なでしこリーグ首位の浦和を支える「水を運ぶ選手」。新たなポジションで引き出されるDF佐々木繭の可能性

2試合連続ゴールを決めた佐々木繭(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

【好調の要因】

 両サイドバックのコンビネーションから決まった先制点が、攻守の歯車が噛み合ったチームの好調ぶりを象徴していた。

 3連休真っ只中の9月15日(日)。浦和レッズレディース(浦和)が、9位のマイナビベガルタ仙台レディース(仙台)を2-0で下し、8月末のなでしこリーグ再開後、3連勝で首位をキープした。

 浦和は立ち上がりから、高い位置から奪う守備を徹底。丁寧なラインコントロールを重ね、攻守のスムーズな切り替えからテンポよくボールをつなぎ、ゴールに迫った。

 24分に右サイドバックのDF清家貴子のクロスにファーサイドで左サイドバックのDF佐々木繭(ささき・まゆ)が押し込んで先制。後半立ち上がりの47分には、清家のフィードに抜けだしたFW菅澤優衣香が今季13ゴール目となる追加点を挙げ、試合の趨勢を決めた。

 今季、森栄次監督の下で磨きをかけてきたパスサッカーは、試合を重ねるなかで着実に安定感を増している。

 戦い方を安定させている要因の一つが、対人に強いDF長船加奈とDF南萌華の両センターバック、そして得点力とポストプレーを兼ね備えた菅澤の3人だ。森監督は、この3つのポジションの重要性について語り、3人への評価を惜しまない。

「センターバック2枚とワントップの三角形が割としっかりしているので、自由に中でボールを回せる。困ったら菅澤にボールを集めて、前線でキープしてくれるのは大きいですね。前で収まるとわかっているから、みんなが思い切って前に行くことができる。選手がそこまでスピードアップしなくても、ボールをうまく走らせることができています」

 後半はロングボールを多用する攻撃で攻め込まれる時間帯もあったが、分厚いゾーンディフェンスが破られることはなかった。この試合でリーグ戦200試合出場を達成した長船は、理想的な勝利で節目を迎えることができた喜びを口にした。

「奪われた後の切り替えが上手くいっていたし、前で奪えていたのも良かったです。押されていても『ここは耐える時間帯』と割り切ってできていたので、失点する感覚はなかったですね。ここ(200試合)までくるのに11年間かかって、いろいろな試合がありましたけど、この試合で記録を達成できたことが自信になるし、嬉しいです。チームとしてもすごくいい雰囲気で戦えていますね」(長船)

【水を運ぶ選手】

 センターバックとトップの強固なトライアングルによって攻守が安定した中で、浦和のサッカーにさらなるアドバンテージを生み出しているのが、90分間目まぐるしくポジションを替えながらボールを支配し続ける中盤とサイドだ。

「自分のやり方はポジションがあってないようなものだよ、と選手に伝えています」

 就任当初に森監督が語っていたスタイルは、着実に浸透してきている。それはボランチやサイドハーフが動き回るエリアの広さや、ポジションが変わったままスタートしても守備が乱れないところにも表れていた。

 この試合では、後半からDF高橋はなを左サイドバックに投入し、それに伴ってフォワード、サイドハーフ、中盤など、5つのポジションを入れ替える大胆な采配も見せている。

 求められる動きの質を考えれば、中盤やサイドの選手には多くの要素が求められる。複数のポジションをこなせる戦術理解の高さとテクニック、そして相当な運動量。

 それらを高いレベルで表現し、この試合で異彩を放ったのが佐々木だ。左サイドバックで先発し、移籍後ホーム初ゴールとなった27分の先制点で流れを作ると、39分には絶体絶命のピンチに体を投げ出して相手のシュートをブロック。その直後には、相手陣内中央あたりでボールを受けると、狭いスペースをワンツーで抜けて自らシュートに持ち込むスキルフルなプレーで会場を沸かせた。

 後半は右サイドハーフに移り、さらに後半途中からは左サイドハーフと、3つのポジションでプレー。これまではボランチかサイドバックが本職だったが、森監督はコンバートの可能性を示唆している。

「サイドハーフには攻撃参加を求めています。彼女は足下もうまいし運動量もあって、ディフェンスもしっかりできる選手ですから、どちらかと言えば(能力を生かせるのは)サイドバックではないかもしれないなと思います。今は前目の方が生き生きしている感じがするので、後半は前のポジションで起用しました」(森監督)

 その期待に応えるように佐々木は後半、サイドに拘らず流れの中でボランチやトップ下などにも顔を出し、攻守の潤滑油になった。

 試合後、いつも以上に攻撃に関わるプレーが多かったことに触れると、佐々木は小さく頷いてこう切り出した。

「今はパスを探してしまう場面が多いですが、もっと自分で行く場面があってもいいのかなと。(その積極性は)少しずつ出せるようになっていると思います」

 

 複数のポジションに即席で対応できる戦術的なセンス、シンプルなプレーで流れを作り出すテクニックと運動量を併せ持つ佐々木は、元日本代表監督のイビツァ・オシム氏の言葉を借りれば「水を運ぶ選手」だ。献身的なプレーで「水を飲む人」=ゴールする人を支える汗かき役でもある。

「ポジションにこだわりはないです。一人で打開していくタイプではないので、周りとの距離感を大切にしています。みんながいろんなポジションでプレーできるからこそ、それぞれのポジションの気持ちがわかるので優しいパスを出してくれるし、自分もこういうボールが欲しいだろうなと思うボールを出そうと思える。そこはうまくできているな、と思いますね。2年目になってみんなのタイプもわかっているし、意思疎通がうまくできているので楽しいです」(佐々木)

 口数は少なく、穏やかに話す。そのふんわりとした口調と、泥臭さ満点のゴールとのコントラストが際立った。

【7年目のキャリア】

 佐々木は今年でなでしこリーグ7シーズン目を迎え、5月のノジマステラ神奈川相模原戦でリーグ100試合出場を達成した。そのキャリアを遡っていくと、武蔵丘短期大学、聖和学園高校、そして日テレ・ベレーザ(ベレーザ)の下部組織のメニーナに行き着く。いずれも多くのなでしこリーガーを輩出してきた名門で、テクニシャンが多い。

 13年から仙台でプレーし、16年から17年にかけては代表にもコンスタントに選出された。年代別代表への選出は、16年3月のU-23ラマンガ国際大会が初めてだったが、当時のチームを率いていた高倉麻子監督にテクニックと戦術理解度の高さ、状況判断の良さを買われ、わずか3ヶ月後、新生代表の船出となった16年6月のアメリカ戦でフル代表デビューを果たした。

 10代から世界大会を経験してきた選手も多かったが、佐々木は23歳と遅咲きのデビューながら、世界ランク1位のアメリカをはじめ、ランキング上位の国との対戦を経験。約1年間コンスタントに招集され、キャップ数は「8」に達した。

 女子W杯に向けた厳しいサバイバルレースを生き残ることはできなかったが、そのたしかな実力を武器に、仙台から加入した昨季から浦和の主力として活躍。今季は公式戦21試合すべてに先発している。なでしこジャパンのセンターバックで、浦和では佐々木の隣でプレーする南も、その安定感への信頼を口にする。

「繭さんは常に落ち着いていて、どこのポジションでも役割をまっとうできる選手です。後半は高い位置でプレーしていましたが、それも違和感なくできていたし、一つの戦術としてこれから浦和の強みになると思います」(南)

 浦和には6月にフランスW杯を戦った菅澤、南、GK池田咲紀子をはじめ、代表経験者が多い。その浦和で攻守に欠かせないピースとなった佐々木にとって、現在の代表はどのように映っているのか。

「まずはチームが優勝するためにプレーして、その中で代表にまた関わることができたら嬉しいです。(浦和には)日本代表にいる選手も年代別に入っている選手もいて、競争が激しい中でプレーできているので。もしまた選ばれることがあったら、今度こそチャンスを逃すわけにはいかない、という気持ちです」

 佐々木は、最後の短い言葉に感情を込めた。

 次節、浦和はリーグ4連覇中の王者で現在2位のベレーザとの大一番を迎える。勝ち点差「3」のベレーザは台風の影響で消化試合が1試合少なく、得失点差では浦和を大きくリードしており、現在の首位はあくまで暫定だ。だが、次節勝てば文句なしで首位になり、残り5試合の優勝争いでアドバンテージを得る。今シーズン2度の対戦はいずれも逆転負けを喫しているが、直接対決に向け、3連勝中のチームの雰囲気はいい。

 好調の浦和を支えるユーティリティプレーヤーとして、サイドハーフとしての新境地も切り開きつつある佐々木は、今週末、ベレーザとの直接対決でどのようなプレーを見せてくれるのか。マッチアップする選手とのハイレベルな駆け引きにも期待している。

 試合は9月22日(日)、17時から味の素フィールド西が丘でキックオフとなる。

3連勝中の浦和は来週、ベレーザとの直接対決を迎える(筆者撮影)
3連勝中の浦和は来週、ベレーザとの直接対決を迎える(筆者撮影)