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酷暑の中でミャンマーに5-0で快勝のヤングなでしこ。次戦は難敵・韓国

松原渓スポーツジャーナリスト
ミャンマーに快勝したU-19日本女子代表(筆者撮影)

【途切れなかった集中力】

 タイで10月27日に開幕したAFC U-19女子選手権で、グループBの日本は28日(月)の初戦でミャンマーに5-0と快勝。3位以内に与えられるU-20女子W杯出場権獲得、そして大会連覇に向けて幸先の良いスタートを切った。

 タイは高温多湿で、日本の8月頃の気候が一年中続くと言われる常夏の国。10月は雨季にあたり、急激なスコールも多くて湿気が非常に高い。午後4時キックオフとなったミャンマー戦は、気温33℃で陽射しは強く、汗がまとわりつくようなじっとりとした暑さの中で行われた。

 ミャンマーは最新の女子FIFAランクで日本の10位に対して45位とかなり下ではあるが、近年では男子だけでなく女子サッカーの強化にも力を入れている国の一つだ。

 パスをつなぐ日本に対し、ミャンマーは4-1-4-1の布陣で全体をコンパクトに保ち、かなり高い位置からプレッシャーをかけてきた。その中で日本は前半、ボールを支配しながらもゴールが奪えない状況が続いた。

「(ミャンマーが)結構、アグレッシブにくるのではないかと予想して入りましたが、今までにこれほど高いラインは経験した選手が少ないのでは、と思えるような(予想以上の)高さでした」

 池田監督はそう振り返り、また、前半は初戦の硬さもあったことを明かした。

 日本のスターティングメンバーは、GKに大場朱羽(おおば・しゅう)、4バックは右から長江伊吹(ながえ・いぶき)、高橋はな、田畑晴菜(たばた・はるな)、松田紫野(まつだ・しの)。中尾萌々(なかお・もも)と菅野奏音(かんの・おと)がダブルボランチを組み、右サイドに瀧澤千聖(たきざわ・ちせ)、左に伊藤彩羅(いとう・さら)。2トップに山本柚月(やまもと・ゆづき)と大澤春花(おおさわ・はるか)が並んだ。

 立ち上がり、日本は2トップの大澤と山本が裏のスペースへの動き出しを見せるが、ミャンマーのラインコントロールに引っかかり、ことごとくオフサイドの判定に。その数は前半だけで「8」に上った。

 また、グラウンダーのパスを多用する日本にとっては、芝の凹凸も苦戦の要因となった。会場となったIPEチョンブリー・スタジアムはところどころ芝の長さが異なっており、パススピードが出なかったり、ゴール前でボールが足下に入りすぎてシュートに持ち込めない場面があった。

 そのなかで日本は、2列目からの飛び出しやサイドチェンジなど、横や斜めの動きで相手を揺さぶり、決定機を増やしていく。

 開始7分、ボランチの菅野のパスに左サイドハーフの伊藤が抜け出してシュート。19分には大澤がタイミングよく裏のスペースに飛び出して決定機を迎えたが、いずれもミャンマーの守護神、Z.L.NADIの好セーブに阻まれる。25分には瀧澤が右サイドからドリブルでチャンスを作って折り返し、中央から走り込んだ菅野のシュートはわずかに枠を逸れた。35分には伊藤のサイドチェンジから逆サイドの瀧澤がフリーで抜け出しクロスを上げようとするが、読まれてブロックされてしまった。

 拮抗を破ったのは前半36分だ。長い距離を駆け上がった右サイドバックの長江が相手を引きつけてラストパスを送ると、ファーサイドの山本が流し込んで先制。待ちに待ったゴールで勢いづいた日本は、その3分後には伊藤の浮き球のパスに抜け出した大澤がドリブルからGKとの1対1を冷静に制し、あっという間に差を2点に広げた。

 後半は、集中力が切れたミャンマーに日本がハーフコートゲームを展開した。49分には、左サイドバックの松田のクロスを途中出場のMF三浦晴香(みうら・はるか)が折り返し、山本が冷静に流し込んで3点目をゲット。

 また、57分に交代で2トップの一角として投入されたFW廣澤真穂(ひろさわ・まほ)が前線で変化を加えた。63分に右の三浦からのクロスに飛び込んでポスト直撃のシュートを放つと、66分にはペナルティエリア外で大澤のヒールパスを受け、インサイドでコースをついた鮮やかな左足ミドルで4点目。

 67分には高い位置の守備から相手のミスを誘い、このボールをペナルティエリアの手前で拾った伊藤が、緩急をつけたドリブルで相手をかわしてGKの逆を突くスキルフルなゴールを決める。

 日本は奪われても素早い切り替えから奪い返し、最終ラインではキャプテンの高橋と田畑のセンターバックコンビを中心に守備も最後まで集中力を切らさず、5-0の勝利で締めくくった。

【勝因と課題】

 池田監督は、後半に得点を重ねたゲーム運びについてこのように語っている。

「粘り強く戦えました。前半にできなかったことを、後半は違うアイデアを出しながら相手に対応する。その修正力を選手たちがしっかり発揮してくれたと思います」

 チャンスを逃し続けたり、ミスが続くと、流れが相手に傾いて悪循環に陥る。それは、サッカーではよくあることだ。

 しかし、日本はミスをしても集中力を切らさず、攻め抜いた。それは、練習から常に意識を高めてきた切り替えの速さや、粘り強く戦える選手が多いこと、そして池田監督も指摘した「修正力」を発揮できたからだろう。

 1ゴール1アシストで勝利に貢献した伊藤は、

「(ハーフタイムに)オフサイドが多いよね、と、ロッカーでみんなと話していました。FWが直接(裏に)抜けるとオフサイドにかかってしまう場面があったので、自分のポジションであるサイドハーフからの抜け出しなどを有効に使っていこうと話して、後半はそこを変えました」

 と、選手間で修正点を共有していたことを明かした。

 

 これからの試合は、韓国や中国など対戦相手のレベルが上がり、試合の中で主導権を握られる時間が増えることも予想されるため、試合中の修正は早いに越したことはない。

 池田監督は今後に向けた課題として、パススピードと準備のスピード、そして相手のディフェンスラインの高さを自分たちでコントロールしていくことを挙げた。

 また、ここからは1点が勝負を分ける拮抗した試合が予想される中で、セットプレーのゴールが重みを増す。その点、この試合では19本にも上ったコーナーキックをゴールに結びつけられなかったのは悔やまれる。キッカーの菅野が、相手のマークが手薄になったところをピンポイントで狙い、168cmと長身の高橋が頭で合わせて枠を捉えた場面が何度かあっただけに、一つ形にしておきたいところだった。

【ゲームを仕上げた2人】

 個々に目を向けると、酷暑の中、フル出場で走り抜いた選手の貢献度が光った。中でも攻守にわたって貢献したのが、左サイドの伊藤だ。特に攻撃面ではワンツー、ワンタッチパス、縦へのドリブル、カットインからのシュート、縦や斜めに抜ける動きなど、多彩なアイデアで左サイドを制圧した。2点目の大澤へのアシストパスと5点目のゴールシーンでは優れた判断力とテクニックを示した。

伊藤彩羅(筆者撮影)
伊藤彩羅(筆者撮影)

「自分は爆発的なスピードもないし、競り合いが強いとか当たりが強いわけではないので、何で勝てるのかと考えたときに、技術面を強みにしてやっていきたいと思っています。相手の立ち位置とか動きを見ながらサッカーをするのが自分の課題で、意識しながらプレーをしていたので、それを少しは出せたかなと思います」(伊藤)

 伊藤は試合後、落ち着いた表情で語った。

 日テレ・ベレーザの下部組織であるメニーナに所属している伊藤は、二重登録でトップチームの試合にも出ており、練習ではなでしこジャパンの主力選手たちと日常的にプレーし、紅白戦でマッチアップすることもある。また、6月のフランスW杯期間中は、チームが代表に多くのメンバーを送り出したためにカップ戦で人数が足りなくなり、二重登録の選手たちが起用された。その中で、伊藤は1部で6試合に出場し、ベレーザのリーグカップ連覇に貢献している。

 サイドバックなど複数のポジションでプレーできるユーティリティー性もあり、今後が楽しみな逸材だ。

 また、途中出場で攻撃に変化を加え、終盤のゲームを引き締めたのが廣澤だ。167cmと高さがあり、持ち味はドリブル。右利きだが、この試合で決めた4点目のように、左足でも同じように精度の高いシュートが撃てるのは魅力だ。

廣澤真穂(筆者撮影)
廣澤真穂(筆者撮影)

 早稲田大のルーキーとして存在感を増す19歳の廣澤にとって、アジア予選は初めての舞台だという。それでもピッチに立つと遠慮せずにボールを要求し、相手ゴールに迫った。そして、4点目を決めた直後には両手を高く上げて全身で喜びを表現した。

「今日(28日)がお父さんの誕生日だったので、バースデーゴールということで、絶対に点を取りたいと思っていました」

 試合後には嬉しそうに話し、その喜びを両親に真っ先に伝えたことも明かした。

「(アジアは)球際が激しく、どのチームも優勝を狙っているという気持ちの強さがあり、その中で勝ち切る難しさとか、1点の重みを感じます。スピードに乗ったドリブルが得意なので、それを生かしてしっかり点を取れる選手になりたいなと思います」(廣澤)

 2得点を決めた山本、1得点1アシストの大澤、そして廣澤。また、この試合では得点こそなかったが、練習では強烈なシュートを何本も決めているFW武田菜々子。4名のストライカーの決定力が、勝利を引き寄せる重要なファクターとなる。

 日本は中2日で31日(木)に韓国戦に臨む。初戦で中国を2-1で下した韓国に勝てば、準決勝進出に向けて大きく前進する。暑さと連戦の中で、両者の総合力が問われる一戦となりそうだ。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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