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埼玉に射し始めた光明。残り2試合で残留を決められるか?

松原渓スポーツジャーナリスト
球際で粘りを見せる(鈴木薫子、2017年開幕戦(C)長田洋平/アフロスポーツ)

【熾烈な残留争いの中で】

 なでしこリーグは、9月23日(土)に行われた第16節で日テレ・ベレーザが優勝を決めた。一方、残留争いの行方は混戦の様相を呈している。

 なでしこリーグ1部のレギュレーションは、シーズン18試合を終えた時点で10位(最下位)のチームが2部に自動降格、9位のチームが2部の2位チームとの入れ替え戦に回る。

 残り2試合の結果次第で、最下位になる可能性があるのは3チーム。現在、最下位の伊賀フットボールクラブくノ一は特に厳しい状況だが、2連勝した上で、他のチームの結果次第では8位まで順位が上がる可能性も残っている。

 また、9位になる可能性は4チームにあるが、その4チームすべてが上位3チームとの対戦を残しており、どのような結末が待っているのか、まったく予想がつかない。

 そんな中、直近の2試合で2連勝と好調なのが、ちふれASエルフェン埼玉(以下:埼玉)だ。

 9月17日(日)に行われた第15節のマイナビベガルタ仙台レディース戦を1-0で勝利して最下位を脱すると、9月24日(日)の第16節、AC長野パルセイロ・レディース(以下:長野)戦も2-1で勝ち、今シーズン初の連勝を飾った。その結果、8位のノジマステラ神奈川相模原に勝ち点「14」で並び、ついに目指してきた1部残留を視野に捉えた。

 埼玉は2015年にリーグ最下位で2部降格の憂き目にあったが、翌シーズンは2部で2位になり、入れ替え戦を勝ち抜いて1部に復帰。

 しかし、今シーズンの開幕前には主力選手たちの他チームへの移籍もあり、1部で初めてプレーする選手が多く、厳しい戦いになることが予想された。

 埼玉の元井淳監督は、苦悩が続いた今シーズンの戦いを次のように振り返る。

「我々は今年、10番目のチームからスタートして、一つでも上の順位に上がることを目指してチャレンジしてきました」(元井監督)

 

 埼玉で11年目のシーズンを迎えるMF薊(あざみ)理絵は、キャリアの中で2部降格を2度経験しており、1部で戦うことの厳しさを誰よりも知っている。シーズン開幕前に話を聞いた際、薊の言葉には強い覚悟が感じられた。

埼玉一筋で11年目を迎える薊は中心選手の一人だ(対ベレーザ戦、2017年3月26日(C)長田洋平/アフロスポ ーツ)
埼玉一筋で11年目を迎える薊は中心選手の一人だ(対ベレーザ戦、2017年3月26日(C)長田洋平/アフロスポ ーツ)

「私たちはチャレンジャー精神を持ち続けなければいけないし、最後まで、(足の)指先まで力を込めて全身で戦う、その意識を全員が持たなければいけないと思います」(薊)

 埼玉の試合を見るたびに、その薊の言葉を思い出した。

 今シーズン、筆者が見た3試合はいずれも埼玉が押し込まれる時間帯が長かったが、球際の執念やボールを追う姿勢など、そのサッカーからは「必死さ」が伝わって来た。

 薊、FW鈴木薫子、FW高橋彩織ら、経験のある選手たちが中心になったカウンター攻撃は埼玉の得点パターンの一つだ。しかし、その形が綺麗にはまることは1試合に数えるほど。

 むしろ、狙ったカウンターよりも、自陣からクリアしたボールを追って泥臭くシュートまで持ち込む形が多く、1部での強さや巧さを現実的に受け止めながら、「なんとか勝ち点を取りたい」という執念が感じられた。

正確なキックで展開するMF高野紗希もカウンターの起点になる存在だ(対ベレーザ戦、2017年3月26日(C)長田洋平/アフロスポーツ)
正確なキックで展開するMF高野紗希もカウンターの起点になる存在だ(対ベレーザ戦、2017年3月26日(C)長田洋平/アフロスポーツ)

 今シーズン、埼玉がリーグ戦で敗れた10試合のうち、7試合が1点差だった。その中には上位の日テレ・ベレーザ戦やINAC神戸レオネッサ戦も含まれており、あと一歩、という試合も多かった。最後までその1点差が埋まらず、勝ち切れなかったことは埼玉の喫緊の課題だった。

【変化の手応え】

 残留するためには1試合も負けられないーーそんな状況でホームに長野を迎えた第16節の勝利は、最終戦まで2試合を残しているチームに、大きな自信と活力をもたらした。

 この試合の前半14分、右サイドで長野の最終ラインにプレッシャーをかけた薊がボールを奪うと、鈴木がゴール正面でボールをキープしながら相手ディフェンダーを引き付けた。そこに薊が走りこんでパスを受け取り、薊からのパスをMF竹ノ谷好美が右足でゴール左隅に蹴り込んだ。

「イメージ通りのシュートで点を決められて良かったです。今日は、点を獲ることしか考えていませんでした」(竹ノ谷)

 竹ノ谷は試合後、リーグ初ゴールに表情をほころばせながら、話をしてくれた。

 埼玉の1点リードで迎えた後半は、長野に押し込まれる時間帯が続く中、73分に長野のMF中野真奈美のゴールで同点に追いつかれたが、79分には途中出場のMF西澤日菜乃が決勝点を決めた。

 右サイドで薊がドリブルで何度も切り返し、対峙するディフェンダーをかわして深い位置まで侵入した後、ゴール前にクロスを上げると、中央からペナルティエリアに走り込んだ西澤が頭で合わせた。

 ラスト10分余りで再びリードした埼玉は、そのまま長野の猛攻をしのぎ切って勝利。

 2得点をアシストした薊は試合後、接戦を勝ち切ったチームに変化の手応えを感じていた。

「追い込まれた時に、気持ちの部分で粘れるようになりました。以前なら、『そこでもっと(マークに厳しく)行って!』と声をかけていた場面で、体をぶつけて戦ってくれている仲間に『ナイス!』と言えるようになりました。連携が良くなって、(守備で)迷いなく当たりに行けていることも、チームが成長できている部分だと思います」(薊)

【育成の充実】

 ゴールを決めた竹ノ谷と西澤はともに、今年、下部組織のちふれASエルフェン埼玉マリ(以下:埼玉マリ)から昇格した生え抜きの18歳だ。その2人が決めたという点も、勝利の喜びに華を添えた。

「今日は、前座試合をやっていた(埼玉)マリの選手たちもスタンドから応援してくれていました。(竹ノ谷と西澤の)2人のゴールはそういう選手たちの力になると思うし、トップチームの選手も負けていられない、と刺激になります。本当に、いい得点でした」(薊)

 埼玉マリは、U−18年代の女子クラブチームで行なわれている「関東プリンセスリーグ」に参加しているが、このリーグには日テレ・メニーナや浦和レッズレディースユースなど、なでしこリーグの各チームの下部組織が集う。

 その中で、埼玉マリは毎年、上位グループにいて、昨年は10勝2敗で13チーム中2位だった。チームを率いるのは、かつて日テレ・ベレーザや伊賀フットボールクラブくノ一で監督を歴任した大須賀まき監督。

 下部組織の充実は、長期的なクラブの発展を支える。その意味でも、2人のゴールは大きかった。

 元井監督は、2人の活躍がチームの刺激になることに期待している。

「絶対に使う、と決めている選手はいないし、いろんなポジションで組み合わせにトライしてきた中で今週、チャンスをつかんだ2人が結果を残したことに誇りを感じます。気持ちも含めてプレーヤーの資質だと思いますし、野心を持って、これで満足せずに残り2試合も戦ってほしいですね。他の選手たちにも期待しています」(元井監督)

 1部残留に向けて、埼玉はラスト2試合を勝つことがとても重要だ。

 残す2つの対戦相手は、2位のINACと、3連覇を決めた女王、ベレーザのリーグ2強だ。

 

 「2チームのクオリティは1部の中でも抜けている」と、元井監督も厳しい戦いを覚悟しているが、最後まで諦めない強い気持ちが大きな山を動かす可能性は、十分にある。

 埼玉は次節、10月1日(日)に、アウェイのノエビアスタジアム神戸でINAC神戸レオネッサと対戦する。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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