問われるべきは検察幹部とマスコミの「ズブズブ」関係 取材のあり方にもメスを

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 いくらの賭け金から賭博罪で立件されるのかといったことに注目が集まっているが、文春砲であらわになったのは、検察幹部とマスコミの「ズブズブ」の関係だ。ここにこそ、メスを入れる必要がある。

元NHKの司法キャップ語る

 この点、5月22日の「ABEMA PRIME」の中で、ジャーナリストの鎌田靖氏が興味深い発言をした。鎌田氏といえば、NHK時代に検察取材を取り仕切る司法キャップなどを務めていた人物だ。発言の要旨は次のようなものだった。

「公務員には守秘義務があり、特に事件に関係する内容を裁判前に公にしてはならないという規定もあるので、検察官は基本的に口が堅い」

「やはり、“こいつには話してやろうか”と思ってもらえるような信頼関係を築いておかなければ情報が取れないということも日常的にある」

(現役時代には検察官と麻雀で)「1000円、2000円くらいのお金を賭けていた。一番負けた時で数千円くらいだったが…」

「懇親会でカラオケに行くこともあったし、山歩きが好きな検察幹部がいて、疲れるのは嫌だったが各社が行くので付いて行ったこともある」

「そういう中で、普通では話をしてもらえないようなことを話してもらったこともある」

「検察側が事件について“漏らす”“匂わす”ということはある」

「逆に“持ち込み”といって、例えば暴力団関係者や経済関係者に取材する中で、“これは犯罪の端緒になるのではないか”、“これは摘発して然るべき問題ではないか”と情報提供することはあるし、それは検察側も喜ぶ。そういう関係もある」

出典:ABEMA TIMES

「持ちつ持たれつ」

 鎌田氏の発言は腑に落ちる。筆者が知る検察幹部と記者との関係も、まさにこのとおりだからだ。「持ちつ持たれつ」であり、今に始まった話ではない。

 それこそ、鎌田氏がいう「山歩きが好きな検察幹部」がだれなのか、検察の人間や検察を取材したことのある記者であれば、すぐにピンとくるはずだ。

 確かに、幹部による情報リークはある。その背景や検察にとってのメリット・デメリット、メディアコントロールの狙いなどは、すでに拙稿「なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか (1)」、「同(2)」、「同(3)」で記したとおりだ。

 ただ、今回の騒動で、さすがに検事総長にもなろうという人物は違うなと思ったのは、黒川弘務氏が産経新聞と朝日新聞という、両極にあるメディアの記者らと賭け麻雀をするほど「ズブズブ」の関係に至っていたという点だ。

 筆者の知る限り、「X幹部はA新聞の●●記者」「Y幹部はB新聞の××記者」といったように、幹部ごとに親密な記者が異なるというパターンが多かった。検事総長候補クラスになると、メディアに幅広く目配りし、彼らを敵に回さないといった政治力も求められるのであろう。

「特異な事案」として処理?

 もっとも、捜査の現場からすると、こうした幹部についていこうとは思わないだろう。せっかく苦労して収集した情報を幹部に上げた途端、都合よく取捨選択され、記者に漏らされるおそれが高いからだ。

 確かに、筆者も現職時代、記者の「夜討ち朝駆け」に遭遇したことがあるし、強制捜査直前といった時期には記者に尾行されたこともある。

 しかし、麻雀や飲み会どころか、記者と言葉を交わすことすらしなかった。筆者がマスコミ嫌いだったこともあるが、検察内のルールではそれが当然とされていたからだ。

 先ほどの鎌田氏も、「私が接してきた検察官たちは杓子定規で、記者に対しても『つっけんどん』な対応をする人たちがほとんどだった」と述べているところだ。

 ただ、さまざまな情報が集約され、大所高所から検察組織の運営を求められる幹部クラスになると、話は変わってくる。

 中には口の堅い者もいるにはいるが、本来であれば庁内で行われる公式の記者対応しかやってはならないはずなのに、「夜討ち朝駆け」に応じたり、記者と飲み食いなどをして関係を深めていく者も出てくるわけだ。

 とはいえ、さすがに黒川氏のように記者の自宅に上がり込むとか、「三密」の回避や外出自粛が呼びかけられていた緊急事態宣言下で記者と賭け麻雀を繰り返すとか、そのハイヤーで帰宅するといった幹部など聞いたことがない。

 検察にとってもメディアにとっても痛手になる話なので、「一部の幹部と一部の記者との間の極めて特異な関係に基づく異例中の異例の事案にすぎない」というストーリーで片付けられる可能性が濃厚だ。

「関係者によると」…

 問題は、それでいいのかという点だ。この機会に検察幹部とマスコミの癒着にまでメスを入れなければ、ほとぼりが冷めたころに、時と場所、人を変え、同じことが繰り返されるだけだ。

 「検察関係者によると」とか「捜査関係者によると」といったマスコミ用語も気になるところだ。検察からクレームが入ることに遠慮し、「関係者によると」と幅のある記載をして表現を薄めることもある。

 もちろん、取材源秘匿の要請からだし、その意義は理解できる。しかし、誤報だった場合、だれの話だったのか、本当にそんな人物が実在したのか、国民としては確かめようがない。

 この点、筆者が先ほどの拙稿を記したことに対し、現職検事の一人から次のような意見が寄せられた。今では幹部一歩手前の人物だ。

「捜査機関は司法的権限のみならず行政的権限も持っており、防犯や権力チェックに資する情報を提供する義務がある。マスコミに出す情報の多くはしかるべき立場の人間が発表しているわけだから、『リーク』には当たらない」

 しかし、現在進行形のさまざまな事件に関する報道を見る限り、「関係者」なる者が情報源になっている事実のほぼすべてが、明らかに非公式な形で漏らされ、防犯や権力チェックに資する情報の限度を超えたものとなっている。

 カルロス・ゴーン氏の電撃的な逮捕劇についても、なぜ一部のメディアがスクープを連発できたのかという問題がある。逮捕後も、関係者の供述状況や強制捜査の着手時期、処分見込みなど、検察しか知らないはずの極秘情報が次々と報じられてきた。

 逆に、不起訴で終わった政治家や官僚の疑惑や、検察内部の不祥事のように、国民が一番知りたいのに検察にとって都合が悪いことを聞かれると、「関係者のプライバシー」や「捜査の秘密」を理由にして口を閉ざしている。

 捜査情報を他社に先駆けて報じることが目的化し、無責任で不正確なリークに基づいて行われるファクトチェックのできない匿名報道の粗製濫造など、かえって国民を真相から遠ざけ、ミスリーディングを招くだけだ。

 検察もマスコミも、いつまでこういったやり方を続けていくつもりだろうか。

再び元NHKの司法キャップの発言

 最後に、先ほどの番組の中で鎌田氏が語った次のような発言を紹介しておきたい。

「ある種の友人関係のようになってしまうことはリスクになる。綺麗事に聞こえるかもしれないが、権力をチェックし、国民の知る権利に応えるのが記者たちの義務だ。しかし政治家も検察も、ものすごく強い権力を持っているので、好かれようとするあまり、取り込まれてしまって取材ができなくなる危険性が必ず付いて回る」

「“相手が嫌がるかもしれないからこれは書くのは止めよう”と思ってしまう。そして取材すること自体が目的化し、書くことを忘れ、“楽しければいい”となってしまう危険性もある。私が司法クラブにいた時にも、“あの社には負けたくない”“今度はスクープを取りたい”という思いが日常になってしまい、目的化してしまっていたことがあった」

 的を射た指摘であり、今の状況と大差ないのではないかと思われる。

 検察幹部とマスコミが「ズブズブ」であり、そうした関係の中でメディアコントロールが行われ、さまざまな狙いに基づく意図的なリークが繰り返され、国民を一方向に誘導し、一方でメディアも書くべきことを書けなくなることのほうが、国民の知る権利、健全な民主主義にとって脅威ではなかろうか。(了)

(参考)

 拙稿「なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか (1)

 拙稿「同(2)

 拙稿「同(3)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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