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きょう控訴期限の池袋暴走 初めから過失を認め反省の情を示していたら量刑は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:Nobuyuki_Yoshikawa/イメージマート)

 池袋暴走事故で禁錮5年の実刑判決を受けた男が控訴しない意向を固めたという。きょうが控訴期限であり、検察側も控訴しないであろうから、零時を過ぎた時点で男の有罪が確定する。

裁判所が重視した点は?

 では、男が初めから過失を認め、真摯な反省の情を示していたら、裁判所の量刑はどうなっただろうか。この点につき、東京地裁は、判決の中で男に不利な事情として次のような事実を挙げている。

(1) 重大かつ一方的な過失である。

(2) 事故全体の結果が甚大である。

(3) 深い反省の念がない。

 (1)は男の認否とは無関係であり、(2)と(3)が重要となる。まず(2)について、東京地裁は、男が事故に真摯に向き合っていないこともあり、遺族の男に対する処罰感情が一様に峻烈で、負傷者らのそれも同様に厳しいと指摘している。

 (3)についても、法廷で謝罪の言葉を口にする一方、アクセルとブレーキを踏み間違えた記憶は全くないと述べ、自らの過失を否定する態度に終始しており、事故に真摯に向き合い、過失に対する深い反省の念を有しているとは言えないと断じている。

 一方で、男に過度の社会的非難が加えられた点について、考慮の程度はおのずと限定されるものの、男が今回の事故で受けた不利益であり、男に有利に考慮すべき事情だとしている。

事故後の対応が違っていたら…

 もし男が初めから過失を認め、真摯な反省の情を示していたら、遺族や被害者らの処罰感情も少しは和らいだであろうし、裁判所もきちんと事故に向き合っていると評価したことだろう。

 もっとも、全国から39万筆もの署名が集まるような事態にはならず、社会的なバッシングもはるかに少なかったはずだが、裁判所は社会的制裁の点を過度に重視していないから、男にとってこれがマイナスに働くことはない。

 東京地裁はこの種の事案の量刑傾向を踏まえて判断しているものの、明らかに否認が前提となっている。禁錮5年という判断はやや踏み込んだもので、検察側の禁錮7年という求刑に引っ張られた形だ。

 それこそ、この件と同じ時期に三ノ宮駅前で起きた同様の事故の場合、求刑は禁錮5年、判決は禁錮3年6ヶ月の実刑だった。市バスを運転中、アクセルとブレーキを踏み間違え、横断歩道の歩行者に突っ込んで2人死亡、4人重軽傷の結果を生じさせたものだ。プロのドライバーということで刑事責任がより重いものの、過失を認めて反省していると評価された。

 そうすると、任意保険により損害賠償が行われることや、男が90歳と高齢で体調も万全でないことなどを踏まえると、事故後の男の対応が違っていたら、求刑も量刑も三ノ宮の事故と同程度になっていた可能性が高いだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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