Yahoo!ニュース

クレベリン不当表示に課徴金6億円 売上202億円の商品なのに抑止力になる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 消費者庁が大幸薬品に約6億円の課徴金納付命令を出した。「空間のウイルス除去」といったクレベリンの表示は不当だという。過去最高額だが、約202億円を売り上げた商品だけに、抑止力になるのかが問題となる。

 まず、なぜ課徴金が過去最高額になったかというと、それだけこの商品が売れたからということになる。というのも、景品表示法やその施行令により、課徴金の額は対象期間内におけるその商品の売上額の「3%」と決まっているし、売上額は対象期間内に引き渡された商品の総額からその期間内に返品された分などを控除した金額とされているからだ。

 消費者庁がこの商品に関して認定した対象期間内における売上額は約202億4867万円だったので、課徴金も約6億円と過去最高額となった。

なぜ「3%」なのか?

 次に、課徴金の掛け率が「3%」とされている理由だが、ホテルやレストランなどで相次いだ食材偽装問題を受け、2016年の景品表示法改正で課徴金制度が導入された際、それまで不当表示事件で措置命令が出された事案における各事業者の「売上高営業利益率」を計算した結果、中央値が3%だったからだ。

 「売上高営業利益率」とは、売上高のうち、そこから売上原価と販売費及び一般管理費を差し引いた「営業利益」が占める割合を意味する。どれだけ売り上げている商品でも、仕入れや製造、広告宣伝、発送、管理などに要した費用が大きければ、それだけ実際の儲けも少なくなる。

 課徴金は、不当表示によって事業者が得た儲けをはく奪するのが狙いだから、3%という数字であれば、まず事業者の手もとに利益が残ることはないだろうと考えられた。

 もちろん、実際の営業利益率は事業者の規模や業態によって様々だ。それでも、課徴金の掛け率を一律3%とすることで、消費者庁がその商品の仕入れや製造などに要した費用まで詳しく調査することなく、売り上げた金額だけを基準にし、迅速かつ効率的に課徴金の制裁を下すことができる。

 しかも、たとえ事業者がこの課徴金を支払ったとしても、法人税法の規定により、事業者は「損金」に算入できない決まりとなっている。法令違反に対する金銭的ペナルティによって税額が減るというのはおかしな話だからだ。

 課徴金納付命令やその前提となる措置命令により、事業者は社会的信頼を失い、顧客離れにつながるし、上場企業であれば、株価の下落で企業価値も損なわれる。課徴金制度には、次の不正を防ぐための一定の抑止力があるといえるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

前田恒彦の最近の記事