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無失点、3連勝で決勝トーナメント進出のリトルなでしこ。準々決勝で待ち受けるのは宿敵スペイン

松原渓スポーツジャーナリスト
U-17日本女子代表(C)2022 FIFA

 インドで行われているU-17女子ワールドカップは、21日からノックアウトステージに突入した。前回大会準優勝のメキシコ、3位のニュージーランド、4位のカナダがグループステージで敗退。一方、全カテゴリーでW杯初出場のタンザニアが決勝トーナメントに進出し、ナイジェリアが初のベスト4に進出するなど、アフリカ勢の躍進が光る。

 日本はグループステージでタンザニア、カナダ、フランスに3連勝。初戦はやや硬さが見られたものの、タンザニアに4-0で勝ち、第2戦はカナダに4-0で快勝した。3戦目はフランスに先制した後、反撃に耐える時間帯もあったが、粘り強く守って2-0。3戦連続のクリーンシート(無失点)を達成した。登録選手21名全員が出場し、7人の選手がゴールを決めるなど、選手層の厚さも示した。

 連動したハイプレス、粘り強い守備からテンポの良い攻撃ーーなでしこジャパンやU-20代表とも共通するコンセプトを体現し、4-4-2と4-2-3-1のシステムを併用しながら、体格差のある相手を翻弄した。現地紙(「Goa Times」)でも日本の活躍はスポーツ面の一角を占めた。「規律と結束を持ったチーム」「一方のサイドからもう一方のサイドに簡単にボールをパスし、必要に応じてテンポを遅くできる」といった内容で、ゲームコントロールも含めて注目されているようだ。

現地でもその戦いぶりが注目されている(C)2022 FIFA
現地でもその戦いぶりが注目されている(C)2022 FIFA

 狩野倫久監督は、「試合内容にはまだまだ改善点がある」としつつも、1試合ごとに守備が粘り強くなっていることに手応えを示す。「多くの選手が試合に出て、それぞれの特徴を出して得点を奪えたことはチームにとっては100点に近い数字だと思います」と賞賛した。

 代表活動は時間が限られているため、国際大会では多くのチームが主軸を固定して戦うが、狩野監督は試合ごとに半分近く先発を入れ替えている。中2日、3日の連戦だが、選手たちの表情に疲れの色はまだ見えない。

 現地紙が、「特に多くの人々の心を掴んだ選手」としてスポットを当てたのが、ボランチのMF谷川萌々子だ。168cmと高さがあって視野が広く、両足で同じぐらい質の高いキックやシュートを蹴ることができる。グループステージは3試合に先発し、3戦連続ゴール。初戦はインスイングの技ありフリーキックを決め、2戦目はドリブルで大胆に切れ込んで右足でねじ込んだ。3戦目は相手陣内中央あたりから左足で矢のようなミドルシュートを決めた。

 好調の要因は、ピッチ外にもあるようだ。

「周りの選手とうまく繋がっているからこそ自分の良さが出ていると思っています。日常のオフの時間でも『自分がこうしたいからこう動いてほしい』とたくさん要求し合っています」

 フランス戦後には、「試合前にデ・ブライネ選手の映像を見て、あの角度からいける気がするな、と思っていたんです」と、イメージ通りだったことを明かした。海外サッカーもよく見て参考にしているようで、プレーのスケールの大きさにも納得がいく。

 谷川に限らず、選手たちからは海外サッカー選手の名前がよく挙がる。どんな選手やプレーを参考にしているか聞いた時の回答は以下の通りだ。

「ファン・ダイクのステップワークや正確なフィード、クリスティアーノ・ロナウドのヘディング」(DF楠さやみ)

「ノイアーのキック、迫力のあるシュートストップ」(GK岩崎有波)

「パウ・トーレスの攻撃的なプレー」(DF古賀塔子)

「グリーリッシュや、デ・ブライネのライン間でのボールの受け方」(MF柴田瞳)

「イニエスタの周りを生かすプレーや仕掛け、ボール奪取」(MF眞城美春)

「メッシのドリブル」(FW松永未夢)

それぞれに武器を磨いてきた
それぞれに武器を磨いてきた

 今回のリトルなでしこは、15歳から17歳までの3学年で構成されたチームだ。それぞれがドリブルやキック、スピードやシュートストップなど、特長を複数兼ね備え、全員が最低2つ以上のポジションでプレーできる。サッカーIQの高さを感じさせる選手が多く、普段からハイレベルなサッカーを「観る」習慣があることも理由なのだろう。

 狩野監督はその「個」を生かすことを重視している。

 年齢が上がるにつれて、海外勢とのフィジカル差が大きな壁になり、国際大会で苦戦するーーその壁を乗り越えるべく、育成年代から「能動的に奪いにいく守備」や「シュートチャンスを逃さず、決め切る力」を高める取り組みをしてきたという。

 その成果を、ノックアウトステージでも存分に発揮してほしい。

 日本は、準々決勝で前回大会王者のスペインと対戦することとなった。これまで育成年代のワールドカップでは3度、決勝戦を戦ってきたライバルである。

 スペインの女子A代表は、直近の10年でFIFAランキングが17位から6位に急上昇した(日本は現在11位)。成長スピードは育成年代にも及んでいる。8月にコスタリカで行われたU-20ワールドカップの決勝では、日本が1-3で敗れて悔し涙を飲んだ。今回のU-17代表には、U-20ワールドカップを戦ったメンバーと同じチームに所属する選手も多く、「自分たちが借りを返したい」と、強い思いを口にしている。それもあってか、スペインとの対戦にネガティブな印象はなく、むしろ心待ちにしているようだ。

 キックオフは日本時間10月22日(土)23時30分。ハイレベルな攻防が予想される今大会屈指の注目カードだ。スタジアムの大歓声を背に、宿命のライバルを破って次のステージへと進みたい。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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