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なでしこジャパンは2連勝でノックアウトステージへ。総力戦で臨む優勝候補、スペイン戦

松原渓スポーツジャーナリスト
2連勝でグループステージ突破を決めたなでしこジャパン(写真:ロイター/アフロ)

【流れを決めた試合の立ち上がり】

 理想的な試合運びだった。

 女子W杯、グループステージ第2戦のコスタリカ戦で、日本がコスタリカに2-0で快勝し、ザンビア戦(5-0で勝利)に続く2連勝。

 その後に行われたスペイン対ザンビアの結果(スペインが5-0で勝利)を受けて、4大会連続のグループステージ突破が決まった。

 コスタリカは、カウンター狙いが明確だったザンビアとは違い、システムや戦い方を柔軟に変えるチームだっただけに、なでしこジャパンは相手の戦い方を複数想定して試合に臨んでいた。

 スタメンは初戦から4人を入れ替え、3バックの一角にDF三宅史織、ボランチにMF林穂之香、左ウイングバックにMF杉田妃和、シャドーの位置にMF猶本光が入る3-4-2-1でスタート。

「コスタリカが守備を固めてきた時にミドルシュートを打てる選手など、いろいろなことを想定した中でコンディションと戦い方を考えて、初戦から入れ替えました」

 池田太監督がそう話したように、入りは相手が守りを固めてくることを想定して入った。だが、初戦でスペインに敗れたコスタリカは、思いの外、アグレッシブにボールを奪いにきたのだ。

「相手は3-4-3みたいな形で来ると思っていましたが、4-2-3-1で、想定より前から(ボールを奪いに)来ました。でも、始まってすぐに気付きました。ベンチの声を含めて、ピッチの中で声をかけ合って時間をかけずに対応できたと思います」

 そう振り返ったのは、DF熊谷紗希だ。三宅の言葉も、全員が同じ考えを共有できていたことを裏付ける。

三宅史織
三宅史織写真:ムツ・カワモリ/アフロ

「自分が誰とマッチアップするのか、攻撃時にどの選手のスペースが空くのかは(相手が)4-2-3-1(という情報)で大体把握できました。みんなでしっかりと準備してきたからこそ、空いているところが分かりました」

 この素早い対応力が、試合の流れを決めた。前半15分、FW田中美南のパスを受けた猶本のシュートはGKに弾かれてゴールとはならなかったが、25分に、同じ形からゴールが生まれる。

 三宅のパスを中盤に降りて受けた田中から、左サイドを駆け上がった猶本にパスが通る。猶本は一瞬顔を上げると、左足を一閃。GKダニエラ・ソレラの手を弾いて強烈なシュートが右隅に決まった。

猶本光のW杯初ゴールで先制
猶本光のW杯初ゴールで先制写真:ロイター/アフロ

「本当にナイスボールが出てきたので、シュート練習と同じような感覚で打つ事ができました」という猶本は、これが記念すべきW杯初ゴールとなった。

 さらに、その2分後に追加点が生まれる。左から流れてきたボールを、右サイドでMF藤野あおばがキープ。相手をかわしてペナルティエリア内に進入すると、密集したゴール前にパスを入れず、GKが開けたわずかなニアのスペースを打ち抜いた。

 この藤野のゴールがW杯史上最年少記録を塗り替えるゴールとなり、日本が勢いづく。

藤野あおば
藤野あおば写真:ロイター/アフロ

 ダブルボランチのMF長谷川唯と林がテンポ良くパスをつないでゲームを組み立て、攻撃をスムーズに展開。藤野がドリブルで相手を引き付け、両ワイドの杉田とDF清水梨紗が攻撃に厚みを加え、決定機を増やしていった。

 後半はコスタリカが反撃の姿勢を見せる中、池田監督もFW植木理子、MF宮澤ひなた、MF清家貴子、MF長野風花、DF守屋都弥と攻撃的なカードを切りながら3点目を狙いにいった。しかし、日本は守備のラインをそこまで上げずにリスクマネジメントを徹底。危なげない試合運びで、2-0のまま試合を終えた。

【試合ごとに増す一体感】

 ここまでの2試合は、理想的な流れだ。ゴールを決めた6人の選手のうち、MF遠藤純以外の5人(宮澤、田中、植木、藤野、猶本)はW杯初出場。緊張に押しつぶされそうになっている選手や、暗い顔をしている選手はおらず、誰もが大舞台を楽しんでいるように見える。

 2戦ともに先発した清水は、この試合の前にこう話していた。

「点が決まった時に、ベンチも含めて喜び合うところはすごくいいなと。あれが、チームの現状を示していると思います」

ゴールを全員で祝福する
ゴールを全員で祝福する写真:ロイター/アフロ

 それは事前に決めていたことではなく、自然とゴールした選手の下に集まるようになったのだという。ベンチメンバーもゴールの瞬間は全員でピッチ際に飛び出してハイタッチを交わす。

「本当にありがたいですね。チームメートに感謝したいです」

 猶本は、自分のことのようにゴールを喜んでくれた仲間の姿を思い出し、しみじみと言った。

 この試合は5つの交代枠を使い切り、チームの経験値を上げられたことも収穫だ。2試合ともにフル出場したのは熊谷と長谷川とDF南萌華、GK山下杏也加の4人のみ。フィールドプレーヤー20人のうち18人がピッチに立った。

 守備は、熊谷を中心に危ない場面はほぼなく、攻撃は誰が出てもコンビネーションが生まれている。田中が1ゴール2アシスト、遠藤が1ゴール1アシスト、藤野が1ゴール1アシストと、前線の選手が結果を残している。

 田中は、「周りが得点してくれると、自分もさらに生きる。いい関係性ができてきているのかなと思います」と、バランスよく得点が生まれていることをポジティブに受け止めていた。

 一方、セットプレーからのゴール(PKを除く)はまだ一つもない。試合の中では相手の裏をつく様々なトリックプレーを見せており、ゴールの匂いはする。

「相手が臨機応変に対応して(攻撃を)封じてきたときに、違う手があることは強みだと思っています」と指揮官が言うように、ここから先のステージでは、セットプレーが一つのキーになりそうだ。

田中美南と池田太監督
田中美南と池田太監督写真:ロイター/アフロ

【第3戦の相手は優勝候補、スペイン】

 日本は第3戦のスペイン戦に勝てば、1位通過となる。得失点差でスペインが上回っているため、引き分け以下だと2位。ベスト16で対戦するグループAは混戦で、対戦相手は読めない。ただ、「本当に1試合1試合、目の前の試合にフォーカスしてやっているので、勝ち進んだ中で相手を考えるようにしています」と長谷川が言うように、まずは目の前のスペイン戦に全力を注ぐ。

 FIFAランク6位のスペインは、強度も、戦術的な練度も、ザンビア(77位)やコスタリカ(36位)とはまったく違う相手だ。バロンドールを2年連続で受賞した世界的スターのMFアレクシア・プテラスやMFアイタナ・ボンマティを筆頭に、頭脳派・技巧派のMFが揃い、前線には得点力のあるストライカーが揃っている。アルゼンチンとのデビュー戦でハットトリックを決めた19歳のFWサルマ・パラルエロは、陸上の400m走と400mハードルで18歳以下のスペイン記録保持者。2試合とも5つの交代枠を使い切り、フィールドプレーヤー18人を起用した。今大会の優勝候補の一角だ。

スペイン女子代表
スペイン女子代表写真:ロイター/アフロ

 日本は育成年代では何度も対戦しているが、A代表では一度も勝ったことがない。だが、チームとして完成度を高め、1試合ごとに自信をつけてきた今の日本なら、勝利の可能性はあると思う。

 今大会はチームのサポート体制も充実しており、データや分析を含めた情報戦も熾烈を極めそうだ。準備期間は4日間。

 熊谷は「過信することなく一つ一つ戦って、本当の勝負はここからだよね、と再確認したいと思います」と、言葉に力を込めた。このステージを乗り越えれば、チームはさらに大きく成長できるはずだ。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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