交通違反の取り締まりを行っていた警察官が、免許証不携帯で男を検挙した。男は弟のふりをし、弟の氏名を名乗った。しかし、その後、警察官の方が書類送検される事態に至った。なぜか――。

どのような事件?

 この警察官は、2019年12月に名古屋市内で乗用車を運転していた男を免許証不携帯で検挙し、「青切符」と呼ばれる交通反則告知書を切った。

 男が語った氏名や住所などに基づいて免許情報を照会した結果、無免許でないことが判明したからだ。

 しかし、それ以上の本人確認ができていなかったにもかかわらず、反則切符に「母親に電話して本人だと確認した」と記載し、男を弟本人として処理した。

 その後、男が期限までに反則金の仮納付をせず、弟あてに本納付書が送付された。心当たりのない弟が警察に相談した結果、男の「なりすまし」が発覚し、その後の捜査で先ほどの虚偽記載も明らかになった。

 男を検挙した警察官は、警察の内部調査に対し、「男の母親に電話をしたが繋がらなかったので、後で確認しようと思っていた」と弁解した。

 実際には確認しておらず、今年1月に入り、虚偽公文書作成・同行使の容疑で書類送検され、戒告の懲戒処分を受けるに至った。

弟になりすました兄は?

 では、検挙された兄の方はどうなるか。道路交通法が定める免許証不携帯罪の最高刑は罰金2万円であり、うっかり忘れたといった過失の場合も処罰の対象だ。

 もっとも、実際には車種を問わず反則金3000円の納付によって刑事手続のレールに乗らずに済むようになっており、違反点数の加点もない。

 ところが、男は弟の氏名で反則切符にサインをしている。反則切符の供述書欄にある「上記違反をしたことは相違ありません」という部分は、私文書にあたる。

 そうすると、弟の氏名を語っているわけだから、男には有印私文書偽造・同行使罪が成立する。最高刑は懲役5年と重い。

 反則切符には氏名を手書きし、指印も押しているから、筆跡や指紋を照合することで誰が真犯人か容易に特定できる。

承諾を得ていたら?

 では、身代わりについて事前に弟本人の承諾を得ていた場合はどうか。

 それでもアウトだというのが最高裁の判例だ。反則切符の供述書欄は、違反者本人以外の名義で作成することが許されない性質のものだからだ。

 免許証不携帯だけであれば反則金3000円の支払いで済み、前科も付かないが、反則切符に他人の氏名でサインすれば、有印私文書偽造・同行使罪で起訴される。たとえ執行猶予になったとしても、前科が付く。

 違反点数の累積による免停処分などを避けるため、免許証の不携帯を装い、身内や友人らの氏名を語るケースも現にみられる。「あとで了解をもらえばいい」といった軽い気持ちからだが、違反点数はその身内らの免許証に影響を与える。

 彼らに協力を拒否されたらお終いだし、内緒で反則金を納付していても、身内らが心当たりのない加点に気づき、警察に確認することで発覚する。

 免許証不携帯のような加点がない違反でも、もし身内ら自身が何らかの交通違反に及んで反則切符を切られていれば、交通反則通告センターでチェックされる際、両者の筆跡や指印の違いから「なりすまし」が明らかになる。

 交通違反で検挙されても、他人になりすますのは絶対にやめておくべきだ。(了)