池袋暴走事故で実刑判決が確定した。今後は刑事訴訟法や法務省の執行事務規程に基づき、刑の執行に向けて粛々と手続が進められることになる。懸念されるのは、男が90歳と高齢で健康を害しているという点だ。

呼出しと執行指揮

 今回のように逮捕、勾留されず、在宅のまま起訴され、実刑判決に至った場合、その刑を執行するため、検察官が検察庁に呼び出すことになる。正確を期すため、通常は封をした「呼出状」を送付している。

 指定した日時に出頭したら、本人であることを確認した上で、刑事収容施設に護送し、所長に引き渡して刑の執行を指揮する。いきなり刑務所ではなく、まずは拘置所に収容するのが通常だ。面接や心理テストなどを経て服役する刑務所が決まると、そこへと移送されるわけだ。

 もし検察官の呼出しに応じなかったり、逃亡したり、そのおそれがあるときは、直ちに検察官が「収容状」を発付し、これにより強制的に身柄を拘束する。

 検察官は「執行指揮書」に基づいて刑の執行を指揮するが、誤記があったりすると大問題だ。判決謄本などを確認し、氏名、年齢、刑名、刑期などに正確を期すとともに、必要があれば事件記録も調査する。

 土日祝日は検察庁や拘置所、刑務所の事務窓口が休みだから、ここまでで2週間から1ヶ月近くを要する。本人は自宅などで自由に生活し、身辺整理を行うことができるわけだ。

「執行延期」の申立て

 一方、実刑判決を受けた場合でも、検察官に病気療養や手術など「やむを得ない事情」を記した申立書を提出することで、「執行延期」の申立てができる。

 検察官は診断書などを精査し、その理由について調査した上で、真に「やむを得ない事情」があると認められれば、刑の執行延期を決定することになる。事情の変化もありうるので、その後も病状などの調査を続ける。

 実際に延期された例もある。例えば、牛肉偽装事件で詐欺罪などに問われた大手食肉卸の元会長だ。76歳だった2015年に懲役6年8ヶ月の実刑判決が確定したが、病気を理由に刑の執行が延期された。

 病状の回復で実際に収容されたのは約1年半後だったが、検察官の呼出しに応じなかったため、収容状で収容されている。

「執行停止」の制度も

 こうした「執行延期」とは別に、「執行停止」という制度もある。執行開始の前後を問わない。刑務所長や本人の関係者らから上申を受け、検察官が審査し、理由があると認められる場合などだ。次の2つのパターンがある。

(1) 必ず執行を停止する場合

 心神喪失の状態になれば、回復するまでの間、検察官は本人を監護義務者らに引き渡し、病院に入院させる。

(2) 検察官の裁量で執行を停止する場合

 刑の執行によって著しく健康を害し、生命を保てないおそれがあるなど、刑事訴訟法の規定する理由があり、かつ、執行停止が「相当」であると検察官が認める場合。

 (1)も(2)も、刑務所に服役中であれば、検察官は「釈放指揮書」により釈放させる。その後、執行停止の理由がなくなれば、直ちにこれを取消し、刑務所長に残りの刑期の執行を指揮する。

90歳と高齢だが…

 2009年に北海道拓殖銀行を巡る特別背任で懲役2年6ヶ月の実刑判決が確定した元頭取の1人も、84歳と高齢で入院中だったため、刑の執行前に検察官に執行停止を上申し、約1ヶ月半後にこれが認められた。

 もし執行延期や執行停止中に本人が死亡したら、検察官は「執行不能」を決定する。この元頭取も執行停止の4日後に死亡し、1日も服役しないで終わっている。

 ただ、現実には執行停止など全体の0.1%にすら満たず、ほぼないに等しい。刑事訴訟法では年齢が70歳以上であれば執行停止の理由になるとされているが、検察ではこれだけだと認めていない。

 高齢化傾向にある今の刑務所には、高齢で病気がちの受刑者が数多くいる。法は誰に対しても平等に適用されてこそ信頼を得る。男を特別扱いすべきではない。

 もともと検察は男に禁錮7年を求刑していたわけで、男を収容しても問題ないと判断し、実際に服役させる腹積もりではないか。(了)