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ノート(71) 全く進展のない犯人隠避事件に対する捜査

前田恒彦元特捜部主任検事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

~達観編(21)

勾留25日目

長居に向けて

 この日は、起訴後、初めてとなる土曜日であり、休日のため、医務の診察や入浴、面会や接見、戸外運動、手紙の発受信、裁判所出廷などがなかった。

 被収容者が居室から出る機会も基本的にないので、平日と比べ、拘置所全体にゆったりとした空気が流れており、各自が読書や書き物をしたり、スピーカーから流れる音楽番組やプロ野球中継を聞くなどして静かに過ごしていた。

 僕は、窓を開けて換気しつつ、朝から一日がかりで、雑巾や竹ぼうき、ちり取りを使い、ほこりや髪の毛などを取り除き、土間、ビニール製の畳、板敷き、トイレ、洗面台、窓などを丹念に拭き清めていった。

 以前の被収容者が壁の隅に鉛筆で書き残してた記号のようなものや、黒いシミ、血でこすったような跡も一つ一つ消していった。

 畳と壁の隙間や畳同士の隙間にビッシリと詰まっていた砂やほこり、チリ紙の破片、何者かのフケや髪の毛なども、便せんの裏表紙に使われていた厚紙を利用し、かき出すようにして取り除いた。

 差し入れられた食料品のプラスチック容器を見ると、商品名などを印刷しているシールが貼られていたことから、これを剥がし、俗に「コロコロ」と呼ばれる粘着テープ代わりとして使った。

 掃除機のない時代に戻ったようだったが、やり方次第で十分に綺麗になるし、身体を動かすことでカロリー消費ができ、達成感も得られ、気分転換にもなった。

 「所内生活のしおり」の中でも整理整頓や掃除が推奨されていたが、何かとストレスが溜まりやすい生活の中で、メンタルヘルスケアにつながる作業でもあったからだ。

 以後、何か心配ごとがあったり、気分が落ち込んだりしたような時には、徹底的に室内の清掃を行い、リフレッシュすることとした。

 逮捕後、取調べや接見などでなかなか時間が取れず、本格的な掃除はこの日が初めてだったが、これで長居の態勢もできた。

進展なし

 そうこうするうちに、大坪さんや佐賀さんらの勾留は既に15日目となっていた。5日後の勾留期限に向け、数日中に最高検の最終決裁が行われ、本来なら、犯人隠避事件の捜査もピークを迎えているはずだった。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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