「首を絞めると気持ちいいよ」少女を誘って失神させたフェチ男…その罪と罰
SNSで知り合った少女(17)に「首を絞めると気持ちいいよ」などと誘い、ネットカフェの個室で実行して鬱血、失神させた動画サイト運営の男(29)が逮捕された。撮影、配信していたとみられる。
どのような事件?
東京在住の男は、首絞めや心音が好きな「心臓フェチ」と称し、女性の窒息姿やその際の心音などが収録されたフェチ動画をネット上で配信していた。一方、2020年2月にSNSを介して男と知り合った大阪在住の少女は、心音に興味があり、男の誘いに応じた。
10月3日、男と少女は大阪市内にあるネットカフェに行き、個室で6時間ほど滞在した。その間、男は両手で少女の首を絞めたり、鼻や口を塞いだりし、少女を鬱血、失神させ、全治2週間のケガを負わせた。
帰宅した少女が家族に相談して発覚し、男は10月7日に未成年者誘拐罪と傷害罪で大阪府警に逮捕された。容疑を認めており、警察は余罪の有無や動画の配信状況、得た利益の程度などについて捜査を進めている。
なぜ未成年者誘拐罪?
もっとも、少女が男の誘いに応じ、自らネットカフェまで同行していることから、誘拐罪による逮捕に違和感を覚える人もいるだろう。
確かに、一般に「誘拐」と聞くと暴行や脅迫によって無理やり連れ出すようなイメージかもしれないが、刑法ではそれを「略取」と呼んで区別している。
すなわち、「誘拐」とは、虚偽の事実を告げて錯誤に陥れる(欺罔)とか、甘言で惑わして判断を誤らせ(誘惑)、もとの生活環境から離脱させ、支配下に置くことを意味している。
また、未成年者に対する誘拐罪は、本人の身体の自由のみならず、親ら本人を監護する者の監護権をも保護しようとしたものだ。
したがって、本人が20歳未満であり、犯人がこれを認識していさえすれば、親ら監護者の同意がない限り、本人の同意の有無に関わりなく未成年者誘拐罪が成立する。
最高刑は懲役7年だが、営利目的や生命・身体への加害目的の場合には懲役10年まで加重される。今回の事件も、当初から少女の首を絞め、撮影して配信し、利益を得ようとしていたということであれば、より重い罰則が適用される。
なぜ傷害罪?
また、少なくとも少女は首を絞められることに同意していたわけだから、傷害罪による立件に疑問を抱く人もいるのではないか。失神の点は過失致傷罪で評価すれば足りるという考えもあるだろう。
この点については、「窒息プレイ」をめぐり、すでに裁判例が蓄積されている。性交中に快感を高めるため、相手の承諾を得て首を絞めていたところ、窒息死させたという事件だ。
手で絞めたケースで過失致死罪を適用したものや、ひも、ナイロンバンド、ロープで絞めたケースで傷害致死罪を適用したものがある。
相手の生命・身体に重大な危険を生じさせるおそれがある行為は社会的に許容されず、同意があっても違法だというのが裁判所の基本的なスタンスだといえよう。
今回の事件も、男に殺意までは認め難いものの、少女が失神するほど首を絞めていることをとらえ、警察は傷害罪を適用した。
それでも、同意の内容が争点になる可能性もあるので、念のため警察は、少女から「失神させられることまでは容認していない」「思ったよりも強く首を絞められた」との供述を得たうえで強制捜査に着手している。
かなり珍しい事案ではあるが、男に前科や余罪がなく、立件が今回の1件だけで終わり、少女側と示談も成立すれば、フェチ同士のプレイだということで、起訴猶予で終わる可能性が高い。(了)