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なでしこジャパンがポルトガルに逆転勝利!中3日でワールドカップメンバー発表前最後のデンマーク戦へ

松原渓スポーツジャーナリスト
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

【ポルトガルに逆転勝利】

 欧州遠征中のなでしこジャパン(日本女子代表)が、4月7日にFIFAランキング21位のポルトガル女子代表と対戦し、2-1で勝利した。

 会場は、ポルトから車で約1時間のギマラインスにあるエスタディオ・D. アフォンソ・エンリケス。

 4月のポルトは観光シーズン真っ盛りだが、街から車で1時間も走ると、こぢんまりとした芝の練習場や歴史を感じさせるコンパクトなスタジアムが点在し、子どもたちがボールを蹴っている風景も見られた。

1万人近いサポーターが熱い声援を送っていた
1万人近いサポーターが熱い声援を送っていた

 サッカーはポルトガルの国技だ。著名な選手といえば、ルイス・フィーゴ、ルイ・コスタらかつての黄金世代や、クリスティアーノ・ロナウドのような大スターもいる。

 深い赤と緑のユニフォームに身を包んだポルトガル女子代表は、そんな選手たちに象徴されるテクニックやダイナミックさも併せ持ったチームだった。

 男子はFIFAランク9位で、女子は21位。大陸間プレーオフでワールドカップ出場権の最後のひと枠を勝ち取った。メンバーは国内組がメインで、3分の1以上が国内のベンフィカに所属し、代表経験の豊富な選手もいる。ランキングも実績も日本が上だが、着実に力をつけてきているポルトガルは、本大会に向けた強化において不足のない相手だった。

ポルトガル女子代表
ポルトガル女子代表写真:ムツ・カワモリ/アフロ

 日本は今回の遠征で、「ゴールまでの崩しの質を上げること」をテーマに臨んでいる。また、池田監督は「選手の組み合わせとかポジションの配置も含めて見てみたい」と、3バックでチームの幅を広げるオプションも探っている。

 その言葉通り、ポルトガル戦では最終ラインにDF三宅史織とDF南萌華と、もう一人はディフェンスリーダーのDF熊谷紗希ではなく、DF宝田沙織が入った。3トップには、2月のアメリカ遠征は不参加だったFW田中美南、FW猶本光が起用された。

【3-4-3の守備と試合の締め方に課題】

 3-4-3のシステムは、流動的なポジションチェンジを得意とする選手が多いなでしこジャパンにとって攻撃面のメリットが出やすい。だが、守備はまだ安定しているとは言えない。この試合では、これまで見えなかった守備面の課題が表面化した。

 高い位置からプレッシャーをかけてもボールを奪いきれない場面が目立ち、奪ってもすぐに失う場面が目立った。そして、徐々に流れを掴み始めた前半25分、相手のロングボールから、ワンチャンスを生かされる形で失点を喫してしまう。

 ボールの奪い方が曖昧だったことは、失点につながった要因の一つだ。中盤で攻守のタクトを振るMF長谷川唯は、「3-4-3の時に、右と左、どっちでボールを取るかもっとはっきりしないといけないと思った」と振り返る。

 結果的に選手間の距離が遠くなり、ゴール前でFWが孤立。自陣に張り付いていた相手の両サイドバックをうまく引き出せなかったことも、攻撃をノッキングさせた。「ボールを持たされている」状態になり、田中は「アクションしづらかった」と明かす。

 センターバックの南と三宅は、失点の場面で1対1の対応や判断の修正点を口にしていた。いずれも2月のアメリカ遠征では出てこなかった課題であり、ワールドカップに向けてはプラス材料と捉えたい。

 日本は失点直後にもピンチを迎えたが、この場面をGK山下杏也加のファインセーブで切り抜けると、35分に試合を振り出しに戻す。MF杉田妃和のスルーパスを受けた田中がワンタッチでゴール前に鋭いクロスを送り、長谷川が詰めて1−1。得意の形で崩し切り、嫌な流れを断ち切った。

山下杏也加
山下杏也加写真:ムツ・カワモリ/アフロ

 後半は選手間の距離を修正し、日本ペースで試合を進めた。右ウイングバックで代表デビューとなったDF守屋都弥が積極的にサイドを駆け上がり、猶本は前線で積極的に足を振る。MF藤野あおばはボランチの長谷川とMF長野風花の中央で流動的に動きながら積極的にゴールを狙い、相手に脅威を与えた。

 53分には、長谷川のロングパスから田中がGKペレイラの逆をついて逆転。日本はその後も攻撃の手を緩めることなく、FW岩渕真奈とFW植木理子を投入し、3点目を狙いに行った。

長谷川唯の同点ゴールと田中のゴールで逆転勝利した
長谷川唯の同点ゴールと田中のゴールで逆転勝利した写真:ムツ・カワモリ/アフロ

 池田監督は77分に、両サイドにDF清家貴子とMF宮澤ひなたのスピードスター2人を投入し、システムを4バックに変更。

 センターバックの南が左サイドバック、サイドバックのDF清水梨紗が三宅とセンターバックを組み、ウイングバックの守屋がポジションを下げて右サイドバックにスライドする形で、代表では初めて見る4バックの並びだった。ただ、これは事前に準備(練習)していたわけではなかったようだ。

後半は交代起用や4バックへの移行など活発な動きを見せた
後半は交代起用や4バックへの移行など活発な動きを見せた写真:ムツ・カワモリ/アフロ

「相手が前線3枚を置いてきたので、我々も4枚にしてバランスよく守備をするのが狙いでした」と池田監督は試合後に狙いを明かしている。ただ、機能していたとは言い難かった。相手のマークは明確になって良くなった面もあるが、ボールを奪うポイントを見つけることができず、押し込まれる時間が続いた。

 その中で、なんとか粘ってリードを守り抜いた。池田監督は、「ギリギリのところで粘って勝利につなげる経験値になった」と総括。守備陣も同じように、チャレンジした中で「失点しなかったこと」を前向きに捉えた。一方、アタッカーは守備に追われて良さを出しきれず、消化不良に終わった選手もいただろう。

 ワールドカップで戦う強豪国は一つのミスも見逃してはくれない。そう考えると、大会まで4カ月を切っている中で、オプションを増やしすぎることはリスクもありそうだ。長谷川は、「4-4-2になったときに、個々がどういう守備をするかという個人戦術も含めて準備しておかないと難しいのかなと感じました」と、表情を引き締めた。

【遠征の収穫はオフザピッチにも】

 内容面では課題も多い試合となったが、クロスから多くのチャンスを作ったことは一つの収穫だったと思う。

 長谷川、杉田、清水ら海外組のキックの飛距離や精度が上がり、国内でプレーする藤野や守屋もクロッサーとしての可能性を示した。WEリーグで得点ランクトップタイと好調の藤野は、個で局面を打開する場面が何度もあった。

藤野あおば
藤野あおば

「海外に比べてWEリーグはスペースがなく、カバーの選手も近い距離にいるので、その中でゴールを取るための選択肢や判断を突き詰めてきました」というように、常にゴールへの最短距離を意識してプレー。海外勢の間合いを意識してシュートレンジも広げているようだ。

 また、1対1のシーンでは、長野や南が相手を弾き飛ばすシーンが見られた。日本ではファウルになりそうな強さだが、海外の基準ではファウルにならないことも多い。そうした基準が上がり、球際の強さが増しているのは頼もしい。

 ポジティブな要素はオフザピッチにも見られる。食事はこれまで横一列の黙食だったが、ようやく円卓での会話が解禁されたのだ。

「円卓のメンバーは毎回変わって、どのテーブルも盛り上がっていて、コミュニケーションの質も上がったと感じます」(長野)

「いろんな選手とコミュニケーションを取れて、いい時間を過ごせています」(三宅)

 なでしこジャパンは、試合翌日の8日に移動し、中3日で11日にデンマーク女子代表と対戦する。デンマークはFIFAランク15位。ワールドカップ出場経験もあり、組織力も高い。その相手に、守備を修正し、立ち上がりから流れを掴むことができるか。ワールドカップメンバー発表前最後の試合となるだけに、個々のアピールにも注目したい。

 試合は日本時間12日(水)1:00にキックオフ。NHK BS1で生中継される。

*表記のない写真は筆者撮影

(取材協力:ひかりのくに)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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