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インドネシア政界、汚職疑惑や中銀総裁人事で混迷深まる― 来年の議会・大統領選挙控える中で

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
インドネシアのユドヨノ大統領=政府ウェブサイトより
インドネシアのユドヨノ大統領=政府ウェブサイトより

インドネシア政界は来年の議会選挙と大統領選挙を間近に控えて大きく揺れ始めた。その“震源”となっているのが、スシロ・バンバン・ユドヨノ大統領の支持政党である民主党を巻き込んだ西ジャワ州ハンバランのスポーツ施設の建設計画(2003‐2013年)をめぐる汚職疑惑とインドネシア中央銀行(BI)の次期新総裁人事だ。

先週末、ユドヨノ大統領は突然、5月22日で任期満了となる中銀のダルミン・ナスティオン総裁の後任として、アグス・マルトワルドヨ財務相(57)を指名した。表向きは中銀総裁の任期切れを間近に控えた自然な動きにも見えるが、地元メディアではユドヨノ大統領が来年の選挙を有利に戦うため、目の上のたんこぶ的な存在になっているアグス氏を閣内から排除する狙いがあると見ている。

ジャカルタ・グローブによると、その理由として、一つはアグス氏が、インドネシアの財閥バクリー家が関与している金鉱山会社の株式を政府が買い取ることに反対していること。もう一つは、華僑系財閥、トミー・ウィナタ氏が計画している、ジャワ島とスマトラ島を結ぶ大橋梁の建設プロジェクトにも反対しているためだという。

ユドヨノ大統領は2004年の大統領選挙で初当選し、2009年の大統領選挙も勝って現在、2期目の途中にあるが、来年の大統領選挙には大統領の3選禁止規定に従って出馬しない意向をすでに明らかにしている。このため、ユドヨノ大統領の民主党の流れをくむ野党・闘争民主党(PDI-P)はメガワティ・スカルノプトゥリ元大統領を擁立するほか、民主党自体も強力な候補を出すことが予想され、スハルト元大統領のゴルカル党など各政党も独自の大統領候補を出してくるため、来年の大統領選挙は大本命が見たらない中での大混戦が予想され、政界の先行きは不透明となっているのが実情。

それだけにユドヨノ大統領としては、おひざ元の民主党を議会選挙と大統領選挙の両方で躍進させるためには、なりふりを構っていられないという事情があり、アグス氏が閣内にとどまっていることは選挙に不利と感じているようだ。

ただ、アグス氏の中銀総裁の人事案件を審議する議会の野党の一部からはアグス氏の新総裁就任に反対する意見が出始め、暗雲が漂い始めているのも事実だ。中銀新総裁候補を審査する議会公聴会のメンバーの一人、中道左派の闘争民主党のドルフィ議員は、「我々は中銀総裁候補を専門的な(中銀の運営)能力だけではなく、誠実さや国益の観点から審査する必要がある」とした上で、「アグス氏が西ジャワ州のハンバラン・スポーツ施設建設計画をめぐる汚職疑惑に関わっていたことを鑑みると、誠実さに疑問を抱かざるを得ない」と懸念を示している。

特に、このハンバランのスポーツ施設建設計画をめぐる汚職疑惑では、汚職撲滅委員会(KPK)が先週末の22日に、民主党のアナス・ウルバニングルム党首の汚職関与を認めたため、同党首は翌23日には党首を辞任する意向を表明した。ジャカルタ・グローブでは、「汚職撲滅委員会がアナス氏の汚職関与を認定したことで、アナス氏は今後、ユドヨノ大統領がアナス氏を党内から追い出そうとする試みに抵抗することができなくなった」と指摘している。アナス氏に対する汚職疑惑はいま始まったことではなく、ここ1年間にわたって汚職疑惑がくすぶり続け民主党の支持率が低下しているため、2009年に汚職撲滅を公約にして再選を果たしたユドヨノ大統領としては、ようやくアナス氏を追い出し民主党の汚職イメージを払しょくする格好の口実ができたといえる。

アナス氏は有罪が確定すれば最低で4年、最高で20年の禁固刑判決が言い渡される可能性があり、政界から引退は避けられない見通しだ。

他方、アグス財務相は19日、KPKによる査問会で、「ハンバラン・スポーツ施設建設予算は当初の1250億ルピア(約12億円)から2010年1月に2兆5000億ルピア(約240億円)に増額されたが、予算増額は青年スポーツ担当省と下院議会との合意によって決まったもので、財務省は直接関与していない」と主張し、汚職の疑いを全面否定している。しかし、野党の同財務相に対するハンバラン・スポーツ施設建設をめぐる汚職疑惑を払しょくするのは難しいところだ。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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