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ヤングなでしこの堅守を支えたDF南萌華。チームの結束を高めた新たなリーダー像

松原渓スポーツジャーナリスト
凱旋帰国会見を池田監督の「太ポーズ」で締めくくった(南は下段一番左)(写真:Motoo Naka/アフロ)

【守備を統率したリーダー】

 アジア大会で2大会ぶりに金メダルを獲得したなでしこジャパン。5試合で14得点2失点と、4月のアジアカップに続き守備力の高さがクローズアップされた。

 一方、U-20女子W杯で優勝したヤングなでしこ(U-20日本女子代表)も、アメリカやスペイン、ドイツやイングランドといった強豪国相手に6試合で15得点3失点と堅守が光った。

 グループステージで厳しい組に入ったヤングなでしこにとって運命の分かれ目となった最初の試合が、アメリカとの初戦(◯1-0)だ。今大会の優勝候補に挙げられていたアメリカがその後グループステージで敗退したことを考えれば、あの勝利がいかに重要だったかが分かる。

 初戦独特の緊張感の中で、日本は全体的に動きが堅く、押される時間も長かった。しかし、FWや中盤も含めた全員守備とハードワークでしのぎ、最後は大会ベストゴールの一つに選ばれたMF林穂之香の劇的な勝ち越し弾で勝利を引き寄せた。

 この試合でプレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたのが、センターバックのDF南萌華だ。

 171cmの長身とヘディングの強さで空中戦を制し、的確な予測でクリーンにボールを奪うーー大会中、そんな場面を何度も見た。

 守備だけでなく、攻撃の起点となるパスやフィードも際立っていた。長い手足をしなやかに操り、長短のパスを過不足ない強さで蹴り分ける。相手が最終ラインにプレッシャーをかけてくれば、すかさず正確なサイドチェンジで手薄になったスペースをついた。

 ピッチ上での落ち着いた振る舞いは、所属チームの浦和レッズレディース(浦和)で、FW安藤梢やFW菅澤優衣香といった代表クラスの選手たちと日々ハイレベルな駆け引きを重ねてきた成果だろう。

 アメリカとの初戦に限らず、南を中心とした最終ラインは大会を通じて安定しており、ロングボールで中央を破られるシーンは少なかった。

【2年越しの舞台へ

 南は、現なでしこジャパンの高倉麻子監督が率いた2016年の前回大会で、飛び級での最終メンバー入りが確実視されていた。だが、大会3ヶ月前の2016年8月に行われたドイツ遠征で、練習中に負傷。サッカー選手にとってけがは避けて通れないものだが、大会を目前にして出場を断念せざるを得ない無念さは、想像するだけで胸が痛んだ。

「(前回大会は)入院中に(テレビで)大会を見ていたのですが、応援する気持ちと悔しい気持ちが半々でした。でも、一緒にプレーしてきた仲間が大会で活躍する姿を見てリハビリも頑張れたし、その後の期間は、この大会に向けて頑張れる源になりました」(南/7月中旬)

 リハビリを乗り越えて再びピッチに戻り、2年後への新たなモチベーションを力に変えて過ごしたその期間が、選手としてだけでなく、人間的にも南を大きく成長させたのだろう。

 試合を振り返る言葉は整理されていて淀みなく、それでいてポイントをしっかりと押さえている。実力と落ち着きを兼ね備えた19歳は、確かなリーダーの資質を感じさせた。

 そして、U-19日本女子代表として今回のヤングなでしこが立ち上げられた2017年2月から、南はすべての活動に参加。同年10月のアジア予選ではキャプテンとしてチームの初タイトルを牽引した。

【際立ったキャプテンシー】

 南が池田太監督からキャプテンを拝命したのは、オランダでの事前合宿を終え、フランス入りしてからのこと。大会初戦まで一週間を切っていたが、覚悟はできていた。

 その時の心情について南は「快く引き受けました。このチームのキャプテンをできることを誇りに思います」と穏やかな表情で語った。

 先頭に立ってグイグイ引っ張るのではなく、さりげない気配りで足りないところを埋めていくーー南はそんなキャプテンに見えた。親分肌でも熱血漢でもなく、いつもニュートラルで、チームの雰囲気を安定させられる。それも、リーダーに必要な資質だろう。

 今大会が始まる前、南はリーダーとして心がけてきたことについて、こう話している。

「今まで年下の立場で代表活動に選ばれてきたからこそ分かることもあるので、下の選手が気を遣わないで、自分の力をすべて発揮できるような雰囲気作りを考えてきました」(南/7月中旬)

 このチームは、まさにそうだった。

 チーム最年少のMF遠藤純は、2学年上の南をよく慕っていた。その遠藤が今大会で日本の快進撃を支える原動力になったことは、年齢の垣根を作らないチームにしたいと公言していた南にとっても嬉しいことだったに違いない。

練習場にはいつも笑顔が溢れていた(南は右/左は遠藤純 写真:Kei Matsubara)
練習場にはいつも笑顔が溢れていた(南は右/左は遠藤純 写真:Kei Matsubara)

 同じく飛び級で選出され、今大会で南とセンターバックを組んで6試合にフル出場したDF高橋はなは、南の頼もしさを改めて感じたという。

「普段、同じチーム(浦和)でやっている時から感じていましたけど、国際大会の舞台に立って改めて、強いし、上手いなと。普段は優しくて、試合になると気迫あふれるプレーをする。萌華さんがいるから安心してプレーできます」(高橋/準々決勝・ドイツ戦後)

 南が表情や言葉に出すことはなかったが、重圧や人知れない苦労もあったに違いない。そんな中、積極的に南をサポートしていたのが、前回大会に出場したMF宮川麻都と林の2人だ。今大会では経験を伝えるという点で、チームを水面下から支えた影の功労者でもある。

 宮川は柔らかい雰囲気でチームを和ませ、ここぞという場面では引き締めた。そして、林は数々の決定的なプレーでチームを牽引。互いに、自分にはない良さを認め合っていた3人のバランスは絶妙だった。

「私はキャプテンというキャラクターではなくて、人前で話すことも苦手なんですが(笑)、萌華は人前で話すのが上手だし、みんなを引っ張ることができる。年下ですが頼りにしています」(宮川)

「締めるところは締めて、プレーで引っ張ってくれる。オンとオフの切り替えがはっきりしていて、同い年だけど尊敬できるし見習うところがたくさんあります」(林)

 準決勝のイングランド戦の前日には3人を中心に、選手全員で集まってミーティングが行われた。過去のU-20女子W杯で日本が越えたことのないベスト4の壁を越えるために、全員でもう一度集中力を高め、心を通わせるためだ。南が選手たちに声をかけ、宮川と林は前回大会の経験を伝えたという。

 大会が長期に及ぶと慣れや弛みが生じることもあるが、試合を重ねる中で、スイッチの緩め方と入れ方をチーム全体で共有できるようになったことも大きな変化だった。試合翌日のリラックスした雰囲気から、一気に本番モードへ。その変化を、南も敏感に感じ取っていた。

「このチームは一人ひとりの意識が高いので、自分から何かを言わなくてもみんなが気をつけていてくれる。試合の中で合わなかったところを合わせるために喋る機会も、試合を重ねるたびに増えています。話すことの質もそうですし、プレーの質も上がってきました。その変化を楽しんでいます」(南/準決勝前日)

 翌日、準決勝でイングランドに2-0で快勝した日本は、過去の歴史を塗り替えた。

 そして、世界一を決める最高の舞台が、このチームで戦う最後の試合となった。

 

 グループステージでは自分たちの良さを出し切れずに0-1で敗れたスペインとの決勝戦。最終ラインから前線までがスムーズに連動した日本の華麗なパス回しに、スタンドでは「アレー!」(フランス語でallez=「行け!」の意味)の歓声が飛び交う。

 そんな中、日本は3-1とリードを奪い、やがて、ヴァンヌの夜空に歓喜の瞬間を告げるホイッスルが鳴り響いた。

 紙吹雪の中で優勝カップを高々と掲げる南を中心に全員の笑顔が弾けたその瞬間は、魅力的なサッカーとともに、この先も長く語り継がれていくことだろう。

 日本はフェアプレー賞を受賞。南はブロンズボール(MVP3位)を受賞した。

【選手として、リーダーとしてーー目標としてきた存在】

 最高の形で育成年代を締めくくった選手たちが目指す次のステップは、なでしこジャパンに入ることだ。浦和で代表選手たちのプレーを間近に見てきた南も、その未来をしっかりとイメージしてきた。

 特に、なでしこジャパンのキャプテンを務めるDF熊谷紗希は、南が目標としてきた存在だ。浦和の先輩で、ポジションも同じ。女子チャンピオンズリーグ3連覇中、フランス女子リーグでは12連覇中と無双しているリヨンの主力で、今や世界屈指のDFの一人になった。

 熊谷は南が浦和のジュニアユースに入った2011年から海外でプレーしているため、これまで試合などで共にプレーする機会はなかったものの、熊谷がオフに帰国して浦和の練習に参加した際には刺激を受けたという。

「紗希さんは、声で人を動かせる。プレーしていないところでもチームを動かしています。それ以上のことをしなければ、なでしこジャパンには食い込んでいけないと思うので、紗希さんを見習いながら、さらに頑張ります」(南/7月中旬)

 

 今後、南がなでしこジャパンに選ばれれば、熊谷のリーダーシップやキャプテンシーから学べることは沢山あるだろう。女子W杯とU-20女子W杯で世界一に輝いた2人のセンターバックコンビが実現する可能性もある。

 そのためには、所属の浦和でコンスタントな活躍を示していくことが重要だ。南は今シーズン、リーグ戦で9試合中5試合にフル出場しており、特に直近の3試合は無失点で3連勝と、いい流れで中断期間を迎えている。浦和は現在4位で、首位の日テレ・ベレーザとの勝ち点差はわずかに「2」。優勝も十分に狙える位置につけている。

 

 9月8日(土)に再開するリーグ戦では、各チームに散らばるヤングなでしこの選手たちの競演にも注目したい。その中で南もしっかりと結果を残し、2カ月後に鳥取で行われる親善試合での初招集を目指してアピールしていきたいところだ。

次のステージであるなでしこジャパン入りを目指す南(写真:Kei Matsubara)
次のステージであるなでしこジャパン入りを目指す南(写真:Kei Matsubara)
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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