堅実補強でなでしこリーグ2部優勝を狙うスフィーダ世田谷FC。昇降格がなくても順位にこだわる理由とは?

世田谷区からなでしこリーグを盛り上げる(写真:keimatsubara)

【新戦力と共にスタイルを強化】

 7月18日、待望のなでしこリーグがいよいよ開幕する。

 来年秋に女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が新設される関係で、今季はなでしこリーグ1部と2部、およびなでしこリーグ2部とチャレンジリーグ間での自動昇降格や入替戦が行われない。

 そのため、各チームは勝ち点差や得失点差にあまりこだわらず、様々なことを長いスパンで捉えてチャレンジできる側面もあるだろう。

 だが、東京都世田谷区を本拠地とするスフィーダ世田谷FCの川邊健一監督は、今季は順位がより重要になると考えている。

「なでしこリーグから今年何チームがWEリーグに選ばれるかによって、来年のなでしこリーグ1部、2部の編成が変わってくると思います。WEリーグとなでしこリーグ(1部・2部)は独立リーグになるので何チームがなでしこリーグ2部から1部に入れるのかはわかりませんが、少なくとも自分たちは来年なでしこリーグ1部に入らなければいけないと考えています。その為にも、例年以上に順位は重要であり、新加入選手たちにはそう伝えた上で加入してもらいました。うちもプロリーグ参加を目指していないわけではないですが、現実的にはコロナ禍もあり、参入を希望するのか様子を見るのかは様々な要素を考えた上でフロントが決定します。少なくとも現場レベルとしては、WEリーグ参入に手を挙げなかった場合や手を挙げても選ばれなかった場合に、なでしこリーグ1部に入る為にも、今季の順位はすごく大事だと思っています」

 WEリーグに参入を希望するクラブは今年7月末の最終申請までに申し込み、その後、8月、9月の審査を経て、今秋に参加クラブが発表される予定だ。なでしこリーグに加盟していないチームでも審査で認定されればWEリーグに参加できるため、現状では来季のなでしこリーグの編成はまったく読めない。だが、今の1部のチームがWEリーグに多数参加した場合、2部のチームが繰り上げで1部に昇格する可能性を考えると、順位は俄然重みを増してくる。

 スフィーダは2012年にチャレンジリーグ(当時の2部)に昇格して以来、1部昇格を目指して今年で9年目になる。直近の2年間は18年が8位、19年は7位と下位に沈んでいるが、川邊監督は内容的には積み上げている手応えを口にする。

 敵陣の深い位置でボールを奪って、素早くゴールに迫るーー今季は、追求してきたスタイルを強化するための堅実な補強をした。

 昨季、1部で戦ったMF樫本芹菜とMF奈良美沙季、MF瀬野有希の3名を獲得。前線には2部からの移籍で173cmの長身FW堀江美月が加わった。

川邊監督は新加入選手への期待も口にする(写真:keimatsubara)
川邊監督は新加入選手への期待も口にする(写真:keimatsubara)

「基本的には高い位置で奪ってショートカウンターを狙っています。前に進める選択肢があるはずなのに、ボールを失いたくないから簡単に下げてしまうようなプレーはやめようと、普段の練習からバックパスは禁止することが多いですね。そういう方向づけをしながら、チームとして同じ絵を描けるようにしています。奈良は左足のキックの精度が相当高いし、堀江は高さと得点力がある。樫本、瀬野は中でボールを納めて散らせる選手です。技術も経験値もあり、自分たちが目指すサッカーを実現するために必要な選手たちにオファーを出して、来てもらいました」

 ボールを取られないことやミスを恐れるのではなく、「あえて相手にボールを持たせて奪いにいくこともある」と、昨年取材した時に川邊監督は話していた。そのスピード感に精度が加わり、今季はフィニッシュまで行く回数が増えるかもしれない。

 コロナ禍で活動自粛期間中はオンライン会議ツール「Zoom」を利用したトレーニングに加え、走りやステップのメニューを配る形で個々に委ねていたという。6月2日の練習再開後は、ケガや個々のレベル差を考慮してトレーニングの時間や強度を落とし、「徐々に練習の負荷を上げて順を追って戻していきました」と川邊監督は話す。

 

 取材をした6月末、あいにくの雨だったが練習に励む選手たちには活気があった。

 その中でも、樫本が周囲に積極的に声をかけてコミュニケーションを取り、瀬野は積極的なプレーでゴール前に飛び出していくなど、新加入選手たちの力がしっかりと融合しつつあるように映った。また、国内外でプレー経験を持つ元なでしこリーガーで、歌手の肩書も持つ石田美穂子コーチの声かけも、練習に良い緊張感を与えていた。

【23区出身クラブの強み】

 スフィーダは2001年に世田谷区で立ち上げたチームだ。当時、同区の小学校女子サッカーチームで活動する選手達は進学する際、地域に中学年代の女子チームがないことから、周囲からの強い期待もあり、立ち上げに大きく関わったのが川邊監督である。そして、現在では中学生年代のジュニアユース、高校生年代のユースのほか、小学生年代からママさんチームまで総勢170名に上る大きなクラブになった。

 

 関東圏は、他の地域に比べてサッカー少女の受け皿になるクラブが多いが、スフィーダのジュニアユースのセレクションは毎年120名前後の申し込みがあるという。

 今季、スフィーダは26名中、下部組織出身の選手が9名に上る。女子単独チームとしてはトップクラスの数だ。

 スフィーダの活動は様々な地元のスポンサーに支えられており、練習着にも複数の協賛企業名が並んでいた。スポンサー企業は選手たちの雇用先にもなっており、日中はスーパーマーケットの「サミット」やドラッグストアの「Tomod’s(トモズ)」に勤めている選手が多い。

サミットのスフィーダ応援コーナーには選手の旗やポスターなどが貼られている(写真:keimatsubara)
サミットのスフィーダ応援コーナーには選手の旗やポスターなどが貼られている(写真:keimatsubara)

 世田谷区内のいくつかのサミットにはスフィーダ応援コーナーが設置され、店内で応援歌が流れている。また、ケーブルテレビのJ:COMではスフィーダ世田谷FC応援番組「100%スフィーダ!」を放送するなど、支援の形はバラエティに富み、地域に愛されていることが伝わってくる。

「企業が多くて、支援してくださるところがたくさんあるのは東京のチームの強みだと思います」

 川邊監督はそう話し、コロナ禍でも変わらない各スポンサーの支援に感謝を込める。

 スフィーダは今年、クラブ創設から20年目を迎える。GMや監督、コーチなど、様々な立場でチームに携わってきた川邊監督は、「一番上を目指す中で、チームの基盤を作るために僕はここにいます」と語った。1部昇格を成し遂げた先にスフィーダがどのようなビジョンを描くのか、興味は尽きない。

【若いチームを後方から支える精神的主柱】

 在籍6年目となるセンターバックのDF原志帆は、ピッチ内外でチームを支える精神的主柱だ。キャプテンとしても3年目になる。昨年は左膝蓋腱炎で5月から長期離脱を強いられたが、リハビリを終えて今年2月に復帰した。

 

 カバーリングとコーチングに長け、最終ラインからチームをコントロールする主将について、川邊監督は「人格者で誰からも慕われるし、彼女を中心にチームがまとまってきた面もあります」と厚い信頼を口にする。

原志帆(写真:keimatsubara)
原志帆(写真:keimatsubara)

 チームに笑いをもたらすムードメーカーだが、ピッチに立った時は冷静なリーダーシップを発揮し、練習の雰囲気を引き締めていた。

 活動自粛期間中は練習が夜から午前中に変わったが、原は職場から帰宅してストレッチなどの時間が確保できるようになったという。コンディションはかなり良さそうだ。守備の要として駆け引きで大切にしていることや、キャプテンとしての役割をこう語る。

「チームとしてより高い位置で奪うことを狙っているので、前の選手を動かすコーチングを大切にしています。相手にパスを出させて狙ったところで奪いきることや、一列前の選手を動かして自分のところで奪うための微調整をしています。学生や若い選手が多いチームなので、乗っているときはチームの調子が上がるのですが、試合中は失点した後などに感情の波が出てしまうことがあるので、声で励ましたり、積極的にチャレンジできるような声かけをしています」

 練習中はポジションが近い選手と身振り手振りを交えながら声をかけ合い、休憩時間は新加入選手の聞き役に徹する場面も目にした。川邊監督同様、これまで積み上げてきたものと、今年の戦力に手応えを感じているようだ。

新加入の樫本とじっくり話す場面も(写真:keimatsubara)
新加入の樫本とじっくり話す場面も(写真:keimatsubara)

「今年はロングフィードの精度が高い選手が増えたので、一気に逆サイドに展開したり、一発で裏を取れるチャンスが増えそうです。チームとしてはなるべく前でボールを奪ってからの速いカウンターで点を取りたいですね。これまでは前で奪えてもシュートが決まらなかったり、決まらなくて苦しい時間が続く中でぽろっと失点して負けることがあったので、ゴールをいっぱい取るサッカーができたらいいなと思います。個人としては、コーチングに磨きをかけながら、奪った後は落ち着いて前に運べるようにしたいです」

 今季、スフィーダは7月19日の開幕戦で、FC十文字VENTUSとアウェイのNACK5スタジアム大宮で対戦する。優勝を目指すために負けられない一戦となる。