放置禁止区域に駐輪して撤去された自分のマウンテンバイクを自転車保管所まで取り返しに行った男が逮捕された。容疑は無期または6年以上の懲役と刑罰が重い「強盗致傷罪」だった。なぜか――。

どのような事案?

 男のマウンテンバイクが撤去されたのは今年3月2日のことだ。男はその日のうちに大阪市内の自転車保管所に電話をかけ、返すように求めたうえで、30分後にタクシーで乗り付けた。トラックの荷台から下ろされていた放置自転車の中から自分のマウンテンバイクを見つけると、勝手に解錠して乗り、走行させて去ろうとした。

 男は2人の男性職員に制止されたことから、彼らの顔や頭を肘打ちするなどして軽傷を負わせ、そのままマウンテンバイクで逃げた。職員が防犯登録を控えており、捜査の結果、男は5月18日に逮捕された。「自転車を取り返したことは間違いないが、肘が当たったかどうかは覚えていない」と容疑を否認しているという。

「自分の物」でもアウト

 もっとも、放置自転車とはいえ「自分の物」だし、単に撤去保管料を支払わなかっただけだから、男は暴行罪や傷害罪にとどまるのではないかと思う人もいるだろう。しかし、刑法には次のような規定がある。

「自己の財物であっても、他人が占有…するものであるときは…他人の財物とみなす」

 実際の所有関係を問わず、「占有」という事実上の支配状態それ自体を保護しようとしたものだ。貸した自動車を無断で借主から取り返した持ち主に窃盗罪の成立を認めた判例もある。

 盗まれた自転車を取り返した場合も同様だ。目の前でまさに犯人が乗っていこうとしていたのであれば問題ないが、何ヶ月も経ってたまたま街なかで見つけたからといって、勝手に取り返したら窃盗罪に問われかねない。第三者に転売されている可能性もあるので、トラブルに巻き込まれないためにも、警察に通報すべきだ。

窃盗罪が強盗致傷罪へと発展

 今回のケースも、自転車保管所の職員らは大阪市の条例に基づいて男のマウンテンバイクを正当に撤去し、保管していた。彼らに無断でこれに乗って行こうとした男は、それだけで窃盗罪に問われることになる。しかし、刑法には「事後強盗罪」と呼ばれる規定がある。次のようなものだ。

「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる」

 本来、強盗罪は、先に相手の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫を加え、次いで金品を奪った場合に成立する。しかし、盗んだあとに気づいた被害者にそうした暴行・脅迫を加えた場合でも、取り返されないようにするためなどであれば、実質的には強盗と変わらない。そこで、事後強盗罪が設けられている。

 この結果、職員らに肘打ちしたとされる男は、次に事後強盗罪に問われることになる。しかも、軽傷とはいえ彼らを負傷させているので、法的にはさらに刑罰が重い強盗致傷罪にまで発展することになる。そのため、男はこの罪名で逮捕されたというわけだ。万引き犯が店を出たところで私服警備員にとがめられ、殴ってケガを負わせて逃げるといったケースも同様だ。

 もっとも、強盗致傷罪は起訴されたら裁判員裁判になるし、罰金刑もない。暴行の態様が軽微であるなど、事案の内容に比して刑罰が重すぎる場合もある。そこで、検察の実務では、処分の段階で「窃盗罪+傷害罪」という形で事件を分断し、示談状況などを踏まえて起訴猶予にしたり、略式罰金で済ませたりすることがある。今回のケースもそうなるかもしれない。(了)