千葉県の学習塾元経営者(42)が児童ポルノ製造罪で逮捕された。塾の女性トイレに隠しカメラを設置し、中高生らを盗撮していたという。なぜこの犯罪での立件に至ったか、盗撮をめぐる罪と罰について触れてみたい。

【建造物侵入罪は無理】

 報道によれば、次のような事案だ。

「容疑者の自宅などから押収した動画約3700本には、中高生や塾講師の女性延べ約2400人が撮影されており、少なくとも2012年7月ごろから今年5月までに盗撮を続けていたとみて裏付けを進める」

「逮捕容疑は、県内で経営していた学習塾で今年3~5月、女性トイレに小型動画カメラ2台を設置し、18歳未満と知りながら中学生と高校生の少女を盗撮し、児童ポルノを製造した疑い。『女の子が用を足す姿を見たかった。性欲を満たすためだった』と容疑を認めている」

「塾から7台、自宅から12台の盗撮用カメラが見つかり、動画はノートパソコンや外付けハードディスクに保存されていた。現時点で動画の販売やネットなどへの流出は確認されていない。塾は6月に閉鎖された」

出典:千葉日報

 こうした盗撮事件でよく使われる罰則は、(1)刑法の建造物侵入罪、(2)都道府県の迷惑防止条例違反、(3)児童買春・児童ポルノ禁止法の児童ポルノ製造罪だ。

 正当な理由がないのに便所をひそかにのぞき見た者を処罰する軽犯罪法もあり、盗撮も含まれるが、刑罰は拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)か科料(千円以上1万円未満の金銭罰)であり、あまりにも軽すぎて使いものにならない。

 まず(1)だが、盗撮用カメラの設置や回収のために女性トイレに侵入した行為を罰しようというもので、最高刑も懲役3年と軽犯罪法より重い。

 ただ、(1)は、女性トイレを含めた建物・施設の管理者の意思に反しているか否かがポイントとなる。

 今回の事案のように、盗撮犯自身が塾全体の管理者である塾経営者であれば、その意思に反していないということになり、(1)は成立しない。

 コンビニの経営者が店舗内のトイレに盗撮用のカメラを設置したとか、民泊のオーナーが室内に盗撮用のカメラを設置したような場合も、同様に(1)は使えない。

 なお、今年6月、同じ千葉県の別の学習塾で校舎長を務める男(40)が逮捕されており、逮捕容疑は盗撮用カメラを設置するために塾のトイレに侵入したというものだった。

 しかし、校舎長といっても塾経営会社の一社員にすぎず、代表者である上位の塾長がトイレを含めた塾全体の管理者だと評価できるので、今回の事案とは趣を異にする。

【千葉県迷惑防止条例の適用も難しい】

 次に(2)の迷惑防止条例だが、千葉県の場合、次のように規定しており、最高刑は懲役6月、常習犯だと懲役1年だ。

「何人も、女子に対し、公共の場所又は公共の乗物において、女子を著しくしゆう恥させ、又は女子に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。男子に対するこれらの行為も、同様とする」

 「不安を覚えさせるような卑わいな言動」には盗撮も含まれる。

 ただ、問題は「公共の場所…において」と限定している点だ。

 先ほどの条例では、その点について、次のように定義されている。

「道路、公園、広場、駅、ふ頭、飲食店、興行場その他の公衆が出入りすることができる場所」

 要するに、不特定で多数の人が出入りする場所を意味する。

 そうすると、塾の教室や事務所のほか、塾のトイレのように同じ顔ぶれの生徒や事務員しか出入りしていないところは、およそ「公共の場所」とは言えず、この条例を適用できないのではないか、という問題が生じる。

 これに対し、兵庫県などは迷惑防止条例を改正し、便所や浴場、更衣室など人が衣服を着けない状態でいるような場所での盗撮そのものを明確に規制し、この問題をクリアしている。

 しかし、千葉県の条例はまだこうした改正が行われておらず、旧来型の規定のままであるため、残念ながら今回の事案には使えないだろう。

 都道府県ごとにバラバラな条例ではなく、全国画一の法律に基づいて盗撮罪を創設し、厳罰化すべきだと言われるゆえんだ。

【「児童ポルノ」に当たるとアウト】

 そうすると、このままでは先ほどの軽犯罪法違反くらいしか成立しないこととなる。

 そこで、被害者の年齢が18歳未満であることに着目し、先ほどの(3)の児童ポルノ製造罪を使おうというわけだ。

 というのも、児童ポルノの単純所持に対する罰則を創設した2014年の児ポ法改正に際し、児童にポーズをとらせるのではなく、盗撮のように「ひそかに」製造する場合も製造罪の対象とする法改正が行われているからだ。

 18歳以上と思われる女性塾講師については児ポ法が前提とする「児童」に当たらないので無理だが、女子中高生はまさしく18歳未満の「児童」にほかならない。

 トイレ内の様子を盗撮した動画の内容が次のような児童ポルノに当たるものであれば、製造罪で立件できる。

「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態で、殊更にその性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部)が露出又は強調されており、性欲を興奮させ又は刺激するもの」

 カメラ2台を設置したという事案だし、女生徒らが用を足す姿を見たかったということなので、明らかにこれに該当する盗撮動画だったものと思われる。

 こうして警察は、元塾経営者を児童ポルノ製造罪で逮捕するに至ったという次第だ。

 逆に言うと、もし2014年の児ポ法改正がなければ、極めて悪質でハレンチな事案であるにもかかわらず、元塾経営者を軽犯罪法違反というごく軽い刑罰でしか処罰できなかったということになる。

 今年6月にも、三重県の元個人学習塾経営者(50)が同様に塾内で生徒らの盗撮に及び、やはり児童ポルノ製造罪で逮捕されている。

【今後の捜査のポイント】

 児童ポルノの製造罪は、最高刑が懲役3年だ。

 複数の機会に数多くの犯行に及んでいたとしても、「併合罪加重」と呼ばれる刑法の規定で1.5倍増しの懲役4年6月までが限界だ。

 この点は、たとえ盗撮の常習犯であっても変わらない。

 元経営者は、自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノに当たる多数の盗撮動画をノートパソコンなどに保管していたものと思われ、児童ポルノ所持罪も成立する。

 それでも、最高刑は懲役1年であり、これを併せて立件したとしても、やはり刑法の規定で先ほどの懲役4年6月は超えられない。

 そこで、盗撮動画を販売したり、インターネット上にアップロードしていないかが問題となる。

 冒頭で挙げた報道によれば、現時点では確認されていないとのことだが、もし不特定の者らに対するこうした事実があれば、児童ポルノ提供罪や公然陳列罪が成立する。

 最高刑は懲役5年なので、製造罪などと併せて立件すれば、先ほどの刑法の規定で1.5倍増しの懲役7年6月が上限となる。

 刑法のわいせつ物頒布罪などの成立も考えられるが、最高刑が懲役2年と児ポ法よりも低く、無視してよいだろう。

 いずれにせよ、販売やネット上への流出などがあれば、児童ポルノを拡散したということで、情状の面でも悪質性が格段に増す。

 逮捕事実以外に何名の被害者を特定でき、何件の製造罪が立件できるか、また、製造した児童ポルノを第三者に提供するなどしていないかが、今後の捜査のポイントとなるだろう。

【カメラに注意】

 カメラはますます小型化・高性能化する一方だ。

 今回のように数多くの女生徒が次々と利用する学校や塾、ショッピングモール、アミューズメントパーク、飲食店などのトイレでは、小型カメラが仕掛けられるケースが後を絶たない。

 特にシャワートイレが設置された洋式個室は、コンセント部分に不審なACアダプター型カメラなどが取り付けられている可能性がある。

 また、エスカレーターや階段での盗撮も同様だが、販売を目的としたプロ集団だと、共犯の女性がカメラの設置や回収、盗撮を担当しており、なかなか検挙に至らない。

 被害者も、まさか後ろに立つ女性がスカートをめくったり盗撮するとは思わず、油断しているからだ。

 特にスマホ画面に夢中で、イヤホンを装着している被害者が狙われやすい。ご注意を。(了)

(参考)

拙稿「教師が学校の教室や更衣室で教え子までも 横行するハレンチな盗撮の『罪と罰』

拙稿「いよいよ罰則の適用がスタートした『児童ポルノ』の単純所持罪で留意すべき点とは