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旅券返納期限が13日に迫ったガーシー氏 逮捕状の常習的脅迫、その罪の重さは

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 旅券の返納期限が13日に迫ったガーシー前参議院議員。逮捕状の容疑は(1)強要、(2)名誉毀損、(3)威力業務妨害に加え、(4)暴力行為処罰法の常習的脅迫だが、最高で懲役5年に処される(4)が最も重い。

法定刑がより軽い犯罪は?

 すなわち、(1)~(3)は最高でも懲役3年どまりだし、(4)には罰金刑がなく、罰金を払って終わりということにはならない。(4)で起訴されて有罪になれば、執行猶予が付くか否かに関わりなく、必ず懲役刑に処される。通常の脅迫罪であれば最高で懲役2年、罰金30万円以下だから、(4)はかなり刑罰が重い。しかも、(2)の名誉毀損と違って親告罪ではないので、告訴がなくても起訴できる。

 刑法上の様々な犯罪の中で、(4)の常習的脅迫と同じく罰金刑がなく、上限が懲役5年である一方、下限が懲役1ヶ月と(4)よりも軽いものを挙げると、次のとおりだ。これらは、(4)に比べて一段軽い犯罪ということになる。

・収賄、事前収賄、第三者供賄、事後収賄、あっせん収賄罪

・横領罪

・私用文書等毀棄罪

・建造物等損壊罪

法定刑が同じ犯罪は?

 さらに、罰金刑がなく、かつ、(4)と同じく3ヶ月以上5年以下の懲役とされている刑法の犯罪を挙げると、次のとおりだ。

・刑務所や拘置所の職員らに暴行脅迫を加えるなどして逃走する加重逃走罪

・服役中の受刑者や逮捕、勾留中の被疑者らを奪取する被拘禁者奪取罪

・彼らを逃走させるために職員らに暴行脅迫を加える逃走援助罪

・あへん煙吸食器具の輸入、製造、販売や販売目的での所持罪

・通貨偽造等準備罪

・私文書偽造、変造、行使罪

・公印偽造、不正使用罪

・賭博場開張等図利罪

・墳墓発掘死体損壊、遺棄、領得罪

・同意堕胎致死傷、業務上堕胎罪

・保護責任者遺棄罪

・人身買受け罪

・略取誘拐や人身売買された人を運んだり、隠したりした被略取者引渡し等罪

 このように、法定刑をみる限り、(4)の常習的脅迫は一般に思われているよりも重い部類に属する犯罪ということになる。「たかが名誉毀損程度で…」といった言い回しをしている一部メディアもみられるが、間違いだ。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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