国税庁酒税課と内閣官房コロナ対策推進室が酒類業中央団体連絡協議会あてに飲食店との取引停止を依頼する文書を出した。コロナ禍にあえぐ酒類業界をさらに苦しめる悪手であるばかりか、法的にも問題がある。

文書の内容は?

 この文書は、西村康稔経済再生担当大臣が飲食店の締め付けを要請した7月8日付のものだ。連絡協議会は酒造会社や卸売・小売業者の組合で構成される団体であり、9日には各メーカーなどにも転送されて大騒ぎになった。

 酒類の販売業者において休業要請等に応じていない飲食店を把握した場合、そうした行為を助長しないように、要請期間中、その飲食店との酒類の取引を停止するように依頼する内容だったからだ。

 文書が国税庁から出されていた点も酒類業界にとって衝撃だった。国税庁は助言や協力をしてくれる頼れる存在である一方で、酒類の製造や販売の免許を所管し、酒税を徴収するなど、最も頭の上がらない役所でもあるからだ。

 今後の関係を考慮すると、その依頼に従わざるを得ない弱い立場にあるわけで、結局のところ依頼とは名ばかりであり、そうした強弱関係を利用し、政府の言うことを聞かせるのが狙いだと受け止められた。

 現に関係者はSNS上で「正気か?」「密告社会のようになってきた」「業界団体を通じた依頼という形の行政指導」「お願いというより命令」「従わない場合は何があるか分からない」などと強い拒否反応を示した。

 もともと酒類業界は具体的なエビデンスを示さないまま酒を「諸悪の根源」とみる政府のやり方にうんざりしていたが、この文書で堪忍袋の緒が切れた形だ。

 飲食店に対する休業協力金は入金が遅く、酒販業者に対する支援金も事業規模に全く見合わない微々たるものだからだ。

 特にビールは賞味期限の表記が義務付けられているので、宣言期間と重なれば大量の廃棄ロスが出る。インポーターだと通関時に酒税を前払いしており、さらに損失が大きい。

法的根拠や権限は?

 この点、行政手続法には、次のような規定がある。

「行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと…に留意しなければならない」

「その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」

 休業要請などに応じない飲食店に対し、酒販業者を使って酒類の供給源を断つのは、特措法が認める過料とは全く別の不利益な取扱いにほかならない。酒販業者を萎縮させ、憲法で保障された彼らの営業の自由まで不当に制限するものだ。

 ところが、国税庁や内閣官房は、今回の文書を出すに際し、こうした規定に抵触するのではないかといった点を検討していない模様だ。それどころか、文書には依頼を行う法的根拠が何ら示されておらず、何の権限に基づいて文書を出したのかも不明だ。

 そもそもこの依頼には法的根拠などなく、彼らの権限に基づくものですらないことをよく分かっているからだろう。百歩譲ってコロナ対策のために必要な協力要請だとしても、特措法でこれを出せるのは対策本部長である知事に限られている。

 さらには、この依頼に反して飲食店と取引を継続しても何のペナルティもないのに、文書にはその説明もない。一方で、酒販業者がルール違反の飲食店を把握したら、酒類の取引を停止するしか選択の余地がない書きっぷりになっている。

 西村大臣らはあくまで国からの一般的な「お願い」だと火消しに躍起だが、だとするとわざわざ正式な文書で実効性のない依頼を出したということにもなる。

 早々と撤回された銀行の融資規制に繋がる西村大臣の要請も、何ら法的根拠や権限に基づいた話ではなかった。法治国家である以上、そうした行政措置には必ずどこかで無理や歪みが生じる。

 コロナ対策は民間の協力が不可欠だし、今回の依頼文書には法的な問題も多々ある。一刻も早く撤回すべきではないか。(了)