アニメ劇場映画の興隆――定番アニメ映画の裏で幅広い作品が拓く多様性
夏休みが終わり、季節は秋になったがアニメ映画の勢いが続いている。その本数も増え続ける一方だ。その勢いを支えているのは名探偵コナンやドラえもんといった「定番アニメ」やピクサー・ディズニー系のCGアニメだけではない。(参考記事)
テレビで深夜に放送される作品から派生したものや、多様なオリジナル作品がこれまでにはなかった規模で公開され、一定の支持を集めていることがその背景にある。2019年で注目をあつめた作品だけでも以下の様なラインナップとなっており、もはやアニメ映画は夏休み・冬休みに「定番」の作品が公開されるものという認識すら改めた方が良い状況だ。
1月
『劇場版 Fate/stay night[Heaven's Feel]II.lost butterfly』/『ラブライブ!サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow』など
2月
『劇場版シティハンター 新宿プライベート・アイズ 』/『劇場版 幼女戦記』/『コードギアス 復活のルルーシュ』など
3月
『えいがのおそ松さん』など
4月
『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』/『バースデー・ワンダーランド』など
5月
『プロメア』など
6月
『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』/『海獣の子供』/『ガールズ&パンツァー最終章 第2話』/『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』/『きみと、波にのれたら』など
7月
『天気の子』など
8月
『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』など
9月
『HELLO WORLD』など
劇場アニメの制作費は、テレビアニメ(30分1クールで多くは2億円以上)より通常高くなる。大型作品ともなると10億円以上となることがあり、当然興行的には赤字となってしまっているケースもある。それにもかかわらず、なぜこれほどまでに定番以外にも劇場アニメが相次いで制作されているのだろうか。
一つはビジネスモデルの変化だ。2000年代に確立した深夜テレビアニメのビデオパッケージによる投資回収モデルは、2010年代にはインターネットの普及とそれに伴う視聴スタイルの変化によって成立しなくなっている。一方で、それに代わる存在として期待された、モバイルゲーム(いわゆるソーシャルゲーム)やライブといった二次的な収入も一部の例外を除いて頭打ちの状態だ。モバイルゲームについてはガチャ規制、ライブについては興行が行なえる劇場・会場に限りがあることが成長の足かせとなっている。
そもそも広告スポンサーがつくような時間帯には放送しない深夜アニメは無料放送で数多くのファンを獲得し、そこからのグッズ展開などの二次的な収入で投資回収を図るのが基本的なビジネスモデルだった。加えて現在では、配信サービスも充実し、放送に掛かる費用も押えることができるようになった。しかし、パッケージという大きな市場が失われつつあり、それに代わる収益源も確立されない中、このフリーミアムモデルは成立しにくくなってきている。
その一方で、いま急速に市場が拡大しているのが「配信」の領域。その要因はNetflixやAmazonなどの外資大手の進出によるものだが、「いつまでこのバブルが続くかわからない」と不安を漏らす関係者も多い。そんな中、「映画」に期待が集まるという状況が生まれているが、上のグラフのように全体に占める比率は大きくなく、また『君の名は。』のような大ヒット作品の有無に依存することにはなる。
しかし業界としては「映画」に期待せざるを得ない、という面がある。深夜アニメ=フリーミアムモデルが弱くなりつづけている、そして配信バブルもいつまで続くかわからない。であれば、劇場公開というファーストウィンドウで一定の収益を確保できる可能性がある劇場アニメに賭けてみよう、というのが実情だ。
またもう一つの事情として、人材の「払底」が挙げらる。多いときは年間300タイトル以上が放送されるなど、タイトルが増え続けた結果、いまそれだけのボリュームの映像を毎週の納品に追われながら作る人材を確保することが段々と難しくなっているのだ。現場にとっては、予算と求められるクオリティは高くなるが、2時間弱の作品を一本作る方がまだ現実的だ、という判断があっても不思議ではない。ジブリ映画、あるいは『君の名は。』のように世界的な大ヒットが期待できるかも知れない投資側の期待もある。また放送日が厳然と決まっている=番組表に穴を空けることはできないテレビに対して、多少であれば公開日を調整できる余地のある劇場の方がギリギリの状態にある現場にとっては、ありがたいという事情もそこにはある。
一見子ども向けに見える定番アニメも少子高齢化の影響を受けて、大人向けの味付けが加えられ、実は劇場には「大きなお友達」が足繁く通う。そんな「定番作品」との競争も繰り広げながら、「非定番」作品の挑戦は続く。ファンとしてはこれまでにない百花繚乱の劇場アニメを楽しめる時代になっており、毎クール多数制作されるテレビアニメに加え、日本のアニメの世界に類をみない多様性が広がる一因となっている。