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「100円ちょうだい」「もっとないの」 通行人にお金を無心、何罪になる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 成田空港で女子大生に帽子を差し出して「100円ちょうだい」と言い、100円硬貨を受け取ったうえで、「もっとないの」と言いがかりをつけたとされる70歳の男が逮捕された。何罪が成立するか――。

 まず、脅したり騙したりして現金を交付させていたら刑法の恐喝罪や強要罪、詐欺罪に問われるが、今回はこれらには当たらない。

 軽犯罪法が「こじきをし、又はこじきをさせた者」を処罰の対象としており、刑罰は拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)か科料(千円以上1万円未満の金銭罰)だが、「こじき」とは哀れみや同情をかって金品を恵んでもらうことを意味する。

 子どもをダシに使うことが多いため、児童福祉法も「児童にこじきをさせ、又は児童を利用してこじきをする行為」に及んだら最高で懲役3年に処するとしているほどだ。

 2015年にはインターネットの生配信で閲覧者に金品の提供を呼びかけ、「ネットこじき」と呼ばれた男が軽犯罪法違反で書類送検されている。しかし、今回はこれらにも当たらない。

迷惑防止条例で規制

 では無罪放免かというと、そうではない。迷惑防止条例が「たかり」など金品の不当な要求行為を禁止しているからだ。例えば、成田空港のある千葉県だと、次のようなものだ。

「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、通行人、入場者、乗客その他の公衆に対し、立ちふさがり、つきまとい、いいがかりをつける等迷惑を覚えさせるような言動で、金品を要求してはならない」

 これに違反した場合、最高で罰金5万円に処される。街頭で通行人に対して行われている正当な募金活動は規制の対象外だが、しつこくつきまとうようであれば、条例違反に問われる。

 今回の男もこれで逮捕された。成田空港では1月から同様の被害申告が相次いでおり、男は容疑を認めている。

 ただ、男は無職で、成田空港で寝泊まりしているという。罰金の納付など期待できず、比較的軽微な事案でもあるから、検察は起訴猶予にし、親族らに厳重監督を委ねるのではないか。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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