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優勝へのカウントダウンを支えるFW清家貴子の勝負強さ。残り3試合でキャリアハイ更新なるか

松原渓スポーツジャーナリスト
勝利後のガッツポーズでチームの士気とスタジアムのボルテージを上げる(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【多彩なパフォーマンスで攻撃を牽引】

 弾ける笑顔と力強いガッツポーズとともに、スタジアムのボルテージが最高潮に達した。

 WEリーグ第19節。首位の浦和はホームの浦和駒場スタジアムに千葉を迎え、3-0で快勝した。17節の東京NB戦(△2-2)、18節INAC神戸戦(◯2-1)でライバルを引き離し、この勝利で自力優勝に王手をかけた。

 ここまで20試合中17試合を戦い、ゴール数はリーグトップの40得点。毎試合のように二桁のシュート数を叩き出す浦和の攻撃的なサッカーは、スタジアムの熱量にも表れている。

 中でも、直近の3試合ですべてのゴールに絡み、チームに勢いを与えているのが背番号11のFW清家貴子だ。

 圧倒的な脚力を活かした抜け出しと力強いシュート、トップスピードに乗りながら、味方の足下にパスを合わせる技術。バネを活かしたヘディング、そして得点後の歓喜の咆哮。多彩なパフォーマンスでサポーターを楽しませ、結果も出している。

 千葉戦では2ゴール1アシストの大活躍。セットプレーから2得点を決め、3点目は右サイドを突破して、中央を駆け上がったMF猶本光に絶妙のクロスを合わせた。

爆発的なスピードでチャンスを創出する
爆発的なスピードでチャンスを創出する写真:長田洋平/アフロスポーツ

 今季9ゴール目で、得点ランクは3位タイに浮上。2015年に記録したキャリアハイのゴール数に並び、試合後、清家は「やっと過去の自分に並んだという感じです」と、口元を緩めた。

 たしかに、数字上は8年前と「並んだ」ことになる。だが、チーム内での立ち位置やゴールを決めたシチュエーション、アシスト数などを鑑みれば、同じゴール数でも、その価値は以前とは違って見える。

 2015年のアシスト数はゼロだったが、今季は「7」。これは猶本の「8」に次いで、FW菅澤優衣香と並ぶチーム2位タイの数字(筆者調べ)だ。

 「生かされる」立場から、「生かす」側にも回れるようになったということだろう。その理由としては、2019年から3シーズン、サイドバックとして経験を積んだことも大きいと思う。

「サイドはスペースがあるので、スプリント力で違いを見せたり、走りで会場を沸かせられる楽しさがあった」と、清家はその経験をポジティブに振り返っている。今季は1列ポジションを上げ、サイドバックとして磨いた強みをゴールに直結させている。

 また、今季はペナルティエリアの外から強烈なシュートも決めている。その背景には、チームメートのFW安藤梢秘伝のシュート練習の成果があるようだ。

 また、今季、I神戸と東京NBとの4試合で2ゴール4アシストを記録していることからも分かるように、大一番の勝負強さも今季の「違い」だろう。そのことについて聞くと、清家は一つ間を置いてから、こう答えた。

「自分が点を取りたい気持ちはもちろんあります。でも、まずは『チームとして勝ちたい』という気持ちがあって、その中で自分が今日も活躍したんだな、という感じなので、(ゴールを狙って)そこまでガツガツ行っている感じはないですね」

 その言葉に、長い年月を共にしてきた仲間とチームへの信頼が感じられた。

 楠瀬監督は、「前線から果敢に追うようになって、後ろの選手も狙いどころがわかるようになってきた」と、守備の成長がチームに好影響を与えていることにも言及している。

 リーグ戦も終盤に差し掛かり、ハードワークを続けてきた疲労は溜まっているはずだ。だが、WEリーグ初タイトル奪取に向けた準備は抜かりない。タイトルから遠ざかっていた時期を知る清家は、今のチームの強さについてこう語っている。

「先制されても、自分たちが得点しても、やるべきことを最後まで貫き通す力やメンタル的な部分は、去年や一昨年に比べて成長していると思います。以前は先制された時に焦ってしまうところがあったのですが、やるべきことをやれば点が取れる、という自信がついてきました」

【初のW杯メンバー入りへ】

 今年7月にニュージーランドとオーストラリアの共催で開催されるワールドカップに出場することは、清家にとって一つの目標だ。2019年以来、代表候補の一角に名を連ねてきたが、ワールドカップやオリンピックには縁がなかった。

ワールドカップ出場に向けてコンディションを上げている
ワールドカップ出場に向けてコンディションを上げている写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 今年1月の囲み取材で、「昨年の男子ワールドカップで印象的だったこと」について質問された際、清家が挙げたのは、ドイツ戦での日本代表の堂安律(SCフライブルク)のゴールだった。

「堂安選手のカットインからのゴールは素晴らしかったですし、ドイツ相手に決めたのもすごかったですが、試合後のインタビューで、『あそこは自分のゾーンだったので』と、はっきり言い切れることがすごいなと思いました。自分もそこまで言い切れるほどの努力をして、ああいう大舞台で結果を出せたらかっこいいなと思ったんです」

 池田ジャパンでは出場機会こそ限られているが、アウェーで強豪国との差を目の当たりにし、自身の感覚をアップデートしてきた。だからこそ、国内の頂点が見えた今も自身のプレーに満足はしていない。

「ドリブルで持ち込んでのシュートだったり、個の仕掛けの部分は出せていないのかなと思うので、そういうところはもっと磨いて、出していきたいと思います」

 残り3試合もこれまで同様、清家は厳しいマークを受けるだろう。その逆境をどう跳ね返すのか。WEリーグ初タイトル、そして6月のワールドカップメンバー発表に向けても、カウントダウンが始まっている。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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