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ベルギーとの親善試合は1−1のドロー。なでしこジャパンが欧州遠征で得た収穫と明らかになった課題(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
日本サポーターも応援に駆け付けた(C)松原渓

【3バックにチャレンジした日本】

3歩進んで、2歩下がるーー。

チームの成長とは、そういうものかもしれない。

ベルギーに遠征中のなでしこジャパンは、6月13日(日本時間の14日)、Stadium Den Dreef Louven(ルーヴェン/ベルギー)でベルギー女子代表との親善試合を行い、1-1で引き分けた。

作られたチャンスの数を考えれば、むしろ内容はベルギーに分があった。

結果はドローだったが、試合後の両チームの表情は対照的だった。

チームカラーの赤いマフラーを振って健闘をたたえるスタンドのサポーターの声援に応えていたベルギーの選手たちは、ロッカールームに引き上げてくる最中、笑顔でハイタッチをかわした。逆のロッカールームに向かう日本の選手たちは、一様に悔しさを隠さず、厳しい表情だった。

1ヶ月後に女子ユーロ(欧州選手権)2017本大会を控えたベルギーは、この試合で大きな手応えを得た。 国際大会の実績がないベルギーにとって、ワールドカップ優勝経験を持ち、ヨーロッパにはないタイプのサッカースタイルを持つ日本と引き分けたことは自信になったはずだ。試合内容も、日本相手に積極的な試合を展開した結果のドローだった。

一方、日本にとっては、厳しい現実を突きつけられる一戦だった。

「チームの土台が少しずつ出来上がってきていると感じていましたが、今日の試合で、まだ揺らいでいると感じました」(高倉麻子監督)

高倉監督は、この試合で就任以来、初となる3バックのシステムを採用した。

これまで継続してきた4−4−2のシステムでは、メンバーを固定せず、様々な選手を複数のポジションで起用してきた。

4月上旬に熊本で行われたコスタリカ戦では、A代表初出場を飾ったDF市瀬菜々、MF隅田凜、FW上野真実、DF大矢歩の4人が、それぞれに積極的なプレーを披露し、既存戦力とのコンビネーションで面白い攻撃を見せた。チーム内の競争力の高まりとともに、本職ではないポジションで起用された選手も、自分の持ち味を出そうと積極的にプレーすることで、誰が出ても、コンビネーションや試合運びにおいて一定の質を保てるようになってきていた。それが、現在のチームが築き上げてきた土台である。

その上で、この試合でチャレンジした3バックは、対戦相手や、試合状況に応じて、柔軟に対応できるようにするためのオプションであった。

しかし、この試合で、日本は危険な形でボールを失い、ベルギーにいくつかの決定機を作られ、3バックの利点を活かして勝ち切ることはできなかった。

【変えられなかった攻撃のリズム】

日本のスターティングメンバーは、GK山根恵里奈、DFラインは左から、市瀬菜々、熊谷紗希、高木ひかり。MFの阪口夢穂と中里優がボランチを組み、2列目は左サイドにMF杉田亜未、右サイドにMF中島依美。FW長谷川唯がトップ下に入り、FWの横山久美と田中美南が2トップに並んだ。

4−4−2のシステムで臨んだベルギーに対し、日本はセンターバックの熊谷、高木、そして市瀬の3人がピッチを広く使い、サイドハーフの中島と杉田が状況に応じて最終ラインに入ることで、4バックにも5バックにも対応。中盤では状況に応じてMF阪口とMF中里が縦の関係で攻守のバランスを補完し合い、前線の3枚も状況に応じて柔軟にポジションを変えることで、ベルギーのマークを無効化した。

初めて臨む3バックのシステムは、準備にわずか2日間を費やしただけとは思えないほど、機能しているように見えた。

しかし、日本の攻撃を司るMF阪口は、3バックにすることで厚みを増した中盤で自由に動ける楽しさを感じつつ、物足りなさも感じていた。

「前半は、ボールを動かせていても、どこで勝負パスを入れるかということが見出せずに、ただ、ボールが回っているような感覚でした。みんなも良い位置に立っていましたけど、パスを回すテンポがずっと同じだったんです。ダイレクトで縦パスが入ったら、スイッチを入れられるシーンもあったのかな、と」(阪口)

狭いスペースでもテンポよくパスはつながるが、効果的な縦パスが入らず、ペナルティエリアに侵入できない。

その状態で日本が主導権を握れたのは前半30分までで、それ以降はビルドアップ時のパスミスや、自陣での危険なトラップミスなど、自滅する形で立て続けにピンチを招き、流れを失っていった。

前半、ベルギーは自陣に引いてカウンターを狙っていたが、パスの精度が低く、その攻撃にまったく怖さはなかった。しかし、日本は35分にペナルティエリアの左側中央で与えたフリーキックと、43分の右コーナーキックの場面ではゴール前でベルギーの選手に完璧に競り負け、危険なシュートを浴びた。

【押し込まれた後半】

そして後半、ドイツ1部の強豪、ヴォルフスブルクでプレーするベルギーのFW ウラートが入ると、日本は形勢逆転を余儀なくされた。高い位置でボールを回せなくなり、ビルドアップ時のパスミスからカウンターを受ける厳しい時間帯が続いた。55分には最終ラインでGK山根のトラップミスからピンチを招いたが、相手のシュートミスに助けられた。

日本が先制に成功したのは、そんな時間帯が続いていた69分のことだ。

相手陣内の左サイド中央あたりでFKを獲得した日本は、67分にFW横山に代わって入ったFW籾木結花がFKを蹴ると、ゴール左隅に飛んだボールを相手がクリアミス。そのボールを後半、FW田中に代わって入ったFW菅澤優衣香が左からねじ込むようにして決めた。

しかし、日本はそのアドバンテージを活かすことができず、3分後にあっさり失点を許してしまう。

右サイドのロングボール一本でカウンターを許すと、ボールを受けたベルギーのMFケイマンがドリブルで縦に仕掛けた。対峙したDF鮫島が間合いを取りながら牽制したが、相手が切り返したところで、ピッチに足を取られて一瞬、対応が遅れると、左足でゴール前に正確なクロスを上げられた。ゴール前に走り込んでいたMF ファンゴープにはMF中島が並走してマークについていたが、背後でヘディングで合わせられ、シュートはゴール左隅に決まった。

「後半はボールの獲られ方が悪くて、攻め残っている(ベルギーの)選手にうまく前を向かれてカウンターを受けるシーンが多く、自分たちの悪いところが出てしまいました」(阪口)

ラスト20分、日本は勝ち越しゴールを狙ったが、パスミスや判断ミスは減らず、セカンドボールもほとんど相手に渡してしまう状況が続いた。それでも、ゴール前では相手のミスに助けられ、なんとかピンチを切り抜けた日本は、1−1の引き分けで試合を終えた。

【攻撃陣の連携アップに期待】

試合を振り返れば、個人のミスの多さも目立ったが、総じて浮かび上がる課題は、やはり攻撃面に尽きる。

「効果的にボールを動かし、いろいろな形から点を取る」という、今回のオランダ・ベルギー遠征を通じたテーマは、この試合でも改善されなかった。

90分を通じて、菅澤のゴール以外で、日本がゴールの匂いを感じさせたのは、前半7分の横山のシュートだけである。

中央からペナルティエリア内に飛び出したMF阪口に、DF熊谷が正確なロングパスを通し、阪口がヘディングで後ろにそらすと、ペナルティエリアの外で待ち構えていたFW横山がすかさず右足を一閃。シュートはクロスバーを叩いた。

ファーストタッチから足を振るまでの一連の動きに一切の無駄がなく、どの位置からでも自分のシュートの「形」を持っている。やはり、横山はシュートにおいて非凡なものを感じさせた。

チームとしてそういう場面を作るための引き出しを増やすことは、今後の課題になる。

また、前線ではFW長谷川が、正確なトラップと細かいボールタッチで、プレッシャーをかけてくる相手の逆を取り、単調になりがちなパス回しにアクセントを与えようと奮闘した。

「ボールを受けて前を向くのが好きなので、間で良いパスを引き出したり、味方が出しやすい良い位置に動くことを常に意識しています。(3バックをやる上で)ビデオでバルセロナの3−4−3を見て参考にした際に、バルセロナは前の3人が自分の立ち位置からそれほど大きく動くことがなくて、少しずれて、ボールを受けるシーンが多かったんです。特に前半はそれを意識して、前で絡める場面が増えました」(長谷川)

長谷川の縦パスやクロスから決定機につながった場面は、いずれも、味方のトラップミスやシュートミスによってゴールにはならなかったが、長谷川を経由する攻撃は今後、さらに周囲とのコンビネーションを高めることで、日本の強力な武器になり得る。

【経験という収穫】

この試合からあえて収穫を挙げるとすればーーという質問に対し、高倉監督は次のように答えた。

「今日の試合は、また一つ経験を積みながら上に行けるかなと思ったのですが、そう簡単にはいかなかったです。一歩進むとまた一歩戻って、進んで、戻って、という感じですね。ただ、ダラーっとしたままゲームが流れて、結局、引き分けに持ち込まれてしまった、というゲームを経験して、今後そういうゲームにしないようにしよう、という思いを全員が共有できたことは収穫だと思います」(高倉監督)

日本は今回のオランダ・ベルギー遠征を1勝1分けで終えた。

オランダもベルギーも、ユーロ開催を控えてモチベーションが高く、会場の雰囲気も良かった。そんな中で、2試合を経験できたことは収穫だ。

オランダ戦では特に守備面で、日本の裏のスペースに蹴ってくる相手に対して、「蹴らせてから奪う」守備を徹底。これまで積み上げてきた、前線からボールを奪いに行く守備をベースとして、チームとしての戦い方の幅を広げた。

一方、ベルギー戦では、このチームの課題である攻撃面の課題は解消されず、今後に持ち越されることになったが、実戦で3バックという新しいチャレンジを試みながら、最小失点で抑えたことは次につながる。 

なでしこジャパンは、7月末にはアメリカへ遠征し、4カ国対抗戦(日本、アメリカ、ブラジル、オーストラリア)で3試合を戦う予定になっている。

ヨーロッパリーグはオフに入るが、国内では、なでしこリーグカップが行われている。サバイバルの中で代表入りを目指す選手たちの動向に引き続き、注目していきたい。

【(2)ベルギー戦後の監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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