今回のサイトブロッキングはやっぱり変だ

(ペイレスイメージズ/アフロ)

海賊行為は許されない。これは共通認識だと思う。

私自身、取材や実務を通じて、作品が生み出されるまで、膨大な労力と資金が注ぎ込まれているのを目の当たりにしてきた。これにタダ乗りする海賊サイトは、たとえ海外にサイトがあろうが、リーチサイトは違法性に問うのは難しかろうが、許すことはできない。

だが、今回のサイトブロッキングは、決定の過程と効果の両方に疑問が拭えない。

この疑念が決定的になったのは、知財本部・犯罪対策閣僚会議の座長を務める中村伊知哉氏のブログのこの一節だ。

本件は、事態を放置する責任と、ブロッキングを実行する責任(憲法問題や法的安定性)とが拮抗して下された決定と考えます。「現実の被害」に対する手当と、「未来への危惧」との調整です。後者の一番の当事者はISPですが、ISPは電気通信事業法上の通信の秘密を守る義務を負いつつ、海賊版サイトでトラフィックを稼ぐ商売をしており、微妙な立場です。

出典:海賊版サイトブロッキングの政府方針が出ました。(中村伊知哉) - 個人 - Yahoo!ニュース

インターネットの構造について、多少学んだものならば「え?」となるはず。言うまでもなく、インターネットプロバイダはトラフィックで稼いでいるのではなく、むしろコストとして負担しなければならない立場だからだ。

すでに、日本インターネットプロバイダー協会は、今回のサイトブロッキングについて反対の立場を表明している。政府が名指しまでしてブロッキングを促したにも関わらず、プロバイダーがそれに従わないという可能性も大きい。

緊急避難をやむなしとするのであれば、その根拠はしっかりとしたものが求められる。しかし、今回出版社・流通側から示されたデータも統計の観点からは不可解なものだ。上の記事で触れられている講談社の「コミックに限っても被害額は数兆円規模」という数字は、全国出版社協会が集計している紙と電子をあわせた数字(2017年で4,330億円)を遙かに上回る。電子流通大手のメディアドゥが示したグラフも、「海賊版サイト利用者数の増加時期と電子書店・出版社の売上げ減少の時期が近い」ということを根拠にしているが、因果関係を示したものとは言いにくい。

例えば、「進撃の巨人」のような大ヒット作の有無や、その登場頻度で市場規模や売上げは変動する。海賊版サイトの利用者が増えたから、マンガが売れないのだ、と結びつけるのは少なくとも緊急サイトブロッキングを肯定する根拠には足りないと筆者は考える。筆者は大学で講師も務めているが、仮に学生がこういうレポートを出してきたら、根拠が弱い、と評価せざるを得ない。

言葉を選ばずに言えば、このような「ずさんな」な認識と「あいまい」なデータをもとに、非公開の会議で「緊急避難」が決められたというのは、海賊サイトからコンテンツを守るどころか、彼らを利することにすらなりかねない。さらにいえば、この流れで仮にブロッキングが行われなかった場合に、「だから国による予防的・強制的な処置が必要なんだ」という方向に議論を向かわせる恐れすらある。それは出版社はじめ表現側の人間が全く望まない結果をもたらすことになる。

今後、タスクフォースで意見をとりまとめ、法制化への道筋を定めるということだが、ただでさえ、データや記録の取り扱い方が問われているなか、まずは現状の「正しい」データと認識を再確認・再共有し、その議論の過程はオープンにしてもらう必要がある。サイトブロッキングではなく、国内の広告主・代理店に対する出稿の取り下げやCDNに対する要請など、より妥当な手法を取ることも改めて検討されるべきだ。

#なお来週、海賊サイトを巡る問題をこちらのイベントで徹底的に議論する。リンク先を見て頂くと分かるように、今回の問題に早くから異議を唱えている楠氏をはじめ、反対派・慎重派の登壇者が中心となっている。出版社や審議会メンバーの方々にも登壇を呼びかけているが、いまのところ下記の中村氏からの検討という連絡以外、参加という回答は得られていない。

「反対派・慎重派ばかりの議論」ではなく「賛成派・推進派が、なかなか議論の場に出てこない」という現状があることも指摘しておきたいと思う。