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リトルなでしこが破れなかった「全試合無失点」の壁。北朝鮮とのライバル関係に見るアジアの育成力

松原渓スポーツジャーナリスト
1-0で北朝鮮に敗れた(写真:AFC)

【全試合無失点の堅守を破れず】

 1点が遠かった。

 5月19日に行われたU17女子アジアカップ。リトルなでしこ(U-17日本女子代表)はU-17朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に0-1で敗れ、連覇はならなかった。

 北朝鮮が無失点で、2大会ぶり、日本と並んで通算4回目の優勝を成し遂げた。

 今大会で全5試合に出場したボランチの榊愛花は、試合直後に涙を噛み締めながらこう語った。

「コミュニケーションの部分でしっかりクリアしきれなかったり、失点しても奪い返す得点力はもっと身につけていかないといけないなと感じました。相手の勢いに序盤圧倒された部分があって、自分たちのサッカーを最初からできなかったことが一番悔しいです」

 シュート数は相手が21本と日本は6本。枠内シュートは相手の7本に対して、日本は1本に抑えられた。

 北朝鮮は準決勝から1人しか代えず、ほぼ固定したメンバーでこの試合に臨んだ。日本は準決勝の韓国戦から3人を交代。先発GK坂田湖琳、トップ下に平川陽菜、ワントップに佐藤ももサロワンウエキが先発。フレッシュな顔ぶれで望んだが、立ち上がりの15分間は北朝鮮の猛攻にさらされた。

 ロングボールを放り込み、スピードのあるフォワードが猛然と走り込む――。立ち上がりの15分で試合を決めようという明確な意思が感じられる戦い方は、A代表、U-20代表の北朝鮮にも通じる。大会を通じて最終ラインや、要となるポジションはほぼ固定。球際の寄せは速く、縦に速いサッカーで、遠目からでも強烈なシュートを打ってくる。

少ないチャンスに関わった平川陽菜(写真:AFC)
少ないチャンスに関わった平川陽菜(写真:AFC)

 その猛攻に耐える日本は13分、平川のパスから眞城美春がシュート。ようやくファーストシュートが生まれ、試合が落ち着いた前半20分過ぎからは徐々に形も作ったが、決定的な形には至らない。

 そして、スコアレスで迎えた後半開始早々、背後を狙い続けていたチェ・イルソンがエリア内に進入。飛び出したGK坂田と太田美月がチェと交錯し、こぼれたボールに詰めていたジョン・イルチョンが無人のゴールへと流し込む。今大会5得点ずつを挙げていた2人の連係で、日本は今大会初めて先制を許した。

 その後、ポストプレーからジョン・イルチョンに強烈なシュートを許した70分のシーンや、左サイドを突破されチェ・リンジョンのフィニッシュにも象徴されるように、フィジカルの強さやエリア内の精度は相手が一枚上手だった。空中戦でも劣勢を強いられ、57分にはコーナーキックをヘディングで合わされるピンチもあった。後半は連戦の影響もあってか両者ともに疲労の色が見え、試合は停滞。

 日本は1トップの佐藤になかなかボールが入らず、白井貞義監督は長身の津田愛乃音を投入して打開を図ろうとしたが、今大会無失点の堅守を牽引してきたリ・クキャンとリ・ポムの両センターバックの壁を破ることはできなかった。

北朝鮮が無失点優勝を果たした(写真:AFC)
北朝鮮が無失点優勝を果たした(写真:AFC)

【北朝鮮とのライバル関係が育成力のバロメーターに】

 今年2月のパリ五輪アジア最終予選ではなでしこジャパンが北朝鮮相手にホームアンドアウェーの一騎打ちを制したが、3月のU-20女子アジアカップ、そして今大会は北朝鮮に王座を譲ることとなった。

 大会得点王には、6得点のジョン・イルチョンが輝き、大会MVPは日本の司令塔・眞城美春が受賞。2005年大会の原菜摘子、2011年大会の成宮唯、2013年の杉田妃和、2019年の西尾葉音に次ぐ5人目の受賞となった。

大会MVPを獲得した眞城美春(写真:AFC)
大会MVPを獲得した眞城美春(写真:AFC)

 5試合を通じて、北朝鮮が24得点無失点、日本は15得点2失点だった。個々のプレーエリアの広さやテクニックでは日本の方が勝っているように見えたが、局面の強度の高さや、決定力は及ばなかった。

 印象的だったのは、終了間際に交代を命じられたジョン・イルチョンがライン際まで歩いたところでピッチに堂々と倒れ込んだシーンだ。担架を要請している間に北朝鮮の選手たちは給水し、露骨な時間稼ぎで日本の反撃を牽制しようとした。これには遅延行為でイエローカードが出されたが、こうした勝利への執念も、年代問わず一貫している。

 なでしこジャパンの池田太監督は北朝鮮について、「しっかりと止める、蹴る、走る、ゴールに向かうバックパスが少ない。そういう姿勢を徹底する力がすごい。その徹底力は我々も必要になる」と話していた。国際舞台を離れていた4年間(コロナ禍は対外試合を制限した)の影響も感じさせず、育成年代の実力にも翳(かげ)りは見られない。

 長い目で見れば、それは日本にとってもプラスと捉えることができるだろう。女子サッカーヨーロッパの勢力が増している中で、U-17女子ワールドカップで2度の優勝経験を持つ(日本は1回)北朝鮮とのライバル関係は、アジアの育成力を図るバロメーターともいえる。

白井貞義監督
白井貞義監督

 U-16女子代表との兼任でリトルなでしこを率いる白井監督は、この年代で「U-20年代の強度の基準をクリアすること」を求め、それ以外の部分でも基準を引き上げようとしてきた。

「自分たち主導で守備を組み立て、ゲームが作れるような力をこの世代で身につけることができたら、次のU-20世代ではさらに違うことにもチャレンジしていけると思います」(今大会前のコメント)

 実際、日本の17歳以下の世代の平均身長は緩やかに向上しており、複数のシステムやポジションをこなせる力も当たり前のように求められるようになった。その基準をさらに上げ、白井監督が求める主体性を身につけるために、個々のプレー環境や取り組みがカギになる。

「この悔しさをW杯で消すためにも、またチームで積み上げて、自分もチームを勝たせられる選手になることと、チームでもっと一体感を持って高め合って、絶対にワールドカップで優勝できるように頑張りたいです」

 榊はそう語った。大会後は、WEリーグ、高校、なでしこリーグと、選手たちはそれぞれの主戦場へと戻っていく。今年10月のU-17女子ワールドカップに向けて個々が更なる飛躍を遂げ、世界の舞台で輝くために。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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