である。将棋界の若手は、いつの時代もみな強い。新人王戦で優勝することは、決して簡単なことではない。

 今期、藤井がトーナメントで破ってきた対戦者もみな、楽な相手ではなかった。それでもこの結果だけを見れば「順当」と思ったファン、関係者が多かったのではないか。それほどまでに、藤井の実力は傑出している。

 現在高校1年の藤井の年齢は、まだ16歳2か月。何をしても同時に最年少記録が更新されるという感のある藤井だが、今回は1987(昭和62)年に森内俊之四段(当時)が作った17歳0か月という新人王最年少記録を31年ぶりに更新した。

 そして史上最年少七段の藤井は、段位が上がりすぎて新人王戦の参加資格を失うため、参加2期で、早くも新人王戦卒業となる。

昭和最後の新人王は羽生善治

 「史上最高の天才」とも言われる、現在16歳の藤井聡太。

 「史上最強の棋士」とも言われる、現在48歳の羽生善治。

 両者の軌跡を比較すると、多くの共通点を見出すことができる。たとえば平成最後の新人王が藤井聡太ならば、昭和最後の新人王は、羽生善治だ。

 1988年(昭和63)年の新人王戦決勝三番勝負は、前年優勝の森内俊之四段と、そのライバルである羽生善治五段が対戦した(段位はいずれも当時)。両者は当時、ともに18歳になったばかりだった。結果は羽生が2連勝で勝ち。昭和最後の新人王となっている。

 その後の羽生の軌跡については、周知の通りである。同じ88年度、NHK杯で加藤一二三九段に史上最高の妙手とも言われる▲5二銀を指し、加藤を含む歴代4名人を撃破して優勝した。

 元号が変わった1989(平成元)年度。羽生は竜王戦を勝ち進み、七番勝負で島朗竜王(当時)に挑戦し、竜王位奪取。19歳2か月で、当時の史上最年少タイトル獲得記録を打ち立てた(現在は2位)。以後、平成の三十年間に、99ものタイトル獲得記録を積み上げている。

 羽生は現在も竜王位を保持している。第31期竜王戦七番勝負で広瀬章人八段の挑戦を退ければ、タイトル獲得通算100期目。先日おこなわれた第1局では、羽生が底知れぬ終盤力を発揮して先勝した。

 羽生を追う天才である藤井聡太がこの後も、何らかの記録をいくつも更新していくことは、ほぼ間違いない。それでも羽生が築いた数々の大記録を超えるのは、容易ではない。藤井は羽生に、どこまで迫ることができるのか。

 そして、新しい元号となった来年以降。羽生善治と藤井聡太がタイトル戦の番勝負で対決するのは、果たしていつのことだろうか。

(文中敬称略)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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