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闇営業で「ギャラ300万円」証言 芸人の法的問題や捜査の可能性は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 芸人が別の芸人の仲介で特殊詐欺グループの宴会に出席していたという闇営業が話題だ。彼らの素性に対する認識やギャラ受領の有無については関係者の証言が相違しており、騒動も沈静化の様相を見せていない。

【犯罪収益等収受罪では?】

 ただ、所属する吉本興業を通さない闇営業が許されるか否かは事務所との契約内容に左右される話だ。問題の本質は、闇営業そのものではない。

 むしろ第一に解明されるべきは、「組対法」、すなわち組織犯罪対策法が規定する犯罪収益等収受罪の成否だ。

 特殊詐欺グループが「振り込め詐欺」などを組織的に行い、被害者からだまし取った資金は、組対法が定める「犯罪収益」に当たる。彼らが何らかの「表事業」で正当に稼いでいても、一部でもそうした「犯罪収益」が混和していれば、今度は「犯罪収益等」として規制の対象となる。

 特殊詐欺の撲滅のためには、犯罪によって得た資金が使われるのを防ぎ、剥奪する必要があるからだ。

 ギャラ名目とはいえ、被害者からだまし取った資金の一部が芸人に流れていたということになれば、それこそ芸人の認識次第では、犯罪収益等収受罪が成立し得る。最高刑は懲役3年であり、警察による捜査対象となる悪質な行為だ。

【食い違う証言】

 この点、報道によれば、特殊詐欺グループの金庫番だったという男性が、仲介役のカラテカ・入江慎也氏の預金口座にまとめて300万円のギャラを振り込んだと証言している。

 また、そのうち100万円は雨上がり決死隊・宮迫博之氏の取り分、30万円は入江氏の仲介料で、残り170万円をほかの芸人で分配する話だったとか、入江氏は男性らの素性をあらかじめ知っていたとか、宮迫氏らも当日の会場の雰囲気で分かったはずだと証言している。

 これらは、入江氏や宮迫氏らの証言と真っ向から食い違っている。

 確かに、平然と嘘をつくのが商売である特殊詐欺グループの元メンバーである以上、男性の話にどこまで乗ってよいのかという問題もある。

 それでも、通帳や振込伝票といった客観的な資料の裏付けがあるのか否かや、300万円の原資が何だったのかは最優先で解明すべきポイントになる。

 問題の宴会は2014年12月であり、犯罪収益等収受罪の時効が3年なので、たとえ芸人らに悪意があったとしても、もはや起訴することはできない。とはいえ、男性の証言のとおりであれば、厳しい社会的非難に値する話であることは間違いない。

【脱税では?】

 もし入江氏がその300万円を着服していれば、横領罪や詐欺罪の成立も考えられる。しかし、入江氏を介してほかの芸人らに一部が渡されていたとなると、次に彼らの脱税が問題となる。

 2014年12月に宴会が開催され、そのころにギャラが渡されていたとすれば、芸人らの所得税の申告期限は2015年3月になるはずだ。もしこれを所得として申告していなければ、典型的な「売上除外」であり、脱税に当たる。時効は7年なので、こちらはまだアウトの状態だ。

 もちろん、刑事事件として国税局査察部や地検特捜部が乗り出すには金額的に見てあまりもスケールが小さすぎるし、それこそ著名なレギュラー番組を抱える宮迫氏の所得全体から見ると100万円のギャラなど微々たるものと思われるから、税務署も単なる「申告漏れ」として取り扱い、修正申告で終わらせるような事案だ。

 それでも、ほかにも受け取ったギャラを所得として税務申告していない闇営業があるのではないかといった疑念は残るし、これだけ騒がれている以上、いずれかのタイミングで税務署の税務調査が行われることになるだろう。

 少なくとも、このままあいまいな状態で終わらせるような話ではないはずだ。

 仲介役の入江氏が最大のキーマンとなる。コンプライアンスの観点からも、先ほど挙げた元金庫番の男性を含め、吉本興業が第三者委員会などを通じて徹底して調査し、その結果を公表する必要があるのではなかろうか。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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