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アルコール手指消毒の正しい手順、知っていますか? 見落としがちな場所は

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

新型コロナは、飛沫やエアロゾルだけでなく、手やモノを介した接触感染によって周囲に感染を広げることが分かっています。公共施設や商業施設の入り口には、手指衛生のためのアルコール消毒が設置されています。さて、みなさんは、どのような手順で手指消毒していますか?

新型コロナにおける接触感染

新型コロナの予防では、マスク着用や個人間の距離が重要であることは言うまでもありませんが、特に医療機関においては、感染経路として接触感染を重要視しています。これは、入院患者さんの間を医療従事者が行き来するため、我々がウイルスを直接媒介するわけにはいかないという自戒の意味も込めてです。

仕事場のパソコンや共用の電話を介したクラスターや、遊具やおもちゃなどを介したクラスターもこれまでに報告されており、感染者の体液が付着したモノは、感染を広げるリスクになります。

人は、無意識に眼、鼻、口に触れることが多く、実に1時間あたり23回も触っているというデータがあります(図1)(1)。

図1. (厚労省「接触感染に注意が必要です。 人は、“無意識に”顔を触っています!」 [https://www.mhlw.go.jp/content/000658585.pdf]より使用)
図1. (厚労省「接触感染に注意が必要です。 人は、“無意識に”顔を触っています!」 [https://www.mhlw.go.jp/content/000658585.pdf]より使用)

外出中、手洗いを頻回にする生活は現実的ではありませんので、携帯型のアルコール手指消毒薬を持っていれば、気になる時に消毒することが可能です。

手指消毒は「指先」を優先的に

手指衛生は、石鹸と流水で洗うのが最も確実ですが、目に見える汚れがない(汚物や油、体液などで手が汚染されていない)場合は、アルコール消毒で問題ありません。

ただ、手の平、手の甲、指間などをアルコール消毒している手順中にアルコールが乾いてしまい、指先の消毒が不十分となる可能性が指摘されています。

そのため現在は、もっとも汚染されやすい「指先」を優先的に手指消毒したほうがよいとされています(2)。日本環境感染学会においても、まず「指先」を消毒するよう推奨しています(図2)。すべての手順をできれば20~30秒で終わらせるようにしてください。

図2. 擦式アルコール手指消毒薬による手指消毒の手順(日本環境感染学会教育ツールVer.3.より引用)
図2. 擦式アルコール手指消毒薬による手指消毒の手順(日本環境感染学会教育ツールVer.3.より引用)

指の細菌汚染を測定した研究では、先に指先の消毒を行うほうが、汚染率が有意に低いと報告されています(2,3)。

そのため、「指先は微生物で汚染されやすい」と覚えておくことが重要です。

ディスペンサー式の注意点

足で踏んだり、手を感知してスプレーのように噴霧したりするディスペンサー式のアルコール手指消毒薬の場合、手の広範囲にアルコール消毒薬が広がるので、その後手を擦り合わせる時間を短縮することが可能のように思われます。

しかし、ディスペンサー式の場合であっても、噴霧後にしっかり手を擦り合わせないと効果が低下するという研究があります(4)(図3)。

図3. ディスペンサー式の擦式アルコール手指消毒薬の効果(参考資料4を元に筆者作成)
図3. ディスペンサー式の擦式アルコール手指消毒薬の効果(参考資料4を元に筆者作成)

まとめ

手の平にアルコール消毒薬を噴霧した後、数回だけ手を擦り合わせて終わってしまう人も少なくないと思います。

しかし、重要なのは指先です。ここが汚染されたままだと、手の平を消毒しても意味がありません。指先を消毒した後、しっかり手を擦り合わせるようにしてください。

外出時の手の汚染が気になる人は、普段から携帯型のアルコール消毒薬を持つことをおすすめします。

(参考)

(1) Kwok Y, et al. Am J Infect Control. 2015 Feb;43(2):112-4.

(2) Pires D, et al. Infect Control Hosp Epidemiol. 2017 Feb;38(2):230-233.

(3) Tschudin-Sutter S, et al. Clin Microbiol Infect. 2017 Jun;23(6):409.e1-409.e4.

(4) Tan J, et al. J Hosp Infect. 2020 Apr;104(4):430-434.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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