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2部の首位争いは「痛み分け」。2部昇格1年目のオルカ鴨川FCの強さの理由とは?(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
晴天の下、日産フィールド小机で試合が行われた(C)松原渓

なでしこリーグ2部第4節。

開幕3連勝で首位を走る日体大FIELDS横浜(以下:日体大)が、同じく開幕3連勝の2位のオルカ鴨川FC(以下:オルカ)をホームに迎えた上位対決は、0-0のスコアレスドローに終わった。

今シーズン、なでしこリーグ2部で優勝し、来シーズン1部で戦うことを目指す両チームにとって、今後の流れを決める重要な一戦だった。それだけに、この結果は「痛み分け」とも言えるだろう。

【好スタートを切った両チームの共通点とは?】

今シーズン、なでしこリーグ2部を戦う10チームの中には「1部昇格」を目標に掲げるチームがいくつかある。その中で、開幕3連勝は日体大とオルカのみ。

日体大は、母体が大学であるため、10代から20代前半の大学生が主体となったチームである。その中で、今シーズン、ちふれASエルフェン埼玉(以下:埼玉)からFW荒川恵理子とMF伊藤香菜子の2人のベテランを獲得。背番号10をつけるキャプテンの嶋田千秋(MF/元日テレ・ベレーザ)も含め、1部リーグでのプレー経験を持つ3人の存在が攻守においてアクセントになり、戦い方に奥行きや幅をもたらしている。また、日体大はここまで3試合で10得点無失点と堅守も光る。

なでしこリーグ1部昇格に向け好スタートの日体大。切り札は、2人の元日本代表。

出典:https://news.yahoo.co.jp/byline/matsubarakei/20170328-00069242/

一方、オルカは登録メンバー22名のうち、10人が1部リーグ経験者で、30代のベテラン選手も多い。

最終ラインのDF中村真実と高橋奈々(ともに、元ベガルタ仙台レディース)、MFで双子の松長佳恵・朋恵姉妹(元伊賀FCくノ一)ら、ベテランの予測の効いたプレーがチームを牽引し、ゲームを引き締める。

一方、攻撃では共にいくつかの得点パターンと、試合の流れを変える切り札も持っている。

そんな中で、0-0というスコアは両チームにとって何を意味するのか。

試合後の両監督の感想は、正反対の印象となった。

「チームに元気がなかったのは、『勝たなければいけない』というプレッシャーがあったからだと思います。引き分けでも、負けた感じがあります」(日体大・矢野晴之介監督)

「これまでの試合で取り組んで来た守備が常に集中してできていましたし、その点では一歩、前進できました」(オルカ・北本綾子監督)

2部で3年目の日体大は、首位のプレッシャーと、昇格1年目のオルカに「勝たなければいけない」というプレッシャーを感じていた。

一方、2部昇格1年目のオルカはプレッシャーを感じることなく、首位の日体大にチャレンジャーとして臨むことができた。

結果は同じでも、自分たちが意図するサッカーをピッチ上で表現できていたのはオルカの方だった。

【日体大の攻撃を封じたオルカの戦略】

オルカは試合開始早々、高い位置からプレッシャーをかけに行った。特に、ボランチの伊藤と嶋田千秋にボールが入ると、すぐに2人、3人で囲み、パスのルートを遮断し、ボールを奪いに行った。

そこには、北本監督にとって、同い年で現役として第一線で活躍する日体大の伊藤に対するリスペクトも込められていた。伊藤はこの試合で、なでしこリーグ通算250試合出場を達成した。

北本監督は元浦和レッズレディースのFWで、日本代表にも選ばれたことがある。2人は、2002 FIFA U-19女子世界選手権(現・U-20女子ワールドカップ)では共にメンバー入りし、プレーした。

「彼女はスーパープレーヤーです。(選手としての)自分にないものをたくさん持っていて、私と同じ34(歳)の年ですけれど、あれだけの運動量で、グラウンドのあちこちでチームをサポートして、嫌なところにポジションを取る。相手にすると本当に嫌な選手なので、その怖さを消すために対策を練りました」(北本監督)

その対策は的中。

伊藤へのマークは特に厳しく、周囲のサポートの遅れも重なり、中盤を封じられた日体大は、前線の荒川と植村にシンプルなロングボールを入れる攻撃や、サイドから組み立てる攻撃に切り替えた。

しかし、オルカのプレッシャーをかわせず、パスミスを連発。

14分に日体大の植村祥子が裏に抜け出し、GKと1対1になった場面は、オルカのGK河邊花観が体でブロック。20分にも植村が右サイドで抜け出したが、オルカの激しい球際のプレッシャーにたまらず転倒。PKの笛は鳴らなかった。

日体大は31分には、平田ひかりが右サイドで相手を引き付け、フリーでペナルティエリアの外から走りこんで伊藤がミドルシュートを放つが、枠を捉えられない。

オルカは38分、右からのクロスに中央から西尾麻奈美が走りこんで頭で合わせたが、ループ気味の軌道は、長身のGK井上ねねが片手で難なくキャッチした。

後半、快足を持ち味とするFW平野里菜やベテランMF佐藤衣里子ら、次々に攻撃的なカードを切ってゴールを狙うオルカに対し、矢野監督(日体大)は80分まで交代カードを切らずに粘った。

しかし、的確なラストパスを配給できる中盤の伊藤と嶋田を経由することができず、両サイドバックの押し上げもないため、最後まで効果的な攻撃の形は生まれず。

59分に植村が抜け出してGKとの1対1を制してゴールネットを揺らしたが、ゴール後にオフサイドの笛が吹かれたため、幻のゴールとなった。

守備に関しては日体大の良さを封じたオルカだが、攻撃面では日体大同様、流れの中で攻撃のアイデアを見せることはできず。

日体大のセンターバック、羽座妃粋と大賀理紗子のコンビネーションは終始、安定しており、最後の砦を破ることができなかった。

【史上最速の1部昇格を目指すオルカ】

オルカ鴨川FCは千葉県の南房総・鴨川市を拠点として、2014年1月に創立された。千葉県2部リーグからスタートし、わずか3年でなでしこリーグ2部まで上がってきた。もし今シーズン2部リーグで優勝(もしくは、2位で入れ替え戦に勝利)すれば、チーム創設から1部昇格までの最速記録になる。

スタッフ、選手も含めて、オルカというチームからは、「鴨川から女子サッカーを発信し、盛り上げたい」という強いエネルギーが伝わってくる。

その原動力となっているのは、スポンサーの手厚いサポートと、選手たちを温かく見守る地元サポーターの応援だ。

オルカは「亀田メディカルセンター」という大きな母体(スポンサー)を持ち、系列の亀田総合病院では、選手には少しでもサッカーに集中してもらえるように、働く環境を優遇している。

なでしこリーグは学生や、働きながらサッカーをしている選手が多いため、夕方から夜にかけて練習が始まるチームがほとんどだ。

そんな中、オルカは県リーグ時代から勤務を15時までとし、陽が暮れる前の16時半から練習ができる環境が整っていたという。

職場が総合病院ということで、医療面のサポートも当然ながら充実している。選手がケガをした際にはすぐに診てもらえる環境があり、チームドクターはケガ予防だけでなく、身体強化のための専門知識を選手に提供している。

地元サポーターの声援も、チームが勝ち続ける原動力になっている。

思い出されるのは昨年、チャレンジリーグから2部への昇格をかけたプレーオフで、ホームの鴨川市陸上競技場で行われた初戦だ。チャレンジリーグは無料試合がほとんどだが、同試合は有料試合(当日券/大人は1000円)で行われたにもかかわらず、チケットが完売。スタンドには1171名の観客が詰めかけ、通路も立ち見客でいっぱいになった。

スタンドの牧歌的な雰囲気は、選手とサポーターの距離の近さを物語っていた。そのサポーターの思いに応えるべく、チーム側も様々な交流の機会を設け、ファンサービスや広報活動を意欲的に続けてきた。

「『応援したいな』と思えるようなチームって、『人』なのかな、と私は思うんです。試合に出られない選手が、初めて声をかけてくれた方にいつも通り優しく接したところ、その方が感動して、その選手のファンになってくれたこともありました。そうやって、サッカーの試合とは関係のないところでファンになってくださる方もいるし、選手である前に人としてのあり方を考えることが、地域の皆さんが自分からチームや選手を応援したい、と思えるきっかけになると思います」(北本監督/2016年10月のコメント)

指導から運営に至るまで、チームをサポートするスタッフの多くは、元なでしこリーガーである。現場の声が伝わりやすく、選手の気持ちに寄り添えるのも強みだ。それだけに、選手のセカンドキャリアに対する意識も高く、引退しても安心して働ける環境作りにも務めているという。

様々な点で、今後、なでしこリーグの各チームがロールモデルとして学ぶべきチームではないだろうか。

史上最速での1部昇格を目指すオルカは、4試合を終えて、現在は日体大と同勝ち点の2位につけている。

両チームの後には、無敗で3位につけるセレッソ大阪堺レディース、勝ち点3差で首位を追うニッパツ横浜FCシーガルズ(4位)、先日、熊本で行われたコスタリカとの国際親善試合で、なでしこジャパンに2人を送り出した愛媛FCレディース(5位)が続く。

熾烈な上位争いが続くであろう今シーズンの2部リーグに、引き続き注目したい。

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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