欧州に挑戦したなでしこリーガーたち。スペイン女子リーグのリアルを千葉望愛と後藤三知が語る(前編)

後藤三知(左)と千葉望愛(右)、2人を応援するペペさん(筆者撮影)

 なでしこリーグから海外リーグに挑戦する選手が増えている。

 日本からの海外移籍といえば、これまでは、2011年のドイツ女子W杯で優勝した代表選手たちをはじめ、代表で実績のある選手が、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなど、強豪国の1部リーグのクラブに移籍するケースがほとんどだった。

 だが、ここ数年で、女子選手の海外挑戦はもっと身近なものになってきた。

 代表での実績やオファーの有無にかかわらず、自らの意思でトライアウトを受けて入団するケースが増え、スペイン、オーストリア、イタリア、中国、韓国、オーストラリア、ブラジルなど、選手たちの活躍の場は広がった。なでしこリーグ1部から海外の2部のチームに移籍する選手もいる。

 

 中でも、各国の女子サッカーが目覚ましく発展しつつある欧州に挑戦する選手が増えた。

 欧州の女子サッカーが急成長を遂げている背景には、まず、国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティノ会長がW杯の賞金増額や各種大会増設など、女子サッカー発展の策を次々と打ち出したことがある。その中で資金力と育成力、マンパワーを備えた男子のビッグクラブが女子部門に力を入れている。

 2019年3月には、スペインのアトレティコ・マドリードがバルセロナとの試合で欧州女子サッカー最多記録の60,739人の観客数を記録。その翌週には、イタリアのユベントスが、フィオレンティーナとの首位攻防戦でイタリアにおける女子サッカー最多となる39,027人を集めた。さらに、イングランドではマンチェスター・シティが同年9月のマンチェスター・ユナイテッドとのダービーで31,213人を記録するなど、各国の強豪クラブが競うように女子サッカー界に明るいニュースをもたらした。

 そうした傾向が結果として現れたのが、昨夏の2019女子W杯フランス大会だった。欧州の参加8カ国中、初出場のスコットランドを除く7チームがベスト8に進出。大会はアメリカの連覇で幕を閉じたが、欧州勢の躍進が最大のトピックだった。

 一方、アジア勢は日本、オーストラリア、中国がベスト16で敗退。こうした状況を受けて、日本サッカー協会は、東京五輪後の2021年のプロリーグ新設を決定した。

 

 欧州の女子リーグで活躍する日本人女子選手たちの活躍や各国リーグの状況は、なかなか日本には伝わってこない。

 実際には、大金が動くことで華やかなイメージが先行する男子サッカーとは違い、なでしこリーグ同様に働きながらプレーする選手もいる。サッカーだけで生計を立てる「プロ」であっても、金銭面の条件は日本より厳しくなるケースも少なくない。

 リスクは金銭面にとどまらない。海外の水が合わなかったり、出場機会が得られないなどの事情で国内復帰を希望しても、リーグ戦の開催期間の違い(欧州は秋春制、日本は春秋制)で、移籍のタイミングは難しい。また、なでしこリーグはテクニックに長けた選手が多く、パスを細かくつなぐチームが多いため、かけ離れたプレースタイルに慣れてしまった場合、復帰先を探すのも容易ではない。

 海外挑戦を志す選手たちの希望は、サッカー選手としてのステップアップ、海外で生活することへの憧れや、セカンドキャリアへのきっかけ探しなど、様々な思いがある。

 そうした困難を乗り越えても海外でプレーする魅力とは何か。海外で長くプレーする選手たちに共通することは何か。彼女たちの生の声を聞かせてもらうことで、今後、海外を目指す選手たちへのヒントがもらえるのではないかーー。

 そうしたテーマのもとに、欧州女子リーグでプレーする日本人選手たちを現地で取材した。

 最初に訪れたのは、スペイン女子リーグに所属する選手たちだ。現在、日本人選手が最も多いのがスペイン女子リーグで、その数は1部が3名、1部B(2部)が12名で、計15名に上る。現在は外国人選手の数を制限する「外国人枠」がないため、日本人選手にとって挑戦しやすい環境でもある。

 スペインは代表チームの強化も進んでおり、昨夏のW杯では王者アメリカに敗れてベスト16止まりだったが、テクニックと戦術面の双方で洗練されたサッカーを見せた。

 一方、リーグはいくつかの問題を抱えている。プロリーグではあるものの、協会と選手側の労働協約がないため、最低賃金として設定されている月給900ユーロ(約11万円)さえ支払われない選手も多いという。11月中旬には、1部の選手200人が最低賃金の保障や待遇改善を求めてリーグ戦でストライキを起こした。強豪バルセロナやアトレティコ・マドリードなどのビッグクラブは別だが、財政難と隣り合わせのクラブもあると聞く。

 今回の記事では、スペイン南部、アンダルシア地方のコルドバでプレーしているFW後藤三知(ごとう・みち)選手とDF千葉望愛(ちば・みのり)選手に話を聞いた。

 コルドバは2部にあたる1部B(32チームを北地区と南地区で16チームずつに分けてリーグ戦を行う)の南地区で、1月21日現在、16チーム中7位につけている。

 2016年4月にスペインに渡った千葉は、現在スペインでプレーする15名の中では特に早い時期に挑戦することを決めた。千葉は浦和レッズレディース(浦和)出身で、年代別代表では08年のU-17女子W杯などに出場経験がある。1部のT.アルカイネサラゴサで2シーズンプレーした後、昨シーズンは同じく1部のマラガでプレー。そして、今季からコルドバに加入した。コルドバでは右サイドバックを主戦場とし、今季は全試合にフル出場中だ。

千葉望愛(写真:Cordobesisimo.com)
千葉望愛(写真:Cordobesisimo.com)

 千葉はSNSを駆使して様々なスペイン女子サッカー情報を発信しており、日本人選手情報は彼女のネットワークと発信力ですべて網羅されていると言っていいほど。表やテロップなどを交えて構成された映像や文章はとても見やすく、海外でのプレーを希望する選手たちにとっても非常に参考になるだろう。

 

 後藤はなでしこジャパンでの実績もあるアタッカーで、浦和でリーグ戦を制した14年にはリーグMVPにも輝いた。当時、何回か取材をさせてもらったことがあるが、コメントに深みがあり、ピッチ上でも独特の存在感を放っていた。

後藤三知(写真:Roresaleaide)
後藤三知(写真:Roresaleaide)

 後藤は17年1月に1部のレアルソシエダに加入して約1シーズン半プレーした後、昨シーズンは2部のエイバルでプレー。そして、今季からコルドバに加入。千葉とは浦和以来3年ぶりにチームメートとしてプレーすることになり、今季はここまで13試合に先発して2ゴール。スペインでは現在通算18ゴールを決めている。

 2人は、それぞれの方法で日本に向けてスペインのサッカーや生活事情などを積極的に発信しており、その内容は多岐にわたる。スペインへ移籍をする選手が増えている中で、スペイン女子サッカーリーグの魅力や日本との違い、それぞれの現在地について語ってもらった。

後藤三知選手×千葉望愛選手 対談(1月9日@コルドバ)

【スペイン女子リーグの情報源】

ーーよろしくお願いします。スペインの日本人選手の情報は千葉選手のnoteTwitterで網羅されていて参考になります。試合前の見どころや活躍した選手のコメントまで、とっても充実していますね。

千葉:ありがとうございます。スペインではプロですから時間があります。考える時間や記事を書く時間は増えましたね。逆に、日本の情報もTwitterなどSNSから収集しています。記事を読んでくれて私たちのことを知って、ホーム戦は毎試合応援に来てくれるスペイン在住の日本人の方々がいるんです!それは嬉しいですね。

ーースペインでプレーする日本人選手全員と連絡をとっているんですか?

千葉:SNSを通じて全員と連絡をとっています。ゴールを決めた時など、試合後に「コメントを載せたいから」とお願いすると、みんな快く答えてくれて(笑)。欧州でプレーする日本人の男子選手の活躍や記事はすぐに配信されますが、女子は情報が少ないですからね。

ーーYouTubeではテロップやBGMを効果的に入れたりと編集技術もすごいですが、何か参考にしているものがありますか?

千葉:編集はアプリを使えばそこまで難しくないですよ。発信するときの参考としては、YouTubeで他国の映像などもよく見ています。アメリカ女子代表はドキュメンタリー風にしたり、見せ方が上手ですね。アメリカは女子代表の再生回数が男子代表よりも圧倒的に多いんですよ。イングランドやフランスは2、3年前から代表の練習を独自のチャンネルで上げていて、それも撮る時のカメラワークとか距離感が良くてかっこいいんです。スペインでは女子サッカーについて元選手や女子サッカーの記者が語る番組があるのですが、好調のチームについてボードを使って戦術面の分析もしています。日本でもこんな番組をつくる参考にならないかなぁと思って見ています。

ーーそういうことが千葉選手の記事の見やすさにつながっているんですね。後藤選手は、故郷の三重県のヴィアティン三重レディースのブログでコラムを連載していますが、戦術面について掘り下げたり、日本との比較・分析が深くて読み応えがあります。

後藤:みのりはいろんなところから情報を集めて発信できるところがいいなと思っています。私はそういうことが得意ではないのですが、スペインで様々な出会いや発見があった中で感じたことや、プレーを良くするためのヒントを探すことが癖になっているので、それを発信しています。ヴィアティンの選手たちを思い浮かべて書くこともありますし、サッカー以外の情報は選手たちの親御さん向けに発信することもありますね。

ーー2人の違いが表現方法の個性につながっているのは面白いですね。

後藤:みのりと私はいろんな面で対照的なので、家(※)では2人でいろんなテーマについてよく話すんですよ。みのりはDFで長女でユース育ち。自分はポジションがFWで次女、高校サッカー(常盤木学園高校)で育ちました。(早稲田)大学は一緒ですが、みのりは部活で、自分は浦和レッズレディースでしたし。ちょっととぼけている部分は似てるかな(笑)?

(※)チームメートも含めて4人でルームシェアをしている。

ーースペインでは日本人選手が年々増えて、今年は15名になりました。その中でもお2人は4シーズン目と長く活躍しています。どんなところが魅力ですか?

千葉:私の場合は、スペインが合っているなと思います。最初はサッカーや生活面でもこんなに日本と違うんだ!と驚きましたけど、もともとサッカーを楽しむことや、様々な面で自分自身の幅を広げたいという気持ちで来たので、楽しんでいます。スペインの人たちは自分がどうしたいかをはっきり言うし、上下関係もない。日本のように「察する」文化がないんですよ。

後藤:スペインではみんなギリギリまで予定を立てないし、直前で変わることも多いですね。そういう意味では、私は日本人気質が抜けなくて譲れないなと思うところもあります。ただ、その中でも自然体で過ごせるようになりました。

ーーシエスタ(お昼休憩)も、南ヨーロッパならではの習慣ですね。

千葉:そうですね。遠征に行ってご飯を食べたあとはみんなボーっとしたり、寝たりします。朝は日本の2時間遅れぐらいでスタートして、お昼は14時過ぎで、夜は21時に集まって食べる感じで、日本よりも遅いですね。

ーースペインは外国人枠がありませんが、選手は世界中から集まってくるんですか?

千葉:私が去年プレーしたマラガではコロンビア、メキシコ、モンテネグロ、スロベニア、イングランド、マリ、南アフリカの7カ国から来ていました。南米の選手は言語がスペイン語なので比較的なじみやすいですね。マラガでは海外組は英語が共通言語でした。

後藤:1部は来年から外国人枠ができるという話も聞いているので、そうなるとEU圏外からの移籍はハードルが上がりそうですね。

【日本とスペイン、練習量と質の違い】

ーー練習量は、日本と比べて違いますか?

千葉:日本に比べると少ないですね。1週間のうち1日が試合で、練習は週4日で、1回1時間半です。夜6時半からですが、夜9時過ぎに始まって11時前に終わる日もあります。日本では働きながらプレーしていたので、最初にスペインに来た頃は、時間があるので「何かしなきゃ!」と不安になって(練習以外で)走ったりしていました。

後藤:昨日(1月8日)の練習では週末の試合に向けて試合(紅白戦)を90分間やって、そこで力を出し切ったからと、今日(9日)はミーティングだけになりました。そういうふうに予定が変わることもあります。

ーー臨機応変なんですね。練習内容にはどんな特徴がありますか?

後藤:ミスをしても、ゴールに向かおうとした結果なのか、それともボールを奪われないことを優先してシュートを打てるチャンスを生かさなかったのか。その部分をよく見られているなと思います。ゴールを目指さないことの方が問題で、まずはチャレンジしたのならOKという考え方ですね。

千葉:シュートできるのにバックパスをしたら怒られます。私は日本ではミスをしないことに縛られている部分があったので、新鮮でした。失敗してもその意図を説明すればいいし、みんなミスを恐れないですね。

ーーFWは特にチャレンジが求められるポジションだと思いますが、後藤選手は日本でプレーしていた時と比べて自分のプレーに変化はありましたか?

後藤:日本を出た一つの理由が、サッカー選手としての自分の伸びしろが見えなくなったことでした。今振り返ると、シュートをするためにチャレンジする意識が以前は弱かったなと感じますね。スペインではシュートを打つことが大事で、戦術はそのためにあるので。そういう考え方や流れを頭だけでなく体でも理解していく中で、日本にはなかったような流れからのシュートが生まれるようになりました。

ーー千葉選手はサイドバックがメインですが、センターバックでプレーすることもありますね。スペインのビルドアップの練習はどうですか?

千葉:去年のチーム(マラガ)では、グラウンドを3つのゾーンに分けて、ゾーン1(最終ライン)からどう抜け出すか、というボールの運び方をかなり細かくやりました。今年のコルドバのサッカーは縦に速いです。

ーーインターネットなどで試合映像を見ると、球際の攻防も激しくいくところがありますよね。

後藤:私が特に違うな、と感じるのは、パワーの使い方です。大柄な北欧の選手などと比べるとそこまで体格差は感じないのですが、90分間のなかでパワーを使う場所と使わない場所の差がはっきりしています。日本はその差があまりなくて、代わりにずっとプレーを続けられるイメージですね。

千葉:コルドバに来て、ファウルをする練習があるのはびっくりしました。日本だったらイエローカードが出るだろうな、という止め方もあるし、カード覚悟で止めろと言われることもあります。

後藤:そうなんですよ。ボールを失った瞬間に3つの選択肢があって、まずはすぐに奪い返すこと。次の選択肢がファウルで、3つめが全員でラインを下げて戻ることなんです。相手を止めることが目的なので、「まずは奪うかファウルをしなさい」と練習から強調して言われます。

ーーその感覚は日本とは違いますね。戦術はかなり細かいのですか?

千葉:監督によって違いますが、どの監督もボールの運び方には強いこだわりがあると思います。びっくりしたのは、子供たちがサッカーをすると、大抵は団子(ボールに集まって動く)になるじゃないですか。スペインでは6歳とか7歳の女の子たちがポジションについてボールを受けるんです。年上の子に体格差やスピードで負けることはあっても、普通にパス回しで対抗しようとします。両親とサッカーを見に行く機会が多いから目が肥えているんでしょうね。

後編に続く