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指や器具を挿入…女性の女性に対する強制性交等罪は成立する?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:PantherMedia/イメージマート)

 2017年の刑法改正で性犯罪の厳罰化が図られた際、3年後を目処に見直すとされていたことから、現在、暴行脅迫要件の撤廃など、さまざまな議論が進められている。指や器具を挿入する行為の取り扱いもその一つだ。

「性交等」とは?

 すなわち、刑法は強制性交等罪の「性交等」について、「性交、肛門性交及び口腔性交」と定義している。冒頭で述べた刑法改正までは強姦罪という罪名であり、「女子を姦淫」した場合に限られていた。

 そこで、被害者の性別を問わないようにするとともに、刑罰が軽い強制わいせつ罪で処罰されていた肛門や口腔に対する性交を強制性交等罪の中に取り込むこととした。

 それでも、前身である強姦罪の「姦淫」という文言に引きずられており、あくまで「性交」の存在が前提となることに変わりはなかった。強制性交等罪の成立には、膣や肛門、口腔内に一部でも陰茎を挿入する必要があるというわけだ。

 したがって、女性の女性に対する強制性交等罪は、共犯である男性の存在が不可欠であり、その男性を唆して被害者を襲わせるとか、男性が性交に及んでいる間に女性自らも被害者の身体を押さえつけるといった場合にしか成立しないことになる。

被害者のダメージに違いは?

 しかし、陰茎ではなく、指や陰茎を模した性玩具などの異物を無理やり膣内や肛門内に挿入されるような場合でも、被害者が受けるダメージには特に変わりがないはずだ。これは、犯人や被害者の性別を問わない。

 強姦罪の時代であれば、意に反する妊娠の可能性という点が挙げられたが、肛門や口腔をも対象とする強制性交等罪が創設されたことで、その理屈では説明がつかなくなっている。

 端的に指や器具を挿入する行為をも強制性交等罪の中に含めるような法改正が必要だろう。諸外国の中には、すでにそうした立法例もある。

強制わいせつ罪が軽すぎるのでは?

 もともとこうした問題が生じるのは、強制性交等罪と比べ、強制わいせつ罪の刑罰が格段に軽いという事情も挙げられる。

 すなわち、先ほどの改正の際、強制性交等罪については、上限こそ刑法が定める有期刑の限界である懲役20年のままだったが、下限が強姦罪時代の懲役3年から強盗罪と同じ懲役5年にまで引き上げられた。

 犯行が未遂にとどまったり、犯罪の情状に酌量すベきものがあるような特別なケースでない限り、初犯でも執行猶予が付かず、必ず実刑に処されることとなった。マスコミでも性犯罪の厳罰化という触れ込みで大きく報じられた。

 しかし、実は強制わいせつ罪については、下限が懲役6ヶ月、上限が懲役10年のままで何ら変更されなかった。告訴がなくても起訴できるように改正されたものの、強制性交等罪と異なり、法定刑には手が加えられなかったわけだ。

 いま進められている見直し議論の結果、もし指や器具の挿入行為を強制性交等罪に取り込まないとされた場合には、少なくとも強制わいせつ罪の下限と上限を引き上げ、性犯罪被害の実態に見合った刑罰が科せるように、厳罰化を図る必要があるだろう。(了)

(参考)

拙稿「実際にどこまで性犯罪の厳罰化が進むのか 110年ぶりの抜本改正で変わること、変わらないこと

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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