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日テレ・ベレーザのスタイルを支える育成チームの存在。メニーナ・寺谷真弓監督の指導哲学に迫る(2)

松原渓スポーツジャーナリスト
昨年、なでしこリーグカップを無敗で優勝したベレーザ(写真:アフロスポーツ)

嫌われても、10年後に良かったと思ってくれればいい

「怒られているうちが華」と言うが、厳しく接する指導者が少なくなった今、育成年代で愛を持って叱り、子供たちを導くことができる指導者の存在は貴重である。

日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)の下部組織である日テレ・メニーナ(以下:メニーナ)の寺谷真弓監督は、2000年〜2001年にベレーザとメニーナのコーチを務めた後、2002年にメニーナの監督に就任。チームの育成部門に関わり続けて18年目になる。

長年、育成年代のチームを指導してきた寺谷監督に話を聞いた。

日テレ・ベレーザのスタイルを支える育成チームの存在。メニーナ・寺谷真弓監督の指導哲学に迫る(1)

「私は選手に嫌われても、10年後に良かった、と思ってくれればいいという思いで指導しています」と、寺谷監督は言う。中学生になったばかりの選手たちは怒られれば嫌がり、ふてくされることもある。しかし、そこで自分の弱さと向き合い、乗り越えることで、結果的に苦手なことにチャレンジする力がつくと、寺谷監督は考えている。

『ベレーザの35年/創部35周年記念誌』によると、現在、ベレーザで活躍するメニーナ出身の選手たちからは、「人間としても成長できた」(MF長谷川唯/DF清水梨紗)、「大事な年代にテラさん(寺谷監督のニックネーム)の指導を受けることができて良かった」(MF中里優)「中・高年代にしっかり育成してもらった」(FW田中美南)など、寺谷監督に感謝する声が多く上がっている。田中によると、寺谷監督のカミナリは、今でも語り草になっているという。

夏の走りこみによって培われたスタミナ

これまでの「辛かった思い出」については、複数の選手が「テラさんの走り」(MF中里優/FW籾木結花/DF土光真代/DF村松智子/DF宮川麻都)や「夏の2部練習」(DF清水梨紗/FW鳥海由佳)と答えている。過酷な夏の走り込みによって培われた精神力やスタミナは、その後、ベレーザでプレーすることになる選手たちの礎になっている。

「夏場は、わざと走りこむ時期を作ります。フィジカルとメンタルを鍛えるので、通称は『フィジタル』。中里(優)や田中(美南)の年代は、試合に負けて走らせたこともありますが、追い込めば(悔しがって)応えてくるものがありましたね。今はそういうことに耐えて、バネにして跳ね返す、というタイプの選手は少ないので、『負けて走らせる』ことはしないです」(寺谷監督)

今は、フィジカルトレーニングでもボールを使ったメニューを多くしている。狭いスペースで切り替えが多いゲームを想定し、より実戦に近い状況でフィジカルを鍛えることが効果的だと考えるようになったからだ。

寺谷監督にまつわるエピソードでは、ほかにも「(学校の)成績表を見せては、毎回、怒られまくった」(原菜摘子さん/2015年シーズンで引退)、「声を出せなくて、試合中に『植物』と言われた」(宮川)など、今では笑えるエピソードも多い。どうやら、私生活でもかなり厳しかったようだ。そのことに触れると、懐かしそうに目を細めた。

「そんなこともありましたね(笑)。以前は、バレないと思って髪の毛を少しずつ茶色くしていったり、見ていないところで悪さしてやろう、とか、抜け目ない選手もいたんです。私生活はサッカーにも出ると思うので、その時は注意しました。でも、最近は、そういうことをやる前に『バレたら怒られるから』と、やらない子が多いですね。ただ、サッカーはギリギリのところを渡り合って駆け引きしていくわけですから、正直すぎるだけでは……とも思いますが(笑)」(寺谷監督)

MF三浦成美は、「人の良さは私生活だけにしなさい」と、寺谷監督に言われたことを覚えている。

「それでは生き残っていけないよ、と。自分の弱い部分をすべて指摘されて、泣きました。全部、見抜かれていたんです。自分と向き合うことができて、今となっては本当に感謝しています」(三浦)

選手の心を刺激する

ハングリー精神や勝利に対する執着心は、育った環境によって左右される部分が大きい。叱った分だけ食らいついてくるのならまだいい。そうではない時に、寺谷監督は選手たちの心をどのように刺激し、能力を引き出すのか。

「今のメニーナの子たちには、『あんたたちは世界一にはなれないよ』と言い続けているんです。そして、『世界一になったら私があなたたちに土下座するから、なってみなさい』と。個人の力も気持ちも、足りないと思うからです。女子サッカーがそれなりにメジャーになってきた中で、恵まれた環境でサッカーしてきた子たちが多いですし、技術はあるから、小さい時から『うまいね』と言われてきている。ただ、私は(2011年に)世界一になった今までの選手も含めて見てきたので、今の子たちには『あんたたちは大したことないよ』と率直に言いますし、悔しがって伸びてくれればいいな、と思っています」(寺谷監督)

褒め方にも、育成年代を見続けてきた寺谷監督ならではの基準がある。

「良いプレーができる選手は褒めるポイントがたくさんあるのですが、そうではない選手は、一生懸命に声を出したり、一週間の練習ですごく頑張っていた場合に、いつもの順位を飛び越えて試合に使うことがあります。グラウンドで良いプレーをすることだけが選手の評価ではないし、そうすることで、うまい選手も気づくことがあると思うからです」(寺谷監督)

選手のわずかな動静を見逃さない。言葉で褒めることもあるが、選手たちは常に「見られている」と感じることで、伸びていく。

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スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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