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日テレ・ベレーザのスタイルを支える育成チームの存在。メニーナ・寺谷真弓監督の指導哲学に迫る(3)

松原渓スポーツジャーナリスト
リーグ3連覇に向けて好調のベレーザ(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

なでしこリーグ3連覇に向けて、今シーズンも順調な戦いぶりを見せている日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)。その下部組織で、ベレーザや年代別代表に多くの選手を輩出し続けているのが日テレ・メニーナ(以下:メニーナ)だ。

メニーナ出身で、2017年、なでしこジャパンに初招集されたMF隅田凜、FW籾木結花、MF長谷川唯の3人は、どのような成長曲線をたどったのか。

戦術理解度を高めるために、育成年代でどのような指導をしているのか。

メニーナの寺谷真弓監督に話を聞いた。

日テレ・ベレーザのスタイルを支える育成チームの存在。メニーナ・寺谷真弓監督の指導哲学に迫る(1)(2)

ピークのタイミングはそれぞれ

「中学の3年間で、選手は一人につき2回ぐらい、ピークがあるんです。メニーナに入ってすぐに良くなる子がいる反面、停滞していて、ある時を境に急に良くなる子もいます。タイミングは身体の成長と一緒で、それぞれ違いますね」(寺谷監督)

2017年、ベレーザからは新たにMF隅田凜、FW籾木結花、MF長谷川唯の3人が、なでしこジャパン入りを果たした。メニーナ出身の3人は、どのような選手だったのか。

「籾ちゃん(籾木結花)は、サッカーのセンスとか理解力、判断力や考え方が中学1年生で入ってきた時からある程度備わっていましたね。練習の中で自分で足りないと思うことを肉付けしたり、本能的にやっていた自分のプレーを分析して論理的に納得してできるようになった部分はあると思いますが、(私が彼女のそういった資質に対して)指導で手を加えることはしませんでした。

(隅田)凜は、元々、高いセンスを持っていたのですが、体も小さかったので相手に潰されて、そのセンスが全く出せていなかったんです。

身長が伸びて、体がある程度、出来上がってきた中3の後半から試合で力を発揮し始めましたね。

ただ、最初は本当におとなしくて、存在感を消しているような子でした。籾ちゃんと(長谷川)唯が中学一年生で入ってきた時に凜は二年生だったのですが、下の世代に完全に食われていて。いいものを持っているのに、それを自分で出すという気持ちの強さが足りないと思い、高校1年生の時に無理やりキャプテンにしたこともあります。その時は『嫌がらせですか?』と言われたので、『そうです』と答えました(笑)。

唯は、凜よりもさらに小さくて、入ってきた中1の頃に小学校3、4年生ぐらいの体の大きさしかなかったんです。

足下の技術はその頃から高かったですね。局面のうまさだけかなと思いきや、試合では全体が見えていたり、予想もしないところにパスを出すことがあったので、『あのパスはたまたまなの?』と聞いたら、『見えていました』と。そういうことが中1の時から何回かあって、この子はそういう(遠くを見る)力があるんだな、と感じていました。

中2の後半から試合に絡むようになりましたが、とにかく気が強い子で、同年代の仲間に対しても試合中にキツい言い方をしていたことがあり、注意したことがありますね」(寺谷監督)

3人は異なる成長過程を経て、年代別代表で活躍したのち、ほぼ同時期になでしこジャパン入りした。

育成年代の戦術指導

技術だけでなく、戦術理解力などのインテリジェンスを高める取り組みも、育成年代の早いうちから始めたそうだ。

なでしこリーグの試合後に選手に話を聞くと、ベレーザでは試合状況や時間帯ごとの狙いを詳細に分析して振り返ることのできる若い選手が多い。メニーナでは、どのような戦術指導を行っているのだろうか。

「たとえば、前半がうまくいかなかった時に、ミーティングで『どうしてビルドアップで前に行けなかったと思う?』と聞いてみるんです。そこで、『相手が3バックだった』とか、『相手が3トップでプレッシャーをかけてきたからボールが回らなかった』、『途中で相手がラインを上げてきた』といったことに気づいているのかを確認します。

『相手が前からきていて、一個飛ばしたパスができないから』と答えることができたら、『そうだよね』と。練習のゲームでも、『まずビルドアップを考えて、試合の序盤で、相手が前からプレッシャーをかけに来ているかどうかを見極めなさい』と繰り返し伝えて習慣にさせ、自分で判断できるようにしています」(寺谷監督)

寺谷監督は育成年代でも、「勝つことは絶対」だと考えている。ただし、「勝利を優先するために守る」サッカーはしない。相手を研究してウィークポイントを突くことはあるが、あくまでも自分たちのサッカースタイルを貫き、攻める。この年代から取り入れている選手同士が連動するパスサッカーは、やがて、ベレーザのスタイルに繋がっていく。

自分のプレーに対する責任は、しっかり取らせる。個性は伸ばすが、ワガママは認めない。

「『攻撃で好きなことをしたいなら、ボールは自分で取り返しなさい』と言っています。攻撃で好きなプレーをして点を獲る選手が、味方が攻められている時は前に立って見ているだけ。それは、(メニーナでは)許しません。主張が強すぎる選手は、入ってきてしばらくは自由に泳がせますが、だんだん『これはダメだ』と整理していきます。それで何もしなくなってしまう場合には、『このプレーはしていい、するべき』ということを伝えていくようにしています」(寺谷監督)

中・高校年代は、心と体の成長と変化が大きく、思春期の難しい時期でもあるが、メニーナではチーム内で諍(いさか)いごとが少ないという。

それは、年上の高校生が中学生を見守ることで、チーム内に自浄作用が働くからだ。何かあれば、寺谷監督が年上の高校生に働きかけることもあるというが、基本的には自分たちで解決させている。

そこで仲間になれない選手は、残れない。そういった、選手たちの自主性を重んじる指導法やチーム運営は、メニーナとベレーザに共通するこのクラブの伝統でもあり、哲学とも言える。

メニーナはベレーザと合同で練習をすることもあり、それも、メニーナの選手たちのモチベーションを高く維持することにつながっている。 

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に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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