総得点と観客数はリーグ1位。タイトル奪還を目指すINACに立ちはだかる壁

皇后杯でのタイトルを狙うINAC(リーグカップ決勝)(写真:松尾/アフロスポーツ)

【全10チームの順位が決定】

 なでしこリーグは3日に最終節(第18節)が各地で行われ、1部の全10チームの順位が確定した。最終順位は以下の通り。

1位 日テレ・ベレーザ(ベレーザ)

2位 INAC神戸レオネッサ(INAC)

3位 ノジマステラ神奈川相模原(ノジマ)

4位 浦和レッドダイヤモンズレディース 

5位 アルビレックス新潟レディース

6位 ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(千葉)

7位 AC長野パルセイロ・レディース(長野)

8位 マイナビベガルタ仙台レディース(仙台)

9位 日体大FIELDS横浜(日体大)↓2部2位(ニッパツ横浜FCシーガルズ)との入替戦

10位 セレッソ大阪堺レディース(セレッソ)↓降格

 前週の時点で既にベレーザのリーグ4連覇が決まっていたが、最後までもつれた残留争いは、仙台が最終節で勝利を収め、残留圏の8位に浮上。2位のINACに敗れた日体大が9位に下がり、1部/2部入れ替え戦に回ることになった。また、最下位(10位)のセレッソは1年での2部降格が決定した。

 INACは3年連続で2位となったが、今シーズン全18試合の総得点数と得失点差では首位になり、直近の2シーズンは長野にトップの座を明け渡していたホームの平均観客動員数も、最終節で今季最多の4712人が入り、3年ぶりの1位に返り咲いた。

 3-0で勝利した日体大戦で立役者となったのは、MF中島依美とDF高瀬愛実だ。2人は今年で在籍10年目になり、INACがリーグ3連覇を達成した11年から13年の黄金期を知る最古参選手でもある。

 中島は65分に皮切りとなる先制ミドルを決め、78分には相手のラインの裏をつく高精度のロングパスでDF牛島理子のゴールをお膳立て。87分には、サイドバックの高瀬がゴールまで40mはあろうかという超ロングシュート(3点目)を沈めた。

 ヘッドコーチから昇格した鈴木俊監督の下で2013年以来のタイトル獲得を掲げて臨んだ今シーズンのINACは、より攻撃的なチームに変化を遂げた。昨年、「31」だった得点数を「45」に伸ばし、失点数も昨年の「12」から「11」に減らした。

 だが、最大のライバルでもあるベレーザの勢いを止めることはできなかった。直接対決は1分1敗と負け越し、4年連続で後塵を拝する結果に。リーグ4連覇を達成したベレーザという「壁」を越えなければ、タイトル奪還は見えてこない。

 そのためにも、INACは順位が決定した中で迎えたラスト2節を、今季初タイトルを目指す皇后杯への準備と位置付けた。だが、日体大戦は前半、相手の堅守をこじ開けられずにカウンターを受ける場面が何度かあり、あわや失点しそうなシーンもあった。後半は狙い通りの形で3ゴールを挙げたが、鈴木監督は冷静な口調で振り返っている。

「チームの流れが悪い時は、各々がどこかで無理をしたプレーをしているんです。味方を信用してシンプルにパスを出したり、もっと賢くプレーできるように年間を通して積み上げてきましたが、まだまだだな、と感じました」(鈴木監督)

昨年から得点力がアップした(写真:Kei Matsubara)
昨年から得点力がアップした(写真:Kei Matsubara)

【タイトル奪還に必要な「積み上げ」】

 INACは昨年途中になでしこジャパンのFW岩渕真奈が加入し、今年からは韓国代表のMFイ・ミナが加わった。強力な即戦力は若い選手たちの刺激にもなり、チームを活気づけた。だが、今シーズンは4月のW杯予選や8月のアジア大会など代表活動が多く、2人を含む7人前後がチームを離れることに。加えて、岩渕とイ・ミナの2人はケガにも悩まされてきた。

 台所事情が厳しく、人数が足りないために紅白戦も成り立たないーー。それは代表選手を多く抱えるチームならではの悩みだが、主力の大半を代表に送り出しているベレーザにも同様のことが言える。

 クラブの伝統とも言えるテクニックや戦術理解度の高さ、そして強力な育成組織を持つベレーザに対し、INACにはタレントを集める力とリーグ屈指の恵まれた練習環境がある。

 毎年、INACの新入団選手は超高校級のタレントや年代別代表で活躍した選手が多い。また、なでしこリーグは仕事とサッカーを両立させている選手がほとんどだが、INACは午前中から練習ができ、サッカーに集中できる環境を整えている。

 だが、リーグ終盤戦のベレーザとの直接対決を優位な状況で迎えられなかったのは、前半戦を含めてチームのパフォーマンスが安定せず、勝てる試合で勝ち点を取りこぼしたことも要因だろう。

 自力での優勝が難しくなった第14節の千葉戦(10/8△1-1)の試合後、鈴木監督はベレーザとの現状の差をこう分析した。

「選手の特徴を生かしきれていないのは(監督である)自分の責任でもありますが、ピッチで起きている状況を自分たちで改善できる力が今はまだない。それがベレーザとの決定的な違いですし、コツコツ積み上げていくしかないと思っています」(鈴木監督)

 ピッチに立てば、試合は選手のものだ。だが、様々な要因が重なり、練習でできていることが試合で発揮できないーー。それは今年に限らず、ここ数シーズンのINACが抱えてきた問題でもある。

 その中でも、経験のある選手の多くは安定したパフォーマンスでチームを牽引してきた。その一人がDF鮫島彩だ。W杯優勝や数々の個人タイトルを獲得してきた鮫島だが、唯一獲得していないのがリーグタイトルであり、当然、想いは強い。だからこそ、「ベレーザに勝つために何が足りないのか」というテーマとも真摯に向き合ってきたのだろう。

 スコアレスドローに終わった第16節(10/20)に行われた直接対決の後、鮫島の答えは明瞭だった。

「(INACの選手たちは)みんな、すごくいいものを持っているじゃないですか。ベレーザに対して巧さは足りないかもしれないですけど、推進力とかゴール前の力強さとかセットプレーの強さは優(まさ)れる部分だと思うので、それを試合でもっと出せたらなと。それと、お互いの特徴をどれだけ戦術的に生かせているのか。その理解度もまだ足りないと思います」(鮫島)

 鮫島はケガ人が多いチーム事情もあり、リーグ後半戦は本職の左サイドバックではなくセンターバックでプレーした。その中でも、持ち味のスピードを守備面だけでなく攻撃面で生かすことにこだわり続けた。

 印象的だったのは、第15節のAC長野戦の4点目だ。中央を駆け上がった鮫島のタイミングに、中島が左サイドから送ったピンポイントクロスがピタリと合った。

「あの場面は、(中島)依美も私の特徴をわかってくれていたし、自分も依美だったらここにクロスが来るな、と思って走りました。そういうことを感じる力は、言葉で言って身につくものではないと思います」(鮫島)

 それは、鈴木監督が口にした「ピッチで起きている状況を改善する力」にも通じることだろう。

 一方、古巣でもあるベレーザとの対戦を楽しみにしていた岩渕は持ち味のドリブルで果敢に仕掛け、会場を沸かせた。

「(0-0で)負けなかったことに自信を持ってもいいと思うけど、勝たないと『やれた』という感覚は持てない。相手に主導権を握られるかどうかということより、自分たちが自信を持ってボールを回せるようにならないと、さらに上には行けないと思います」(岩渕)

 

 岩渕の魅力でもあるドリブルや、鮫島のオーバーラップ、高瀬の攻撃力といった強力な武器を生かすためには、周囲のスペースの作り方やサポートのタイミングが欠かせない。そういった面でパフォーマンスを安定させることができれば、より攻撃力は増すだろう。

 その中で、INACがベレーザと常に互角の戦いを繰り広げられるようになれば、リーグがさらに盛り上がることは間違いない。

【3年目にして任されたゴールマウス】

 第17節のセレッソ戦では、GKスタンボー華が2016年のチーム加入以来初めて先発を飾り、最終節の日体大戦を含め2試合を無失点に抑える活躍を見せた。

ラスト2試合を無失点で抑えたスタンボー華(写真:Kei Matsubara)
ラスト2試合を無失点で抑えたスタンボー華(写真:Kei Matsubara)

 U-20女子W杯では正GKとして5試合に出場し、世界一に貢献したスタンボーだが、リーグ戦では試合出場どころかベンチ入りする機会も少なく、悔しさはいかばかりかと想像していた。だが、スタンボーは意外にもあっさりと言った。

「悔しさは正直あまりありませんでした。それは、2人(のGK)がすごすぎたからです。出られなくて仕方ないと諦めることはなかったですが、出られなくても納得できました」(スタンボー)

 その2人とは、正GKの武仲麗依と、大ベテランのGK福元美穂だ。経験からくる予測や判断、ステップワークやコーチングなど、トレーニングで2人から得るものはスタンボーにとってかけがえのない糧になっていた。また、今年からは元ガンバ大阪の森下申一GKコーチが加入したことで、一つひとつのトレーニングや動き方についての理解が深まったことも大きいと、スタンボーはU-20女子W杯前に話していた。

 3年目にしてようやく立ったリーグ戦のピッチで、スタンボーは何を感じたのか。試合後、その声は弾んでいた。

「この2試合で、自分が下手だと改めて確認できたことが一番の収穫でした。2年間まったくリーグ戦に出られなくて、チームに関われているのかもわからないような状況が続いていた中で試合に出るのは緊張しましたが、使ってくれた監督やGKコーチや仲間に感謝しています。今までもサッカーに対して真剣だったしいろいろ考えてきましたけど、(出場したことで)試合前の準備も含めて意識が変わったなと。今後、プロとしての心構えをしっかり持ちたいと感じました」(スタンボー)

 175cmの長身を生かした力強いセービングと、低音でハリのあるコーチングは、確かな存在感を示していた。まだ19歳と若いが、しっかりと地に足をつけ、豊かな伸びしろを感じさせるスタンボーの今後に期待したい。

 

 今季最後の大会となる皇后杯で、INACは今季一つ目のタイトル獲得を目指す。

 INACは2回戦から登場し、11月25日14時から兵庫県立三木総合防災公園陸上競技場で、東海代表のNGUラブリッジ名古屋と対戦する。