元特捜部主任検事の被疑者ノート(62) 主任検事が自ら取調べを行うために取調べの担当を交代した実例

(ペイレスイメージズ/アフロ)

~達観編(10)

勾留22日目(続)

【特捜部長の呼び出し】

 前回の連載で取り上げた福島汚職事件では、約40日間でサブコン元会長の取調べ担当をクビになったものの、その途中、伏線として、捜査主任検事が1日だけ東京拘置所にやってきたことがあった。

 自ら元会長の取調べを行うためだった。

 この事件では、いよいよ強制捜査に着手するという前日、特捜部長にわざわざ部長室まで呼び出されていた。

 大阪と比べて組織の規模が大きい東京の特捜部は、ヒラ検事と特捜部長の距離が遠い。

 部長室に入るのは着任時のあいさつ以来だったし、部長とサシで話をするのも特捜部の歓迎会以来だった。

 「僕は君のことをよく知らないんだけど、キャップがぜひ君を、と推しているので、君に身柄を任せることになったんだ。必ず割ってきてくれ」

 向かい合ってソファーに座る部長は、僕にそう言った。

――部長が部下のことをろくに知らないって、無責任な話だな。こっちこそ、部長のことなんかろくに知らないけど

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前田恒彦

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信。唎酒師、日本酒品質鑑定士でもある。