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ノート(132) 裁判長の宣言で初公判が開廷 冒頭手続のやり取りは

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

~裁判編(5)

勾留174日目(続)

いよいよ入廷

 護送担当の刑務官に促され、被告人用の扉から202号大法廷に入ると、裁判長や左右の裁判官、書記官、検察官、弁護人らのほか、傍聴席最前列の記者やその後ろに座る傍聴人らの視線が一斉にこちらを向いた。

 通常、裁判長や裁判官は被告人の入廷後、法廷内で一段高くなっている裁判官席の後ろの扉から黒色の法服姿で厳かに法廷に入ってくる。

 その際、法廷内の隅に座って裁判官を補助している裁判所事務官が「起立願います」と言うので、検察官や弁護人、書記官、傍聴人らは立ち上がり、裁判長や裁判官を出迎え、彼らに一礼したあと、彼らが座るのに合わせて着席するわけだ。

 裁判官の法服が黒色なのは、黒の絵の具に赤や青、黄の絵の具を混ぜても黒いままであるように、どんな色にも染まらず、公平公正に裁判を行うという姿勢を表すとともに、裁判の厳粛さをも象徴していると言われている。

 もちろん、当事者からするとおよそ公平公正とは思えないような色に染まった裁判官がいるのも確かだ。

 余談だが、刑事裁判修習の際、ある司法修習生が模擬裁判後の質疑応答でベテラン裁判官に「なぜ裁判官が入廷する際に立たなければならないのか。裁判官はそんなに偉い人間なのか」と尋ねたことがあった。一瞬で場が凍りついたが、結局、その裁判官から納得できるような答えは返ってこなかった。

 ところで、この日の初公判で裁判長や裁判官が先に入廷していたのは、社会的に注目されている事件であり、法廷内のカメラ撮影が許可されていたからだ。

 これは、スチールカメラ1台、ビデオカメラ1台の代表取材であり、裁判官の入廷開始時から撮影を始め、裁判官全員の着席後、被告人の在廷しない状態で、開廷宣告前までの2分以内に撮影を終える決まりだった。

 ただ、傍聴席はほぼ一杯だったが、3日前に起きた東日本大震災の影響もあってギュウギュウ詰めではなく、くじ引きをするほどの状態ではないだろうと思われた。

裁判官の顔ぶれ

 あらかじめ決めていたとおり、手錠がよく見えるように両手を少し浮かせ気味にしながら歩き、そのまま法廷中央にある証言台の前に立ったあと、まず裁判官席に、次いで検察官席に、それぞれ深々と一礼した。

 「外してください」

 裁判長の一言を受け、刑務官らがスルスルと素早く手錠や腰縄を外した。

 「では開廷します」

 裁判長による開廷宣言で、ついに初公判が始まった。担当は刑事第5部であり、裁判長は大阪地裁の勤務経験が長い刑事畑の中川博之氏だった。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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