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伊東純也選手の疑惑に新情報なしの新潮 捜査の行方を左右する「重要証言」とは?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 デイリー新潮がサッカー・伊東純也選手の性加害疑惑を巡る「続報」を出した。ただ、伊東選手の代理人弁護士は「3代目」であり、2代目までは女性に対する性的行為の事実を争っていなかったなど、「完全なでっち上げ」だと主張する3代目の論理が破たんしているといった内容であり、疑惑そのものに関する新たな情報はなかった。

ほかのメディアの報道は?

 一方、ここにきてほかのメディアも事件の背景事情などを報じ始めている。中でも注目されるのは「Smart FLASH」の記事だ。おおむね次のような内容である。

・A子もB子もホテルに到着後、2人に伊東選手を紹介したX氏の部屋で、自らサッカーのジャージに着替えている。
・伊東選手の部屋でジャージ姿で眠り、着衣に乱れた様子のないB子の姿を収めた動画など、「ワンピースをたくし上げられて、胸まではだけている状態」といった女性の主張を否定する証拠がある。
・女性らは寝坊して番組収録を欠席したもので、A子は所属事務所社長に対し、この寝坊を仲介者であるX氏が怒っているのではないかと案じるLINEメッセージを送っている。
・A子はこのLINEの中で、伊東選手に「いい思い」をさせてあげる会なのかなという認識だったと明かし、X氏が部屋から出ていったので「むしろ任せた」と捉えたところもあったと述べている。
・A子はホテルの一件があった約1週間後、寝坊についてX氏から叱責され、しばらく疎遠になったあとの2023年9月ごろ、突如「性被害」を訴えだした。
・A子と事務所社長、X氏の3人で2回、その後はA子の “スポンサー” を名乗る知人男性と事務所社長、X氏の3人で2回、会合があった。
・X氏はA子からSNSで伊東選手に性被害を受けたとさらすという可能性を示唆され、約100万円の解決金を提示したものの、A子の知人男性からA子はそんな額では応じないようだと言われ、交渉が決裂した。
(Smart FLASH)

 ここでようやく伊東選手側が握っている動画の存在とその内容が明らかになった。ただ、もともと女性2人の記憶はあいまいであり、着衣がワンピースだったかジャージだったかは事件の核心部分とは言えないし、ジャージだったから性被害がなかったという話にもならない。もし動画が事件の前に撮影されたものであればなおさらだ。

 むしろ、誰が何の目的でベッドで熟睡している女性の姿を撮影したのか、これを後でどう使うつもりだったのか、撮影にあたって女性の了承を得ていたのかなど、かえって事態を混沌とさせる証拠だと言わざるを得ない。

朝まで何をするつもりだった?

 いずれにせよ、伊東選手や専属トレーナーの男性がホテルの一室で女性2人と一緒に過ごしたばかりか、少なくともその部屋のベッドで女性が寝たことは「動かぬ事実」ということになる。

 そうすると、警察は次の疑問点を解明する必要がある。すなわち、ホテルに行く前に女性2人が伊東選手のいる飲食店に行った時点ですでに午前1時であり、そこでしばらく飲んでホテルに向かっていることから、伊東選手、専属トレーナー、女性2人は未明からテレビ収録に向かう午前7時までの間、その部屋でずっと過ごすつもりだったのか、また、酒盛り以外に何をしようと考えていたのかという点だ。

 週刊新潮が報じた部屋の図面によると、ベッドが2つ横並びで設置され、ツインルームとみられるが、ベッドルームはその1つだけだったのかも重要となる。もし寝るとしたら、男2、女2でどこのベッドを使い、どのような形で寝るつもりだったのかが問題となるからである。

捜査の行方を左右する「重要証言」

 週刊新潮の記事のうち、最もその真偽を確定しなければならず、間違いなく事件の焦点となるのは、A子の次のような話だ。

・性被害を受けている間の意識がほとんどなかったが、弁護士を通じたやりとりで、伊東選手から「中出し」されたことも分かり、ショックを受けた。

 この「中出し」、すなわち膣内射精の件は記事の中で唐突に出てくるが、捜査の行方を大きく左右する「重要証言」にほかならない。準強制性交等罪や虚偽告訴罪の成否を検討するに当たっては、(1)伊東選手がA子に対して性的行為に及んだのか、また、(2)その際、A子の明瞭な意識下での真意に基づく同意があったのかを見極める必要があるからだ。

 もし伊東選手がA子に対して膣内射精に及んだということになると、(1)が認定され、伊東選手の「不倫」が確定するばかりか、「事実無根」「完全なでっち上げ」「同意があったとかなかったとかの話ではない」という伊東選手側の主張も揺らぐ。膣内射精がA子の意向に反するものであれば、(2)についても同意がなかったという方向に傾きかねない。

 それだけ重要な話だが、一方でこの点に関するA子の証言も心もとない。それこそ、事件の3ヶ月後に妊娠が発覚し、心当たりのある相手は伊東選手だけだったことから、伊東選手側に謝罪を求め、認知や堕胎などを含めて示談交渉を進めたという話ならまだ理解できる。しかし、A子によると、弁護士を通じたやりとりで初めて膣内射精されたと分かったということになる。

 事件直後に病院で診察を受けるなど、膣内射精を裏付ける何らかの客観的な証拠が残されているのか、あるいは示談交渉の過程で伊東選手が自らその事実を認め、弁護士を介してこれがA子に伝わったのか、核心部分の経緯が全く不明だ。警察はその解明を急ぐ必要があるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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