なでしこリーグ開幕に向け、浦和レッズレディースが取り入れた走力アップの秘策とは?(1)

スプリントトレーニングの一環として、体幹トレーニングも行われた(C)松原渓

日本女子サッカーのトップリーグ、「なでしこリーグ」の2017シーズンが、3月26日に開幕する。

各チームは新入団や移籍の選手を補強し、コーチングスタッフを含めた新体制の発表を経て、今シーズを戦う陣容もほぼ固まり、開幕に向けたチーム作りを着々と進めている。そんな中、浦和レッズレディース(以下:浦和L)が興味深い取り組みを行っている。

【全3回のスプリント講習会で走力の向上を図る】

1月下旬になでしこジャパンが行った国内合宿では、高倉麻子監督の下、「フィジカル強化」をテーマに、北京五輪銅メダリストの朝原宣治氏をゲスト講師に招いてのスプリントトレーニングが行われた。

欧米の強豪国に対し、高さやスピードなどフィジカル面で劣っていることを言い訳にせず、走り勝つことを目指すーーそのためのフィジカル面のアプローチをクラブ単位でも採り入れようと、浦和Lが積極的な動きを見せている。

2月に入り、浦和Lでは隔週で、選手向けに全3回の「スプリント講習会」を開催。

今季、ヘッドコーチから新たに浦和Lの指揮官に昇格した石原孝尚新監督は、今回の取り組みの意図をこう説明する。

「世界の(強豪国の)身体能力に追いつくまではいかないかもしれないですけれど、『(フィジカルトレーニングをシーズンを通してコンスタントに)やらないから、追いつかない」という部分も多いと感じています。栄養面も含めて、取り組んでいきたいと考えています」

【効率的な走りとは?】

スプリント講習会は、2月1日と14日に行われ、後日、3回目が行われる予定だ。

講師には、スプリントコーチの秋本真吾氏を招へい。200mハードル競技のアジア最高記録と日本最高記録の保持者でもある秋本さんは、浦和レッズのトップチームの選手をはじめとしたJリーガーの他に、野球選手など、他競技のアスリートの指導経験も重ねている。

今回のスプリント講習会では、より速く、より効率良く走るための技術やメカニズムを学ぶため、映像を見ながらの学科と実技の面でアプローチを図った。

自分のフォームを映像で見て、理屈を知った上でグラウンドで実践することで、効果が増すという。

効率的な走りにおいて重要なことの一つは、足を接地する際のポイント。

秋本さんによると、男女問わず、サッカー選手に顕著な特徴として、足を運ぶ際に「膝から下を前に出そうとする」傾向があるのだという。

しかし、膝下が膝よりも前に出ることで、力を入れるポイントがズレるため、エネルギーの使い方にロスが生まれてしまう。より効率良く走るためには、足を踏み込む際に足の裏を真下に下ろすことで、足の回転が自ずと速くなり、走りのスピードも上がる。

「まずは自分のフォームを自分で知ること。正しいフォームが定着するまでは辛抱が必要です」(秋本さん)

【「体得するまでは我慢が大事」】

フォームを確認した後は、グラウンドに移動し、ハードルを使って踏み込みや足の運び方を再確認し、その後、初速を速くするためのスタート時の重心、走る時に力を入れるべき体の部位の確認や体幹トレーニングなどを行った。

「腿(もも)をあげるより、缶を踏みつぶすようなイメージで足を落としましょう」(秋本さん)

具体的なイメージが提示されると、短時間でも明らかに選手たちの足の運びが軽くなったのが分かった。

浦和Lを指導した秋本さんの感想は、「(浦和Lは)非常に吸収力の高いチーム」。過去にはなでしこリーグの他のチームの指導もしたことがあるそうだが、浦和Lでは1回目の講習会の後から明らかな変化が見られた。身体能力の高い選手が多く、上半身と下半身のコーディネーション(連携)がスムーズな選手が多い印象を受けたという。

速さと効率を両立させる良い走りを確実に手に入れるためには、体が無意識下で正しいフォームを作れるまでに習慣づけることが必要だ。

ただし、その過程では、これまで使っていなかった様々な部位に筋肉の疲労が出るため、体得するまでに投げ出してしまうアスリートも少なくないのだという。

「ある時、突き抜けたかのようにフォームが変わって、力を使わなくても進んでいくという瞬間がきます。サッカーでも、できないことができるようになるまでには時間がかかると思うんですけれど、身についたらその技が無意識下でもできてしまいますよね。それと同じことだと思います」(秋本さん)

浦和Lでボランチを務める長野風花は、

「他の選手とどう差をつけるのか、というところは、練習以外の時間が重要になると思うので、家でも継続したいです」

と、自主的な取り組みへの意欲を見せた。

【多方面からのアプローチ】

浦和Lでは今回のスプリント講座の他にも、栄養・食事に関する講義や、なでしこジャパンのフィジカルコーチでもある広瀬統一コーチによるフィットネスの講義、チームビルディングに関する講義なども積極的に取り入れている。

「若い選手が多いので、サッカーのことだけではなく、プレシーズンに一通りの知識を学んでおきたいと思っています。選手たちは言われたことに素直に取り組んでくれているし、新しいことに刺激を受けてくれているのかな、と。自分を含め、スタッフの勉強にもなっています。」(石原監督)

走り方や食事面は、選手の自主性に任せているチームも多く、意外と徹底されていないところでもある。

正しい知識を知り、意識を変えるだけでも、それがのちに大きな差となる可能性が大いにある。

だが、走りのフォームを改善すれば、そのままサッカーの質が向上すると考えるのは性急だ。フォームの改善と効率の良い走りを手に入れても、最終的には試合の中で活かせる走りにまで高めなければならない。たとえば、サッカーではドリブルをする際のスピードも重要であり、ドリブルのスピードを上げるためには、素走りとは違ったトレーニングも必要になるだろう。あるいは、ディフェンス時に、相手とボールを視野に入れながらの横走りや、ゴールを背にした状態で、後ろ向きに全速力で走らなければならない場面もある。

そういった点も含め、浦和Lの今後の継続的な走力アップへの取り組みと、試合の中でどのような成果が現れるのかに、引き続き注目していきたい。

2月15日(水)~19日(日)まで、千葉県内で、なでしこリーグ1部と2部、韓国のクラブ1チームの計9チームによる千葉交流戦が開催されている。

5つの会場で、全29試合が行われる。 各チームが開幕に向けてどのような仕上がりを見せるのか、時間のある方はチェックしてみてはいかがだろうか(観戦は無料)。

試合情報はジェフユナイテッド市原・千葉レディースHPを参照。

(2)【監督・選手コメント】に続く