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混戦のなでしこリーグ。上位を目指すジェフレディースとアルビレックスレディースの行方は?(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
途中出場で決勝ゴールを決めた千葉の鴨川実歩(写真:築田 純/アフロスポーツ)

なでしこリーグはGW最終日の5月7日(日曜日)、なでしこリーグ第7節が各地で開催された。

首位の日テレ・ベレーザが昇格1年目のノジマステラ神奈川相模原に引き分け、2位のINACも6位のマイナビベガルタ仙台レディースに負けるなど、上位が足踏みする中、5位のジェフユナイテッド市原・千葉レディース(以下:千葉)は、ホームのゼットエーオリプリスタジアムに8位のアルビレックス新潟レディース(以下:新潟)を迎えた。

【3バックで臨んだ新潟】

新潟は今シーズン、対戦相手によって3バックと4バックを使い分けており、この試合は前半、3バックのフォーメーションで臨んだ。

両サイドのDF小原由梨愛と渡辺彩香が、守備時には最終ライン入って5バックとなり、攻撃時は2人が高いポジションを取ることで、4トップのような形になることも。FWの上尾野辺めぐみと大石沙弥香が前線でボールを収めて起点になり、良い距離感でパスを回す新潟のペースで前半は進んだ。

一方、千葉は新潟の両サイドが上がった裏のスペースを狙い、積極的にロングボールを入れた。しかし、相手が引いた場面でもロングボールを入れるなど、攻撃が単調に。18歳のFW小澤寛と19歳のFW小林菜々子の若い2トップは新潟のプレッシャーを受けてボールをコンスタントに収められず、弾かれたセカンドボールは新潟のMF阪口萌乃が的確なポジションで拾った。

前半の流れについて、千葉の三上尚子監督は以下のように振り返る。

「新潟が今季3バック気味に来ることはわかっていた中で、相手の3バックの両脇や裏のスペースを狙っていたのですが、上手くいかず苦しい展開になってしまいました。慌てないで繋げるシーンはたくさんありましたが、その状況判断が甘かったです」(三上監督)

一方、新潟はゴール前で千葉のDF櫻本尚子、DF西川彩華を中心とした堅守を崩せず、シュートまで持ち込む場面は少なかった。

千葉は15分、FW深澤里沙の左CKにファーサイドでDF櫻本が競り勝った場面は決定的だったが、ヘディングシュートはバーの上に浮いてしまった。

さらにその1分後に千葉は、MF成宮唯が敵陣ハーフウェーラインあたりで後方からのボールを受けると、上半身のフェイントで相手DFを外し、左にターンしてすかさず右足を振り抜いた。意外なタイミングで放たれたループシュートが、ラインを上げていた新潟の意表をついたが、シュートは枠の右に外れた。

その直後には、新潟も負けじとMF阪口がミドルレンジからボレーシュートを打ったが、GK山根恵里奈が左に倒れこみながらキャッチ。阪口は35分にも、ゴールまで30mはありそうな位置からミドルシュートを放った。抑えを効かせたシュートは矢のような鋭い軌道でゴール左隅に飛んだが、山根が横飛びで間一髪セーブした。

結局、このまま前半はスコアが動かず、試合は0-0で後半に進んだ。

【勝負を決めたセットプレー】

先制点を獲るために、両監督はハーフタイムに動いた。

新潟は、「良い距離感で、コンビネーションも出せる」(辛島啓珠監督)という、慣れた4バックに変更。

一方、千葉の三上監督はFWの小澤寛を下げてボランチにMF鴨川実歩を投入。ボランチでプレーしていたMF安齋結花が右サイドハーフに入り、同ポジションでプレーしていた成宮がトップに入った。

後半開始直後からの変化が功を奏したのは千葉だ。

選手間の距離が安定して前線からの守備が機能するようになり、右サイドで安齋のドリブル、前線で成宮のボールキープを活かせるようになると、新潟に押され気味だった前半から形勢は逆転した。

試合が動いたのは55分。千葉は右CKのこぼれ球を拾った上野紗稀が右サイドからゴール前にダイレクトでクロスを送ると、ゴール前で敵味方が入り混じる中、ぽっかりと空いたペナルティエリア中央のスペースに走り込んだ鴨川がGK福村の股を抜く技ありゴールで千葉が先制した。

「こういう(拮抗した)ゲームではセットプレーで決まる」と、ハーフタイムに注意を促したという新潟の辛島監督だったが、その不安が的中してしまった。

早い時間帯に追いつきたい新潟は、63分に左サイドハーフのMF園田瑞貴を下げ、前線にスピードのあるFW川崎咲耶を投入。FW上尾野辺とFW大石が左サイドハーフと前線で流動的にポジションを変えて起点を作るが、全体的に攻め急ぎがちでパスの呼吸が合わず、先制ゴールで安定感を増した千葉の堅守を崩すことができない。

そんな中、千葉は66分に右サイドで得たFKから再びチャンスを作った。ペナルティエリア内で競り合った際、守備に戻っていた新潟の大石が成宮を倒し、千葉がPKを獲得。しかし、際どいコースを狙った成宮のキックは左ポストに弾かれた。

新潟の辛島監督は71分に右サイドバックの久保田麻友に代えて、左サイドハーフにMF唐橋万結を投入。右サイドハーフの小原が右サイドバックに入り、ボランチの佐伯彩が右サイドハーフにスライド。流れの中で、選手がポジションとフォーメーションを柔軟に変えながら同点ゴールを狙いに行った。

一方、千葉もFWの小林を下げてFW佐藤瑞夏を投入し、前線からのプレッシャーを強め、2点目を狙いに行った。

新潟は終盤、前がかりになった千葉の攻撃に対し、カウンターからチャンスを作った。83分、左サイドを突破した渡辺のクロスにニアサイドで大石が飛び込み、頭で合わせようとしたが、GK山根がブロック。その直後にも、渡辺のクロスに中央で上尾野辺が頭で合わせたが、シュートはバーの上に浮いてしまった。

試合はこのまま、粘り強い守備を見せた千葉が1点を守り抜き1-0で終了。

千葉は連敗を2で止め、リーグ戦では今シーズン初の無失点勝利となった。一方、新潟は4試合ぶりの敗戦となった。

【走り、粘った千葉】

千葉が先制点の流れを引き寄せたのは、後半の守備が決め手となった。

「守備で、ゼロ(失点)で抑えられたことに手応えを感じています」(深澤/千葉)

千葉で11年目のシーズンを迎えた背番号10のMF深澤は、「走り」、「粘る」千葉のサッカーを体現する存在である。その深澤を筆頭に、最後まで走り抜くというチームスピリットが、特に後半はよく現れていた。前線からプレッシャーをかける際に、アプローチのタイミングがズレてスペースを与える場面も多かったが、この試合ではそのスペースも、気迫と運動量でカバーしていた。

今シーズンから千葉でプレーする成宮(昨シーズンまでは、コノミヤスペランツァ大阪高槻所属)は、153cm、45kgと小柄な選手だが、高いテクニックと判断力を活かした駆け引きやゲームメイクを持ち味としている。しかし、この試合では球際で体を張ってボールを奪うなど、むしろ守備面での貢献が光った。

「相手と(球際で)接触するのは好きではないのですが、試合の中で勝敗を分けるのは、球際やそういう気持ちの部分が大きいと感じています。そこは自分にとって足りない部分でもあるので、もっとやらなければいけないと思っています」(成宮/千葉)

と、新天地で新たな目標を見据える。一方、ボールを持つと、持ち前のテクニックを活かした華のあるプレーで会場を沸かせた。

「結果的に勝てたから、(PKを外したことは)笑える話になりましたけど」(成宮)

と、自らのPK失敗にもあえて触れ、次節以降のゴールに意欲を見せた。

千葉は攻撃面で個々の判断ミスが目立ったが、10代後半から20代前半の若い選手が多く、判断力と「勝負どころ」を見極める力には大きな伸びしろがある。

「今日の試合の最後のバタつきを見ても、(勝負どころを見極める力は)まだまだだな、と感じることがあります。ただ、そういう経験をして行くことで、今日の完封も自信にして、成長してくれたらいいなと思っています」(三上監督)

第7節を終えて7位の千葉は次節、5/14(日)にアウェイの大和なでしこスタジアムで首位の日テレ・ベレーザと対戦する。

【より堅守を求めて】

新潟は、前半は3バックで攻撃的に試合を進め、後半は4バックに変更したが、ポジションやフォーメーションを変えた中でもスムーズな試合運びができていた。長年、一緒にプレーしている選手が多く、各選手間の連携の良さは新潟の強みである。

しかし、最後まで1点が遠く、この試合ではゴール前で崩しのイメージが見えてこなかった。攻撃面では新たな形を模索中である。

その中でも確実に勝ち点を積み上げていくために、辛島監督は守備面を課題に挙げた。

「3点獲られても4点獲る力があれば良いのですが、今はまだ得点力が高いとはいえない中で、まずは簡単に失点しないように、粘り強く戦うということが求められていると思います」(辛島監督)

この試合で攻守において光っていたのは、ボランチの阪口だ。第4節のINAC戦では、抑えの効いたボレーシュートでゴールまで25m近くあるスーパーゴールを決めたが、この試合ではさらに長い距離からミドルシュートを狙い、千葉ゴールを脅かした。

「INAC戦(でミドルシュートを決めて)から自信がついて、こぼれ球に対して思い切って拾いにいく意識と、シュートにいく意識が強くなりました」(阪口/新潟)

テクニックと予測力に秀でており、両足の正確なキックでセットプレーも任されている。今後が楽しみな選手である。

第7節を終えて8位の新潟は次節、5/13(土)にホームのデンカビッグスワンスタジアムに3位のAC長野パルセイロ・レディースを迎える。

試合詳細

なでしこリーグ(1部)他会場の結果・日程 

なでしこリーグ(1部)順位

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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