なでしこリーグ2部、ちふれASエルフェン埼玉が魅せる3年目の“七変化”に注目

コロナ禍では専用グラウンドで練習ができた(写真提供:ちふれASエルフェン埼玉)

【3年目の飛躍なるか】

 開幕まで1カ月を切ったなでしこリーグ。埼玉県飯能市を練習拠点とする2部のちふれASエルフェン埼玉は、今季の優勝候補の一角だろう。

 昨年は、シーズン開幕前に、1部で実績を積んできた選手が9名加入した。その中には、なでしこジャパンや年代別代表歴を持つ選手の名前もあった。Jリーグの下部組織などで20年近くの指導歴を持つ菅澤大我監督の練習方法が、カテゴリーを超えて多くの選手を惹きつけ、それが口コミでじわじわと広がっていった。

参考記事

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「1部で戦えるチーム」へーーなでしこ2部エルフェン、菅澤監督が示す手応え。リーグ女王との共通点とは?

「強いチームは引いても勝てるし、蹴っても勝てる。ベレーザ(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)はどんな戦い方をしても勝てるチームだと思います。そこを目指していますが、今の我々にそんな力はないので、守備で耐える時間をどうしのぐのか、といったことも戦略的に楽しめるような、いろいろな手段を持ったチームにしていきたいですね」(菅澤監督/2019年1月)

菅澤大我監督(写真提供:ちふれASエルフェン埼玉)
菅澤大我監督(写真提供:ちふれASエルフェン埼玉)

 共通認識を持たせるため、戦術やプレーモデルを提示して「正解」をはっきりと示すこともあれば、選手のプレーを観察し、その失敗から新たな引き出しを作るように促すこともある。

 相手の逆を取る面白さを伝え、個々の新たな可能性にアプローチし、成長のきっかけを与える。そうすることで、「『楽しみながら勝つ』感覚を身につけて欲しい」との思いもあるという。

 しかし、昨年のリーグ最終順位は3位で、昇格圏内の2位以内(1位は自動昇格、2位は入替戦)に2年連続で勝ち点わずか「1」足りず、涙を飲んでいる。

 一方、昨年の夏以降は、成績も右肩上がりのカーブを描いた。戦い方が安定した中で、各選手がプレーの幅を広げてきた成果だと言えるだろう。

 春から夏にかけて開催されたリーグカップでは、敗れはしたものの、初の決勝戦に進出した。そして、最大のトピックが12月22日の皇后杯準決勝だった。リーグ女王で、代表選手が揃う日テレ・ベレーザと対戦したエルフェンは、激しい雨の中で延長戦までもつれ込む激戦を演じ、ジャイアントキリングまであと一歩と迫った。守りに徹することなく力強くボールをつなぎ、華麗な崩しで女王から奪ったゴールは、エルフェンの魅力的なサッカーを多くの人に印象づけた。

 今年も、選手の顔ぶれは多彩だ。エルフェン一筋で14年目を迎えるFW薊理絵や、リーグで250試合以上出場しているFW荒川恵理子、GK福元美穂、MF上辻佑実といった代表歴を持つ選手たちを筆頭に、中堅にはDF高野紗希やDF木下栞をはじめ、技巧派が揃う。若手にはMF長野風花、GK浅野菜摘といった現在のなでしこジャパン候補選手もいる。

 選手の多くはグループ会社のちふれホールディングスに勤務しており、練習は夕方から始まる。専用のクラブハウスとグラウンドを持ち、なでしこリーグの中でも恵まれたこの環境が、コロナ禍ではアドバンテージになった。

「当初は仕事の後にそれぞれ一人で夕方か夜に走りに行っていたんですが、うちは専用のグラウンドがあるから、この環境をフルで生かしてやってもらうことにしたんです。選手の勤務先は川越工場と飯能工場とそれ以外の関連企業に分かれていて、プロ契約選手を合わせると4つのグループに分けられるので、それぞれ時間ごとに区切って練習をしていました。その後、3グループ・2グループと段階を踏み、活動再開後の6月2週目からは全体活動を再開しています。ですから、選手たちのコンディションは悪くないと思いますし、個人戦術とかグループ戦術も伸びたと思います」

 クラブハウスの監督室には、作戦を立てたり、フォーメーションを確認する際に使用するホワイトボードが大小合わせて5つあり、その壁には、グループごとの練習内容がびっしり貼られていた。個々に参考になるプレー動画を渡すこともあり、菅澤監督が試合を見たり映像編集をする時間は、一日7時間近くになるという(しかも倍速で見るそうだ)。

 練習は頭を使うメニューが多く、「ホール」、「コネクト」、「根元」といった独特のキーワードが飛び交う。また、複数のシステムを使い分けるため、新加入選手にとっては、ベースとなる動きや立ち位置を理解し、習得するまでに時間がかかる。

 菅澤監督は、就任3年目の今季の見どころをこう話す。

「昨年(就任2年目)の最初の頃は、一年目で積み上げたものがある中で新しく入ってきた経験のある選手が戸惑ったり、草食系の選手たちの中に肉食系の選手たちが加わった事で、難しいこともありました。今はそういうことに対する免疫ができたと思うし、今年は、新しい選手が数名加わった中でスムーズにやれています。

 選手たちに口頭で『勝て』と言ったことは一度もないんですが、もちろん優勝を目指しています。こういう(取材の)時だからこそ言っておこうと思います(笑)。今年はもっと(ペナルティ)エリア内に入っていく回数を増やしていきたいですね。複数のポジションができる選手が揃っているので、一つの試合の中でもいろいろな並び方ができるし、4、5通りぐらいのシステムで戦えるので、そういう七変化を楽しんでもらえればと思います」

【世代間をつなぐ技巧派サイドバック】

 システムを様々に変化させるエルフェンのサッカーで重要な役割を担ってきた一人が、右サイドバックのDF高野紗希だ。在籍した過去5シーズンは、リーグ戦全試合(90試合)に出場してきた。

 大胆なオーバーラップやインナーラップで攻撃に厚みを与え、ゴールに直結するプレーも魅力だ。薊と縦のラインを形成する右サイドは、対戦相手の脅威となる。

 今年は、2年ぶりに背番号10をつけることとなった。

 トップ下や中盤の選手がつけることが多いエースナンバーだが、エルフェンのサッカーにおけるサイドバックの重要性を考えれば、違和感はない。菅澤監督は同ポジションに必要な資質について、5つを挙げている。「絶対的な技術を持っていること。数的優位を作れること。ラストパスが出せること。シュートを決められること。守備能力が高いこと」だ。

 高野と、左サイドバックのDF木崎あおいが元々は中盤の選手で、ボランチの適性を持っていることも、それらの条件を満たす重要なポイントだろう。2人の共通点について、菅澤監督は「ワンタッチで(相手の狙いを)外せるし、急所を突くような感覚を持っている」と語ったことがある。

高野紗希(写真提供:ちふれASエルフェン埼玉)
高野紗希(写真提供:ちふれASエルフェン埼玉)

 コンバートされて3シーズン目を迎える高野は、サイドバックとしての自身の色についてこう話す。

「もともと攻撃の選手なので、サイドバックというポジションには捉われていませんでした。ドリブルが得意なので、自分で仕掛けたり、仲間を生かしてアシストしたり、ゴールも目指せるポジションだと思っています。中盤だった時に比べてスプリント回数は多くなりましたね。

 いろいろなプレー映像を参考にしていますが、基本的には攻撃面に注目して観ることが多いです。点も取りたいし、ラストパスも出したい。サイドバックですが、中盤でプレーする意識でゲームメイクに関わるようにしています」

 今年は、キャプテンにも指名された。年齢的には中堅に当たるが、経験のある選手も多い中で、どのようなキャプテン像を描いているのだろうか。

 その覚悟を聞いてみると、少し考えてから、こう答えた。

「みんなが自立した選手たちで、助けてくれますから、ああしろ、こうしろということはないですが、立場上、自分が率先してやらなければいけないと思っていますし、見られる立場だということは自覚しています。新加入選手もいるので、自分からサッカーの話をしたりコミュニケーションを取ることは心がけていますが、ベテランの選手たちがいい雰囲気を作り出してくれていて、年下の子たちものびのびやれていると思います」

「つなぎ役というイメージですか?」と聞くと、凛々しい表情が柔らかい笑顔に変わり、「そうなんです!」と生き生きとした返事が返ってきた。

 最終ラインから力強く攻撃を牽引する高野がその能力を存分に発揮できれば、ディフェンダーながら得点ランキングに入る可能性も大いにある。その先に、優勝も見えてくるだろう。