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駐輪場で女性の自転車のサドルに体液をかけた男 器物損壊罪で逮捕のワケは?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 北九州市内のマンションの駐輪場で面識のない女性の自転車のサドルに体液をかけて汚したとして、43歳の男が器物損壊罪で逮捕された。「驚くだろうと興味本位でやった」などと供述し、容疑を認めているという。

器物損壊罪の「損壊」とは?

 事件は今年2月と5月に発生したもので、駐輪場や被害にあった女性はそれぞれ別だ。防犯カメラの画像などから今回の男が特定され、7月22日の逮捕に至った。警察は余罪の捜査も進めているところだ。

 この点、サドルを切り裂くなどして壊したわけではなく、鳥のフンのように拭き取って消毒すればサドルとしては使えるわけだから、なぜ器物損壊罪に問われるのか、不思議に思う人もいるだろう。

 しかし、器物損壊罪の「損壊」とは、その物の効用を害する一切の行為を意味する。物理的に破壊することはもちろん、心理的に使用できなくさせるとか、その物が本来持っている価値を低下させることも含まれる。

 実際の裁判でも、料理店の食器に放尿した行為について、消毒すれば再利用できるとはいえ、そうした食器など誰も使いたがらないわけだから、器物損壊罪が成立するとされている。

かける対象や動機はさまざま

 こうした「体液事件」は、現にしばしば起こっている。逮捕に至ったケースをみると、電車や駅などで女性の衣服やカバンに体液をかけて汚すといった事件がその典型だが、自転車のサドルやハンドルグリップ、アパートのベランダに干されていた下着、高校の靴箱に収納されていた女生徒の靴など、かける対象はバラエティに富んでいる。

 「体液」といっても、唾液や血液などではなく、ほとんどの事件が精液だ。動機は性的欲求をみたすためだとか、嫌がらせのためなど、さまざまだ。あらかじめ容器に入れておいたものをかけるといった事件も散見される。

 器物損壊罪の最高刑は懲役3年、罰金だと30万円以下だ。ただし、親告罪だから、被害弁償を行って被害者側と示談がまとまり、捜査段階で告訴が取り消されることで、不起訴で終わることも多い。(了)

【参考】

 拙稿「なぜ電車内で中1女子に体液をかけた小学校教頭が『暴行罪』で逮捕されたか?【追記あり】

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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