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AFC女子アジアカップが開幕!初戦・ベトナム戦に臨む高倉ジャパンの見どころは?

松原渓スポーツジャーナリスト
初戦に向け最終調整を行ったなでしこジャパン(写真:Kei Matsubara)

 2019年のFIFA女子ワールドカップフランス大会の出場権をかけたAFC女子アジアカップが、6日(金)、ヨルダンで開幕した。

 前回大会(2014年)王者の日本は、連覇を目指し、7日(土)のグループステージ初戦でベトナム女子代表と対戦する。

 出場国は、日本、オーストラリア、韓国、ベトナム、ヨルダン、中国、タイ、フィリピンの8カ国で、上位5カ国がW杯出場権を獲得できる。4チームずつ2つのグループに分かれて戦い、グループ2位以内に入れば出場確定だが、グループ3位になった場合は5位決定戦の勝者が最後の1枠を手にする。

 前回王者の日本にとって高いハードルには思えないが、組み合わせは厳しい。グループBの日本は、アジア上位国のオーストラリアと韓国、そして、成長著しいベトナムの3カ国と同組。中でも、オーストラリアと韓国との2試合は激戦必至だ。

 高倉麻子監督は、大会に向けて「ある程度、予選(グループステージ)にすべてをぶつけていくつもりです」と話し、そのためのプランもあると明かした。

 グループステージの3戦で、高倉ジャパンがチーム作りにかけてきた2年間の成果が問われる。

【理想と現実のギャップを乗り越えて】

 技術と駆け引きを生かし、多彩なコンビネーションからゴールを奪うーー日本は高倉監督の下、攻撃的なサッカーを志向してきた。

 同時に、誰が出てもサッカーの質が落ちず、過密日程や連戦に耐えうるチームを目指し、メンバーやポジションを試合ごとに変化させてきた。

 だが、理想とは裏腹に厳しい現実も立ちはだかった。

 攻撃では、先発メンバーや選手同士の組み合わせを固定しないためにコンビネーションやホットラインを構築しづらく、本職でないポジションで起用された選手が持ち味を発揮できないジレンマにも陥った。守備では、組み合わせが変わる中でピッチに立つ選手の状況判断に依存する部分が多く、コミュニケーション不足から失点を招いたことも。

 あらゆる状況に対応できる“柔軟性”を追求してきた中で、逆に、チームとしての武器はなかなか見えてこなかった。

 しかし、チャレンジを続けながら、チームは少しずつ、確実に前進していた。

 選手は高倉監督の様々な起用に応える中で変化への対応力を身につけ、悔しい思いを共有しながら、ベテラン、中堅、若手が距離を縮めていった。そして、互いの特徴を生かし合うプレーが増えた。

 また、国内で味わえないパワーやスピードを海外遠征で体感し、意識が変わったことで、何人かの選手はフィジカルを強化してきた。その取り組みが、実を結び始めている。

 この2年間、様々なテーマに「同時進行」で取り組み、理想と現実のギャップを乗り越えようとチャレンジしてきた高倉ジャパンが、今大会でどのような成果を見せてくれるのか、楽しみだ。

 このチームを率いるリーダーの存在について、高倉監督は初戦前日に次のように語っている。

「以前のなでしこジャパンは、宮間(あや)選手や澤(穂希)さんが強い光を放つリーダーだったと思いますが、今のなでしこは、みんなが少しずつ灯りを持ち寄って方向を示してくれています。遠慮がちなリーダーたちですが、みんながなんとかこのチームを照らそうと努力してくれているので。その光が合わさった時に強い光になることを期待しています」(高倉監督)

 代表経験が浅い選手が多い中、チームを牽引してきたのは、キャプテンのDF熊谷紗希、MF阪口夢穂、DF宇津木瑠美、DF鮫島彩ら、以前の代表では中堅の立場で世界大会を勝ち抜いた選手たちだ。この4人に、2月にケガから1年ぶりに復帰したDF有吉佐織と、今大会で初招集されたFW川澄奈穂美の2人が加わり、チームの雰囲気はさらに良くなった。

 大会直前にMF中里優がケガでチームを離脱するアクシンデントに見舞われ、新たにMF阪口萌乃が招集された。阪口(萌)は、2月の「なでしこチャレンジ」に選ばれたが、A代表は初招集。すべてが「ぶっつけ本番」の状況だが、今のチームには、新しい個性を受け入れる柔軟さと雰囲気の良さが感じられる。

【ベトナム戦の見どころ】

 初戦で当たるベトナムは、近年、成長著しいチームではあるものの、グループBの中ではFIFAランクが最も低い35位。6位のオーストラリア、11位の日本、16位の韓国にとって格下だ。

 ベトナムがこの厳しいグループでW杯出場権につながる3位以内に入るためには、得失点差も重要になるため、初戦は日本に対して守備重視で臨んでくる可能性が高い。その中で特に注目したいポイントの一つが、自陣に引いた相手を崩す日本の攻撃のバリエーションだ。

 長崎で4月1日(日)に行われたガーナとの親善試合(○7-1)で、日本が決めた7点のうち、流れの中からのゴールが6点を占めた。その中で、サイドバックとサイドハーフの効果的な攻め上がりが、日本のボールポゼッションをより効果的にゴールに結びつけていた。

 

 中でも、右サイドバックのDF清水梨紗のグラウンダーのパスからFW菅澤優衣香が決めた6点目と、相手陣内の深い位置から右サイドハーフの川澄があげたクロスを鮫島が決めた7点目は、これまであまり見られなかった、鮮やかなサイドアタックから生まれたゴールだった。

 このガーナ戦で後半途中からピッチに立ち、果敢なオーバーラップを見せた清水は、日本の攻撃に新たな彩りを加えている。2月のアルガルベカップでA代表初出場を飾った21歳は、所属チームの日テレ・ベレーザではセンターバックだが、もともと本職はサイドバックで、年代別代表の経験も豊富だ。

 ガーナ戦では、

「サイドを上がるプレーが自分の持ち味なので、どんどん出していこうと思った」(清水)        

 と、限られた時間の中で、持ち味のスピードとアジリティの良さを存分に発揮した。

 小柄な体にとんでもないスタミナを秘めており、涼しい表情でタッチライン際を何度も駆け上がるプレーは真骨頂だ。

所属のベレーザではスピードを生かし、センターバックとして活躍する清水梨紗(2018年3月21日、リーグ開幕戦 写真:西村尚己/アフロスポーツ)
所属のベレーザではスピードを生かし、センターバックとして活躍する清水梨紗(2018年3月21日、リーグ開幕戦 写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 代表の右サイドで清水が縦の関係を組むサイドハーフの選手は、川澄やMF中島依美など、代表経験豊富な選手が多い。だからこそ、清水は自分の特徴を出すことを恐れず、遠慮せず、分からないことは積極的に聞きにいく。

「私は(A代表で)まだ経験が少ない分、負のイメージもないので若手らしく、思い切ってプレーしたいと思っています。年上の選手たちは引っ張っていってくれるし、みんな話を聞いてくれる。私生活でもすごく話しやすいし、プレーでも要求しやすいです」(清水)

 

 今大会の目標については、試合に多く出ることと、守備の選手としてチームの失点を減らすことを挙げた。ベトナム戦でも、清水の思い切りの良い攻撃参加やクロスからのアシストに期待したい。

 

 ベトナム戦は、日本時間7日(土)の22時30分より、テレビ朝日系列(地上波)にて生中継される。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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