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働き方改革は何を改革するのか~日本型雇用のひずみと未来~

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)
(写真:つのだよしお/アフロ)

1 ご挨拶

 初投稿になります。弁護士の倉重公太朗です。以後宜しくお願い申し上げます。

 私自身は、労働法を専門領域にしておりますが、本連載では、労働法の実務解説ではなく、現在の日本の労働法、引いては日本の雇用社会の問題点について、できる限り分かりやすく語っていければと思っておりますので今後ともお付き合い頂ければ幸いです。

 また、今後のテーマとしては、海外労働法制と日本を比較して、今後の日本が進むべき道やAI・ビックデータの進化がHR(ヒューマンリソース)のあり方をどう変えるのかなど最先端のHRテクノロジーの話などもしていきたいと思っております。

 記念すべき初回は少し大上段に、いま転換点にある日本型雇用の問題点や働き方改革の本質などについて触れてみたいと思います。

2 働き方改革は何を改革するのか

 近時、「働き方改革」という言葉を目にすることが多くなりました。しかし、その意味を正しく理解しているケースは思いの外少ないと感じます。そもそも、働き方改革は、「改革」なので、何か「改革すべき対象」がある筈なのですが、これは何でしょうか。

 一言で言えば、それは、「昭和的働き方(日本型雇用)」を改革するということです。昭和的働き方の特徴は、「家庭のことは奥さんに任せて男性は仕事中心の人生を送る」という典型的モデルに代表される長時間労働、全国転勤、職種無限定のような働き方のことです(その他、企業内組合、終身雇用、年功序列という特徴もある)。

 昭和的な働き方における労働者像は、典型モデルのような男性を中心として、「同じような」(同質性)労働者を集めた集団が日本の「働き方」像でした。とすれば、労働者をマネジメントする側の人事としても、同質性を前提とした一律のマネジメント(例えば、長時間労働に耐えない人は採用しない)で良かったのです。

 しかし、かかる昭和的働き方は限界を迎えています。一番の理由は人口が減って働ける人が減ることが今後確実であるということですが、これに加えて長時間労働による過労死・過労自殺が世間の関心事となり、長時間労働体質自体が変わらなければなりません。 

さらに言えば、ワークライフバランス・副業・個人起業などが推進され、「働く」こと自体に対する価値観が多様化している現代においては、「一律のマネジメント」では対応できないケースが増えています。

 つまり、様々な価値観や「制約」(育児・介護・病気・障害・外国人・高年齢者等)を抱えている人の個々の事情に合わせた多様なマネジメントが必要となるのです。これが政府の掲げる「一億総活躍」政策の理念であり、多様な人材マネジメントを通じて、実施される「従業員価値を最大化するための施策」こそが働き方改革の本質ということになります。

 働き方改革といえば、長時間労働削減・副業問題・育児介護問題など、個別の制度が問題になることが多いのですが、これらは働き方改革の一側面に過ぎません。労働時間を減らすことだけが働き方改革ではないのです。

働き方改革は、「何のためにやっているのか」という本質を忘れてはなりません。

3 現代的な労使関係とは

 「働き方改革」という中では個人と会社との関係も変容するので、集団的労使関係、つまり労働組合や従業員代表のあり方も変わらざるを得ません。

 日本の労働史上では、労使関係が「闘争」の時代が長く続いていました。そして、企業では、「春闘」と言って、毎年何パーセントの賃上げをするか、ボーナスを何ヶ月分支給するかということを「一律に」労働組合と会社が話し合っています。しかし、現代的には会社は倒すべき存在ではありませんし(倒してどうする)、個々人に春闘や賃上げ要求など、「一律」要求を行う時代ではありません。

 先に述べたとおり、「一律」管理の時代ではないのです。経営(人事)の目的は社員のパフォーマンスをいう最大化することにあります。そうであれば、労働者側組織は多様な労働者の意見を吸い上げ、代弁することが役割であり、どちらも「会社を良くする」という目的は共通です。つまり、労使関係は、その立ち位置が違うだけであり、反対の立場ではないのです。

これからの日本の労使関係には提案型・対案提示型の自律的関係が求められているのです。

4 働き方改革は単なるブームであってはならない

 少子高齢化、労働力人口の減少という未来は、もはや確定した「事実」であり、労働法もまた転換期を迎えています。とすれば、これまでの昭和スタイルの働き方は通用しないことは明らかなのです。今の労働法は高度経済成長期に形作られました。当時の常識は終身雇用・年功序列だったので、会社から人を追い出す「解雇」はよほど例外的な場合しか認められませんでした。

 しかし、今後は大企業であっても5年・10年後にはどうなっているか分からない時代です。ましてや新卒の方が定年になる40年後など誰も分かりません。

そうであれば、今後重要になるのは、労働時間が規制される中で個人のスキルアップのための施策を検討し、無駄な業務を無くし、効率化のための投資を惜しまないための努力をし、個人が・部署が・会社が、変化に対応できる力をつけるしかありません。

 また、人材という意味でも、これまで新卒一括採用の壁に阻まれて採用されてこなかった人、社内に居場所がなくなり退職せざるを得なかった人、会社には残ったが戦力にならなかった人といった多様な人材が、社会全体で見たときにはそれぞれの力を発揮するにはどうしたらよいかを国の政策として、企業の人事政策として、本気で検討すべきです。

 日本型雇用はいま正に変革期にあります。その意味で、働き方改革は単なるブームで終わらせてはならず、労働時間を短縮したらそれで終わりではないのです。常に常識を疑い、現状を改善し、より良い職場環境の実現に向けた不断の努力が求められるのです。

単に一時の「風」ではなく、本質的な議論を積み重ねた上に、新しい時代の日本型雇用の未来があるのだと思います。働き方改革により、一つでも多くの企業が、一人でも多くの労働者が相互により良い雇用環境を作り、ひいては日本の雇用環境が新しいものとなっていくことを切に願ってやみません。

 今後、本連載では変わるべき日本型雇用について様々な角度から記してみたいと思います。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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