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新型コロナワクチンは「朝・昼・夕」のどの時間帯に接種すればベストか? 海外の研究

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

現在、再び新型コロナが感染拡大していますが、基礎疾患のない成人の方々は9月以降の「令和5年秋開始接種」で新型コロナワクチンの次回接種が可能となります。さて、ワクチンを接種する時間帯によって、感染予防効果に差があるという研究結果がイスラエルから発表されました。

今後の接種スケジュール

まず今後のワクチンの接種予定をおさらいしておきましょう。

9月に「令和5年秋開始接種」がはじまります(図1)。現在は新型コロナワクチンを接種できない人が多く、夏は自主的な感染予防策を心がけることが重要になります。

図1. 新型コロナワクチンの接種スケジュール(筆者作成)
図1. 新型コロナワクチンの接種スケジュール(筆者作成)

どの時間帯に接種すべきか?

ワクチン接種から時間が経つと効果が薄れてくることは周知のとおりですが、それでもなおメッセンジャーRNAワクチンは高い感染予防効果・重症化予防効果が期待されます。

さて、約152万人のワクチン接種者を対象としたイスラエルの大規模な研究を紹介したいと思います(1)。被験者の99%以上がファイザー社製ワクチンを接種していました。この研究では、ワクチンの効果を突破する「ブレイクスルー感染」の差を、接種した時間帯ごとに観察しました。

結果、昼頃(午前遅め~午後早め)の接種が、新型コロナの感染リスクを最も低くすることが分かりました(図2)。

図2. 感染予防効果低減リスク(参考資料1より引用)
図2. 感染予防効果低減リスク(参考資料1より引用)

しかし、この研究には1つ懸念があって、たとえば夜にワクチンを接種しにくるような人は、そもそも生活リズムが崩れた人が多く、新型コロナに感染しやすいのではないかという意見もあります。

他のワクチンはどうか?

結核を予防するBCGワクチンや、A型肝炎ワクチン、インフルエンザワクチンも早朝に接種したほうが良好な効果が得られるという報告があります(2-4)(図3)。

図3.インフルエンザワクチンの接種時間による抗体価の差(参考資料4より引用)
図3.インフルエンザワクチンの接種時間による抗体価の差(参考資料4より引用)

なぜ時間帯によって差が生じるのか?

時間帯によって免疫応答に差がある理由は、「概日(がいじつ)リズム」と呼ばれる体内時計によるものと考えられます。たとえばヒトには、朝に分泌されやすいホルモン・夜眠る前に分泌されやすいホルモンなど、さまざまな概日リズムが存在します。

さらに、日中の間でも数時間ごとにやってくる「超日(ちょうじつ)リズム」という概念も存在します。バスドライバーを周期的に眠気が襲うのは、このためと考えられています。

このような時間帯における免疫応答の差が、ワクチンの効果に差を生み出しているのではないかと推測されますが、詳しいメカニズムは不明です。

また、日本では北海道大学などの研究グループが「新型コロナワクチンの接種時間は抗体価に影響を与えない」というデータを示しており(5)、今回紹介したイスラエルの研究結果をそのまま日本に外挿できないかもしれません。

まとめ

新型コロナワクチンの接種時間帯によって、感染予防効果に差がみられることがイスラエルの研究で明らかになりました。

しかし、「どの時間帯に接種するか」よりも「接種するかしないか」のほうが主要な命題であり、個人的にはそこまで時間帯にこだわらなくてよいと考えています。

もし、朝・昼・夕のすべての時間帯の接種枠が空いているなら、この研究のことを思い出して、夕方を避けることを検討してもよいかもしれません。

(参考)

(1) Hazan G, et al. J Clin Invest. 2023 Jun 1; 133(11): e167339.

(2) de Bree L, et al. J Clin Invest. 2020 Oct 1;130(10):5603-5617.

(3) Phillips AC, et al. Psychophysiology. 2008 Jul;45(4):663-6.

(4) Long JE, et al. Vaccine. 2016 May 23;34(24):2679-85.

(5) Yamanaka Y, et al. J Biol Rhythms. 2022 Dec;37(6):700-706.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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