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GW3連戦がスタート。日テレ・ベレーザとAC長野パルセイロ・レディースの因縁の対決の行方は?(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
5節終了時点で首位に立つベレーザ(C)松原渓

なでしこリーグは、4/29(土)、5/3(水)、5/7(日)に行われる、ゴールデンウィーク期間中の3連戦がスタートした。

4/29日(土)、開幕から4連勝中で首位の日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)は、ホームに5位のAC長野パルセイロ・レディース(以下:長野)を迎えた。

このカードには様々な「因縁」がある。

昨年のなでしこリーグ第9節(5/15)、長野のホームで行われた同カードは、ベレーザが持ち味の攻撃力を存分に見せつける内容で5-1で大勝したが、逆に第17節(10/15)、ベレーザのホームでは長野が2-0で勝利。ベレーザのホームタウンのひとつである多摩市出身のFW横山久美が3人抜きゴールを決め、地元の関係者を喜ばせた。

また、ベレーザは長野の本田美登里監督が現役時代に最も長く在籍したクラブであり、長野のDF木下栞とGK望月ありさの2人もベレーザの下部組織であるメニーナから育った選手で、古巣対決となった。

試合は、開始早々に動きを見せた。

【試合を動かした先制点】

前半5分、ベレーザのDFラインの緩い横パスを長野のFW泊志穂が奪うと、ボールを受けた横山はすかさず前を向き、ドリブルで仕掛けた。

横山は自分でシュートに行く雰囲気を漂わせながら相手DFを十分に引きつけ、中央に走り込んだMF齊藤あかねにパス。齊藤はトラップした瞬間、ペナルティエリアの外、中央付近から右足を振り抜いた。GK山下杏也加が横飛びで弾いたが、ボールの威力が勝り、ゴールの右隅に決まった。

先制され、早い段階で追いつこうと前がかりに攻めるベレーザに対し、長野は今シーズンから取り組んでいる、自陣でブロックを形成するゾーンディフェンスで対応。その中で虎視眈々とカウンターの機会を狙った。

長野は1人抜かれても2人目、3人目がカバーに入り、ゴール前では全員で体を張ってベレーザの攻撃をはじき返した。また、ベレーザの前線の起点となるFW田中美南への縦パスをセンターバックの木下と坂本理保が的確な予測でカットした。

一方、ベレーザは効果的にボールを動かすことができず、長野のブロックを崩せないまま時間が過ぎて行った。

36分にはベレーザの隅田凜がミドルシュートを放ったが、枠の左に逸れた。

ベレーザは39分にも上辻佑実がミドルシュートを打ったが、GK望月が正面でキャッチ。前半のシュートはわずか2本にとどまった。

ベレーザの森栄次監督は、前半の流れについて

「最初に失点して追うような形になってしまったので、どうしても焦りが出てしまいました」(森監督)

と、振り返った。

2点目を狙う長野も高い位置ではなかなかボールを奪えず、中盤で奪っても攻め急ぎ、パスミスからあっさりと相手にボールを渡してしまう悪循環に。 

35分に横山がハーフウェーライン前方から狙ったループシュートは会場を沸かせたが、その軌道はわずかにゴールポストの右に逸れた。

【本来のリズムを取り戻したベレーザ】

ベレーザは1点ビハインドで迎えた後半、右サイドハーフの上辻に代えて、FW植木理子を投入。トップの籾木が右サイドに入り、植木がトップでプレーした。

植木はピッチに入るやいなや、裏に抜け出す動きやドリブルなど自らの持ち味を発揮し、ベレーザは攻撃のギアをさらに一段上げた。

植木を警戒して長野のマークが分散されることで、田中のシュートチャンスも増え、セットプレーでは空中戦に強いMF阪口夢穂が前線に上がり、果敢にゴールを狙った。

67分には植木が自らドリブルで中に切れ込み、ペナルティエリアの外からミドルシュート。強烈な弾道は、ゴールそのものを揺らさんばかりの勢いでバーに弾かれた。

試合状況によって戦い方を柔軟に変えるベレーザの怖さを、長野の選手たちが理解していなかったわけではない。

「ハーフタイムに、『これで終わらないのがベレーザで、ギアアップしてくるので、うちもギアアップして対応していこう』と伝えました」(本田監督)

しかし、得点源である横山は常に複数のDFに囲まれてしまい、攻撃に転じてもすぐにボールを奪われてベレーザのカウンター攻撃を受ける流れが続き、押し込まれた。

52分に長野の泊が抜け出した場面は決定的だったが、ベレーザのDF村松智子がペナルティエリア内でファウル覚悟で体を投げ出してブロック。そのプレーに対するレフェリーの判断はノーファールで、ベレーザはPKの献上を逃れた。

ベレーザの猛攻が実ったのは、72分。右サイドを突破した清水のクロスに、植木がGK望月の死角をついてタイミングよくニアサイドに飛び込み、高い打点から頭で叩き込んで同点にした。

その後のラスト15分、ベレーザの波状攻撃と、それを耐え忍んだ長野の守備は見ごたえがあった。

ベレーザは左サイドハーフの長谷川唯がテクニックとアイデアを存分に見せつけたが、長野のDF五嶋京香が体を張って食らいついた。

ベレーザは中盤で阪口や隅田、そして籾木がリズムを作り、田中は体ごとゴールに押し込みそうな気迫を見せたが、長野は自陣で何度マークを剥がされても、最終ラインで体を投げ出してゴールを死守した。

終盤にやっと同点に追いついたベレーザだったが、その後は結局、長野の分厚い壁を破ることができず、試合は1-1のドローで終了。

ベレーザの連勝は4でストップ。一方、長野は連敗を免れ、貴重な勝ち点1を獲得した。

【2試合連続ゴールの植木への期待】

ベレーザにとっては、速い時間帯の失点と、後半に数回あった決定機を活かし切れなかったことが悔やまれる。

一方、2試合連続ゴールを決めた17歳の植木の活躍は収穫だ。

植木は今シーズン、ここまで全5試合で途中出場しているが、この試合では最も長い時間をプレーし、切り札として十分に通用することを証明した。フェイントと一瞬のスピードで相手を置き去りにするボディーバランスが非凡で、ゴール前でクロスボールに反応し、相手DFより一歩前に出るタイミングの取り方もうまい。

「海外の選手はスピードがあるので、一つ外せたらチャンスになりますが、日本の選手は細かい動きに対応して粘り強くついてくるので、なでしこリーグで点を獲る難しさも感じます」(植木)

2016年10月にヨルダンで行われたFIFA U-17女子ワールドカップでも活躍した次世代のストライカーが、今シーズンのなでしこリーグでどのような成長を見せるのか、楽しみである。

ベレーザは次節、5/3(水)にアウェイのユアテックスタジアム仙台で、3位のマイナビベガルタ仙台レディースと対戦する。

【攻撃的なサッカーと堅守の両立】

一方、長野は今シーズン取り組んでいる守備が機能し、首位のベレーザ相手に負けなかったことを前向きに捉えたい。

早い時間帯に先制したことで、押し込まれる中でも精神的に優位に立てたことは大きい。

本田監督は、試合を次のように振り返った。

「このような(押される)内容になることは想定していました。ポゼッション率は低かったですが、今シーズンはブロックを作って守っている中で、よく耐えました、という感じです(笑)。守り疲れもありましたが、守り慣れた部分もあったと思います」(本田監督)

長野はベレーザのパスワークに翻弄される場面も少なくなかったが、ゴール前では全員が体を張り、「絶対にゴールを割らせない」という気迫を見せた。

特に、センターバックでキャプテンの坂本の存在感は抜群で、予測で相手FWの先手を取るクレバーさ、気持ちのこもった球際の粘りで長野の堅守を支えた。

古巣対決に燃えたセンターバックの木下とGK望月の存在感も際立った。後半アディショナルタイムに望月は、籾木の左サイドからのクロスに合わせて阪口がファーサイドからゴール前に飛び込んだ場面で体を張ったスーパーセーブを披露し、シュートをゴールマウスから弾き出した。

「(阪口)夢穂さんのところは絶対に狙ってくると思っていました。夢穂さんは、強いシュートよりも必ずコースを狙ってくるので、止めた場面も最後まで(飛び出さずに)待てました」(望月)

課題は攻撃面だ。

ダブルボランチの國澤志乃と齊藤の守備におけるバランスは良かったが、中盤でボールを奪った後、攻め急いでボールを失う場面が多々あった。周囲の選手も、奪った瞬間に一気に前線に駆け上がってしまい、出しどころが限定されてしまう。

その瞬間を、ベレーザの選手たちは絶えず狙っていた。

この試合、90分間を通じて長野のシュート数はわずか2本にとどまった。

「守備の時間が長かった中で、ボールを奪ったあとのミスが多く、自分たちの時間を作れませんでした。ボールを受けたあとのファーストタッチを良くすることと、サポートがない中でもいかにボールを奪われずに中盤で展開できるかということが課題です」(國澤)

守備の形は確実にできつつあり、今後は攻撃の精度の向上が求められる。

長野は次節、5/3(水)にホームの長野Uスタジアムで、2位のINAC神戸レオネッサと対戦する。

試合詳細

なでしこリーグ(1部)他会場の結果・日程

なでしこリーグ(1部)順位

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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