英中銀、またも利下げ開始の大英断避ける―高金利政策に懐疑論も台頭(下)
英中銀はいつまで高金利水準を維持すべきか検討中だが、ベイリー総裁は「利下げ段階でないが、正しい方向にある」とハト派姿勢に変わったものの、利下げに躊躇している。経済界には高金利政策への懐疑論も台頭。
■経済界、BOEの高金利政策に懐疑的
英国経済界の首脳の一人、小売り大手マークス・アンド・スペンサー(M&S)のアーチー・ノーマン会長は著名なエコノミストで英紙デイリー・テレグラフのコラムニストでもあるリアム・ハリガン氏(前出)とは異なった見方だ。最初からBOE(英中銀)の利上げサイクルにはインフレに対する効果がなかったのだから、そもそも利上げする必要がなかった可能性があるという。
BOEは利上げサイクルを2021年12月に開始、2023年9月に一時休止(据え置き)、14会合連続で止めた。その間、政策金利は0.1%の過去最低水準から2008年以来16年ぶりの高水準の5.25%にまで引き上げた。それ以降、据え置きが続いている。利上げサイクルにより、確かにインフレ率は2022年10月のピーク時の前年比11.1%上昇から2024年2月には同3.4%上昇にまで低下した。
しかし、ノーマン会長は3月17日の米経済通信社ブルームバーグのインタビューで、「インフレの引き金となったのは世界的な物価上昇によるものだ」とし、その上で、「最近のインフレ鈍化もBOEの行動(利上げ)とは何の関係もなく、BOEの手が届かない世界的な要因によるもので、過去3年間に我々が証明したのは、BOEの金融政策はまったく影響がないということだ」とし、BOEの利上げサイクルがインフレ低下に寄与したとの見方を全否定した。
さらに、ノーマン会長は、「英国の金利上昇は天然ガス価格(の高騰)にも食料品価格にも実際、何の影響も与えなかった」と指摘。実際、英国では食品物価は利上げサイクル中の1年前の2023年3月時点で前年比19.2%上昇のピークに達している。同時点のCPI全体の伸び(同10.1%上昇)の約2倍という凄まじさだ。
■英シンクタンクも高金利政策を疑問視
英大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)傘下のシンクタンク「EY・アイテム・クラブ」のマーティン・ベック氏もノーマン会長と同意見だ。ベック氏は3月17日付のテレグラフ紙で、「借り入れコストの引き上げ(利上げ)は効果がなかった。いずれにしてもインフレは一時的な問題だったため、利上げする必要はなかった」と指摘する。その上で、「もし、BOEの利上げ政策が機能していれば、現在の金利高を考えると、おそらく英国経済は非常に深刻なリセッション(景気失速)に陥っていただろう。しかし、実際にはそうなっていない」と、逆説的にBOEの利上げ政策の弱さを指摘する。
テレグラフ紙のティム・ウォーレス経済部次長は3月17日付コラムで、ノーマン会長とベック氏の見方について、「彼らにも一理ある。インフレ危機は主にコロナ禍によって引き起こされた世界市場の混乱と、その後のロシア軍によるウクライナ侵攻(2022年2月勃発)によるエネルギー価格への影響によって引き起こされたが、その後、サプライチェーン(製品やサービスが消費者に届くまでの連続したシステム)が回復、新たなガス・原油の供給源も見つかったため、インフレは再び低下した」と分析している。
英国の食品物価が現在、前年比5%上昇(2月時点)にまで低下しているが、ウォーレス氏は、「BOEのベン・ブロードベント副総裁も2月の下院財務特別委員会で、こうした物価下落は政策金利とはあまり関係がないと認めた。インフレ低下は主にBOEが制御できない要因によって引き起こされているだけでなく、伝統的な金融政策手段を通じて物価に影響を与えるBOEの力が弱まりつつある」と指摘する。
ウォーレス氏は、利下げが全く必要ないと言っているわけでないが、「次にインフレが頭をもたげたとき、BOEがその職務を遂行するための適切な手段を持っているかどうかという難しい問題を提起している」とし、サービス物価の高止まりや、インフレ再加速に直面した場合、BOEの利上げ効果が弱まっている現状では、BOEの金融政策のかじ取りはかなり厳しくなると懸念を示している。BOEは5月9日に次回の会合を開く予定。(了)